スケルツォ倶楽部 の メニュー は こちら ⇒ Novel List 
スケルツォ倶楽部”発起人/作 オリジナル・ストーリー
「サンタクロース物語 ~ It’s A Small World ~  」
この物語は、2010年11月30日から同年12月25日に投稿しました、
“スケルツォ倶楽部”発起人.作 の オリジナル連載小説に 手を加えたものです。

► ストーリーを最初から読む

 ダ=ヴィンチ「バプテスマのヨハネ 」 < 30年もここにいたら、地上のニュースを ご存知ないでしょうね

(12) バプテスマのヨハネ 

その頃、あの悪虐のヘロデ王は もうずっと以前に亡くなっており、エルサレムを含む このユダヤ地方一帯も 事実上ローマ帝国の支配する地域となっていました。ヘロデ王の死後、息子たちは 兄弟同士 お互い足を引っ張り合い、そこをつけ込まれては ローマ総督に 次々と滅ぼされてゆきました。生き残ったヘロデ・アンティパスは もはや王ではなく「領主」として狭い地域に君臨するしかありませんでした。
 かつてのヘロデ王の宮殿は、今は このヘロデ・アンティパスの居城となっており、宮殿併設の地下牢もまた 同様でしたが、ニコラウスとイヴリーが それを知る由(よし)もありません。

 ある夏の日、ニコラウスとイヴリーが閉じ込められている隣の獄舎 - 古井戸跡を改築した、あの恐ろしい水牢 - に 初めて若い囚人が送られてきました。その青年は、駱駝の毛衣で出来た修道服のような着物を身につけ 腰を革の帯で締めていました。実際には この30年もの間、隣の水牢へ沈められた囚人などは、この男以前には一人もいなかったので、ニコラウスとイヴリーは たいへん驚きました。
「あいつ、よほどの凶悪犯なのではないか 」
「関わるのは よそう。話しかけるなよ、ニコラウス 」
 しかし、隣の獄舎にいる二人に 青年の方から話しかけてきました。
「こんにちは。お二人は お務めは 長いんですか 」
それは おそろしく良く通る、澄んだ不思議な声でした。なぜでしょう、ささやくように話しているだけなのに 彼の声は 牢の外まで聞こえるのでした。
イヴリーに止められるのも振り払って、白ひげのニコラウスは 青年に 返事をしていました。
「われらは もう30年 服役しています。あなたは どなたですか 」
「私ですか ‐ 」
と、その澄んだ謙虚な声が 静かに 暗い地下牢内に響き渡りました。
「私は、ヨハネと申します。人は“荒野で呼ばわる者の声” だと言います。生まれつき こんなに良く通る声なので 隠しごとが何もできません。いろいろなことがありましたが、ただ正直に 思ったことを口にしただけで、結局 こんな場所へ 送られてしまいました。わが身の不徳を恥じ入るばかりです 」
その時、はるか上の地上にいる番兵が、大声を出すのが聞こえてきました。
「こら、うるさいぞ。牢の者、静まれ 」
「ほらね。こんなに静かに話しているのに 」
ヘロデの宮殿では 今宵 大勢の来客が招かれているらしく、先ほどから かすかに楽の音が この地下まで 聴こえてきました。
「あなたは預言者ですね。どうして こんなところへ入れられるようになったのですか 」
いつのまにか 警戒していたイヴリーも ニコラウスの傍へ寄って来ました。
「ご存知のとおり、預言者とは 神の言葉を“預”かって、神に代わって“言” う者のことです。でも、わたしは不幸なことに 生まれつき“予言” の能力も授かっていたのです。それは 未来の物事が見えてしまうのですよ 」
「不幸なことにですって? 未来がわかるって、それはスゴイじゃないですか 」
「いえ、全然 良くないですよ。本当のことを言っても 誰も喜んでなどくれません。たとえば、この館の 今の領主ヘロデ・アンティパスさまは、本当は気の小さい 臆病なほど信心深い方で、最初はわたしの話を聴きたいとおっしゃって、わざわざ この館に招き、もてなしてくださいました 」
「でも、そのヘロデ・アンティパスに この牢へ入れられたんでしょ? 」
「正確に言うと、お妃のヘローディアスさまの命令でした。わたしには ヘロデ・アンティパスさまがローマ皇帝から ガリア地方に追放され、そこで不幸な最期をお遂げになるという悲惨な未来が見えたのです。その原因を作られるのが、お妃のヘローディアスさまだということも見えました。ですから わたしはヘロデさまに お妃さま とお別れになるべきですと、内緒でご注進申し上げたのです。しかし、この声でしょう。全部お妃さまに聞こえてしまったのですよ。お妃はカンカンにお怒りになられて・・・ このありさまです。ヘロデさまが 恐妻家だったと知ったのも 後の祭り 」
と、ヨハネは ため息をつきました。
「お気の毒に - 」
ニコラウスとイヴリーは 青年を慰めようとしました。しかし、ヨハネは 若さゆえか なかなか元気でした。
「おふたりは 30年間もこちらにいらっしゃるなら、きっと地上のニュースを お聞きでないでしょう 」
たしかに、二人は 地上の出来事の情報に 飢えていました。
「今、外では スゴイことになっていますよ。偉大な方がいらっしゃいます。その方のお力で、目の不自由な人も見えるようになり、足の不自由な人も歩けるようになり、病人も清められ、耳の不自由な人も聞こえるようになり、貧しい者にも福音が宣べ伝えられ、亡くなった人も蘇っているのです。その方に比べれば、わたしなんか ちっぽけな存在ですが、そのお方が この世にいらっしゃる前に 神さまの道を整える仕事を これでも一生懸命していたのですよ 」
それを聞いて、ニコラウスは 30年前 東方の三博士のひとり、カスパール師が語っていたことを まるで昨日の言葉のように思い出していました。
 ―  「そのお方さえいらっしゃれば、この世の中から 争いも病気も貧富の格差も全部なくなる。そして人々は死に別れた親兄弟とも再会して みんなで平和のうちに暮らせるようになる ・・・ 」
ああ、「そのお方」が 遂にいらっしゃったんだ、30年前 ベツレヘムの イヴリーの宿屋の馬小屋でお生まれになられた後、ヘロデ王の 魔手を逃れて無事エジプトへまわられ、そして 今になって このユダヤの地で 福音を宣べ伝えておられるのか - 。神の御子は、間違いなく 地上にいらっしゃるんだ !

