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スケルツォ倶楽部”発起人/作 オリジナル・ストーリー
「サンタクロース物語 ~ It’s A Small World ~  」
この物語は、2010年11月30日から同年12月25日に投稿しました、
“スケルツォ倶楽部”発起人.作 の オリジナル連載小説に 手を加えたものです。

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 Karajan Salome EMI (2)
(11)ヘロデ宮殿の地下牢へ 

 夜明け前のまだ暗いうち、ニコラウスとイヴリーの二人は ベツレヘムからエルサレムにあるヘロデ王の宮殿まで連行され、そこに併設されている古い地下牢に押し込められました。
 そこは 地下に設(しつら )えられた獄舎でしたが、見上げると天井には 大人の握りこぶしほどの小さな穴がひとつ開けられていました。その窓を通してずっと上空を見上げると、まだ濃い藍色の空に 有明の月が浮いているのを眺めることが出来ました。
 彼らが入れられた獄舎の隣には、さらに一段低くなった古い牢がありました。これを見おろすと、そこはかつて井戸が掘られていた跡であるらしく、床の石畳の代わりに 冷たい水が一面に張られています。これを見て、さすがに二人は震え上がりました。年老いた看守が 鉄格子の鍵を閉めながら言いました、
「おぬしら、おとなしく服役していないと あちらの水牢の獄舎へ移されてしまうぞ。あそこは首まで浸かるほどの深さがあって、冬には水の冷たさももちろんじゃが、何より一番つらいのは まともに眠ることが出来ない ということなんじゃよ 」
二人は もちろん おとなしくしていました。

「そう言えば - 」
と、ニコラウスは 昨晩の あの大騒動が起きる直前に イヴリーに訊こうとしていた肝心の質問を 牢の中で ふと思い出しました。
「馬小屋でお生まれになった神の御子さまは、結局 今 どこにいらっしゃるの ? 」
すると イヴリーは その問いに答える代わりに、突然 ひとり合点がいったように 手を打ちました。
「ああ、そうか! さては ヘロデ王の兵たちは、あの御子さまの命が目的だったんだな。ヘロデ王とローマ兵め、神をも恐れぬ酷いことを思いつくもんだ。間違ってオレんとこのガキの命を狙いやがったり、宿屋を焼きやがったり、ムチャクチャなこと続きで 考えてみる余裕がなかったけど、オレは今 初めて 判ったよ 」
「一体どういうことなんだ? 」
ニコラウスは、未だに 自分たちが逮捕されるきっかけとなった昨晩の大騒ぎの意味がわかっていなかったのです。
「ヘロデの野郎、おおかた新しいユダヤの王さまに 自分の地位を追われるとでも思ったんだろう。肝っ玉の小せえこった。御子さまのご一家なら もうベツレヘムには いらっしゃらねえから大丈夫だ、ざまあみやがれ 」。
「え? 一体 ご一家は 何処に 」
「とっくにエジプトへお逃げになられたのさ 」
「エジプトへ - 」
「お泊りの翌朝になって 急に出立されたんだ。そこはヘロデの支配が届かない地域だよ、さすが神さま。なさることが違うね 」
ニコラウスは ため息をつきました。
( いくらなんでも そんな遠くまで 御子さまを追ってはいけないなあ。第一、肝心の贈り物だって すでに袋ごとローマ兵に焼かれてしまったしなあ・・・ )