 ・・・その時です。
 牢の外から ナーマンという名前の アフリカ出身の大男の役人がヨハネを呼びに訪れました。
「ヨハネ、外へ出ろー 」
「おや、もう釈放ですか 」
「いいから、はやく支度しろー 」
ヨハネは 自分の身体を水中から持ち上げながら、笑顔で二人に言い残しました。
「わたしには あなた方の未来が見えます。もう少しの辛抱です、お二人とも 救い主キリスト・イエスのお力で、間違いなく 牢獄から安全に出してもらえますよ。 ・・・ええと、でも その前に あなた方の 牢獄は別の場所に移りますね。出られるのは その後です。お二人とも 別れたご家族と無事に再会していますよー。それがわたしには見えます 」
ヨハネの予言を聞いて、イヴリーは 彼の息子イエスと妻エリサベトを思い出したのでしょう、心から嬉しそうな顔をしました。ニコラウスも 嬉しい - とは思いましたが、彼の方は すでに30年以上も前に 愛する妻子と死別してしまっていましたから、予言を信じて喜ぶイヴリーの表情を見ると、淋しさを隠せなくなりました。
「・・・ ヨハネさん、気をつけて 」
「これで お別れなんでしょうか、ヨハネさん 」
最後に二人は 元気な預言者に声をかけました。
「いやー、まだまだ頑張りますよ。ただ 残念なことに、わたしは 自分の未来だけは見えないのですよ 」
そう言うと 彼は にこやかに手を振ると、地上へつながる暗い牢道をゆっくりと昇ってゆきました。しかし、その後ろからは、不吉な指輪をはめた黒人の役人が着き添っていたのです。

▶ つづく

カラヴァッジオ「聖マタイの斬首 」(マルタ、バレッタ )
▲ カラヴァッジォ 「洗礼者ヨハネの斬首 」 (マルタ、バレッタ )

- 解説 ―

1.バプテスマのヨハネ - 洗礼者ヨハネとも呼ばれ、キリストが世に現れる前に その道を備える役割を果たした重要な人物です。福音書の伝承によれば、らくだの皮衣を着、腰に革の帯を締め、ヨルダン河畔の「荒野 」で「神の国 」が近づいたことを人々に伝えつつ 悔い改めに至る洗礼を授けていました。“荒野で呼ばわる者の声”とも表現されていました。
 ヨハネヘロデ王の息子でユダヤの領主ヘロデ・アンティパスに捕えられた 史実上の理由は、領主ヘロデが 兄を殺した上 その兄の妻だったヘローディアスと結婚したことをヨハネが不倫であるとして非難したため - ということになっています。自由を奪われたヨハネは、古井戸跡を改築した水牢に長い期間 監禁された後、最期は ヘロデの妃ヘローディアスの要請によって 首を刎ねられてしまいます。

2.ナーマン - アフリカ出身の大男の黒人で、オスカー・ワイルド原作の「サロメ 」に登場する架空の人物です。彼は 死刑を執行する首切り役人で、処刑の命令が下るたびに その印として領主から不吉の指環を与えられ、常にそれを指にはめてから 非情な職務を全うするのでした。

3.洗礼者ヨハネの予知能力 - ヨハネが(自分以外の )あらゆる人の未来の姿が見えてしまう力を身に着けている、という部分は 作者“スケルツォ倶楽部”発起人によるフィクションですが、ストーリーの中で、彼にはイヴリーニコラウスの未来も見えていたのです。なお、領主ヘロデ・アンティパスの悲惨な未来に触れている記事は こちら


↓ 清き一票を
にほんブログ村 音楽ブログ ジャズへ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
blogram投票ボタン
人気ブログランキングへ
Club Scherzo, since 2010.1.30.


関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

トラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)