 太陽が昇ったようです。
 牢獄は暗く 寒い石畳でしたが、昼の間だけ 天井に開けられた小さな窓から 細い一筋の 暖かい陽の光が射してきます。そこで、二人は交替で わずかな日光を身体に受けるようにしながら、かろうじて暖をとることにしました。
「イヴリーさんの女将(おかみ )さんは、きっとイエス坊やを連れて ローマ兵からは逃げ切れただろうね。あんなに足が速かったから 」
すると、イヴリーは、改めてニコラウスに深くお礼を言いました。
「いや、本当にありがとう。オレの家族が脱出できたとすれば、そりゃまったく あんた、ニコラウスさんのおかげだよ。うちのおっかあ - エリサベトは動作だけは すばしっこくて足も速いから あの状況なら間違いなく助かっていると思う。でも 申し訳ないのは、ニコラウスさん、あんたに あれほどの大金を散財させちまったっていうことだ - 」
ニコラウスは 気にするな、と言わんばかりに 牢の暗闇の中で小さく両手を振りました。
「いや・・・本当はね、私は つい先月 自分の子ども - カルロス - の命を助けることが出来ず、病気で死なせてしまったばかりだったんだ。その子は 偶然 イヴリーさんとこの坊や“イエスちゃん”と同い年だったから、昨晩は 何だか 失った自分の子を助けてあげるチャンスを 神さまから貰えたような気になっていたんだよ。だから イヴリーさん、きみの“イエスちゃん”を助けてあげられたことが、まるで自分のことのように うれしいんだ 」
「・・・そうだったのか。お子さん 亡くされた時は、さぞ辛かったろうなあ、ニコラウスさん 」
と、イヴリーは 声をひそめると、ひとつ不思議なことを語りました。
「あんたとオレたちにゃ 不思議な縁(えにし)があるようだよ。実は、御子のご一家がエジプトを目指して急に出立されることになった その朝、聖母マリアさまが オレだけに そっと こうおっしゃったのさ、『イヴリーさん、今日から八日目の午後、あなたは 村はずれの高いイチジクの木の下に ひとりの男の人が倒れているのを見つけるでしょう。その人をどうか助けてやってください、そして あなたたちもまた 救われてください 』ってね 」
ニコラウスは、思わずイヴリーの顔をじっと見つめて言いました、
「そうだったのか 」。
イヴリーは そんなニコラウスを軽く指差すと ニッコリ笑いました。



・・・ さて、それから この「物語 」は、 30年以上も時間が経過することになります。 



 かくも長き間、二人は牢獄の底で 誰からも忘れ去られてしまったかのように、無為に過ごすことになりましたが、二人とも丈夫で頑健な身体でしたので 囚人に課せられる厳しい重労働にもよく耐え、地底で生き延びました。特にニコラウスは 手先が器用であることが幸いして便利がられ、獄舎で細かい作業を手伝わされることが多くなりました。
 今や すっかり白いひげが豊かに伸びたニコラウスが、この地下の獄舎の中で 30年間 片時も忘れることのなかったことが 二つありました。そのひとつは、心から愛していた妻子マルタとカルロスのこと、そして もうひとつが かつて贈り物を渡すことが出来なかった “神の御子”に いつの日か 一目 あいまみえて お詫びの言葉を一言申し上げなければ、という そんな ささやかな願いでした。

▶ つづく

- 解説 ―


1.ヘロデ王の追及を逃れてエジプトへ発つ聖家族を見送るイヴリーとエリザベト夫婦に対し、去りゆく聖母マリアが ひとつの予言を残していました。
「今日から八日目の午後、村はずれのイチジクの木の下で倒れている男の人を助けてあげてください。そして あなたたちもまた 救われてください 」 - その男とは まさにニコラウスのことを指していたのです。そして もしニコラウスがいなければ、イヴリーの妻エリザベトとその子イエスとは ヘロデ王に遣わされた兵士たちの襲撃から逃れられなかったかもしれないのです。
 そうです、彼らは 偶然出会ったわけではなかったのです。神の意志によって引き合わされたのでした。

2.「30年経過 」 - このストーリー構成上の弱点は 正直 この部分であると自覚しています。しかし物語の構成上、どうしてもキリストの成長を待たなければなりませんでした、またニコラウスにも 少なくともラストシーンでは 豊かな白いひげ が必要だったのです。
 ですから「かくも長き間 」、主人公のニコラウスとイヴリーを牢獄の底に無為に置くことは 不本意ではありましたが、30年の時間経過は 絶対に必要で やむを得ぬ措置でした。



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