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スケルツォ倶楽部”発起人/作 オリジナル・ストーリー
「サンタクロース物語 ~ It’s A Small World ~  」
この物語は、2010年11月30日から同年12月25日に投稿しました、
“スケルツォ倶楽部”発起人.作 の オリジナル連載小説に 手を加えたものです。

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山下達郎_クリスマス・イヴ [Single, Maxi ]
(10)小さな世界、炎上  

 「そいつらを 逃がすな! 」
と、近衛隊長ロンギヌスが叫びました。
一足先に外へ出ていたイヴリーは、
「おっかあ、オレたちのイエスを頼んだぞ。さあ、全速力で走れ 」
と 妻エリサベトに 夫婦の子どもを託しました。エリサベトは 一瞬ためらう表情を見せましたが、その後ろから ニコラウスが 早口で、
「エリサベトさん、オレたちが ここで少しでも食い止めてるから、その間に 坊やだけでも 貴女が守んなきゃ 」
と諭すのを聞くやいなや、意を決したように 夫婦の 2歳になる息子イエスを抱えると 夜の真っ暗闇の中へその身を溶かすように駈け出して行きました。
 彼女が走り去ってゆくその方角は、お見事 ! 高いイチジクの大木とは反対の方向でした。

 イヴリーは 囲炉裏の火掻棒を右手に 薪を左手に構え、ニコラウスも 大きな贈り物の袋をぶんぶん振りまわしながら、エリサベトを追いかけようとするローマ兵の行く手を必死に遮(さえぎ )ろうとしました。
「コラ、貴様ら 邪魔をするな 」
ヘロデの兵たちが 一斉に剣を抜いたので、ニコラウスは身の危険を感じました。

 その時です、宿屋の中に隠れていた二人のユダヤ兵も 外へ飛び出してきました。しかし何ということでしょう - 彼らは自分たちが逃げるために イヴリーの宿屋に放火して出てきたのでした。イヴリーは、絶望的な声を上げました。
「あーっ、オレの宿が・・・ 」
二人のユダヤ兵は、大広間にあった囲炉裏の薪に 宿の灯りに使っていた油の備蓄など 燃料のすべてをぶち込んで、そこに火を投じたのでした。彼らはロンギヌスとローマ兵たちの姿を見ると、エリサベトが駆け去った方角とは逆の方向へ 全速力で逃げだしました。
「あの二人は許しがたい脱走兵だ、捕らえた上で 収賄、命令違反、民家放火の疑いで軍法会議にかけねばならぬ、だが もし抵抗するなら 討ち取ってしまえ 」
と、走り去るユダヤ兵を指差しながら ロンギヌスが鋭く叫びました。そしてローマ兵十人ほどが追跡するうしろ姿を眺めながら、
「だから ユダヤ兵には信頼が置けないと思っていたんだ 」
と、言い捨てました。その一方、ニコラウスとイヴリーを指して、
「この民間人2名は、決して殺してはならぬぞ 」
と言って 残りの兵の気勢を制しました。
「そのような命令は 受けておらぬからな。我々は ヘロデ王の宮殿警護のために出向してはいるものの、常に規律を守るローマ帝国の軍隊だ。命令以外の不要な殺生は厳禁である。けれど、この者たちは 権威あるヘロデ王の兵に贈賄行為を働いた。そして公務執行妨害の現行犯でもある。殺さずに 捕縛しろ 」
ニコラウスは、イヴリーと一緒に あっけなく逮捕されてしまいました。東方の三博士の委嘱を受けて 一生懸命作った御子への贈り物も、 袋ごと ローマ兵に没収されました。
「た、頼む。それだけは 返してくれ 」
「ダメだ。この怪しい袋は 炎の中へ投じる 」
ロンギヌスは 両手で抱えた「イッツ’ア・スモール・ワールド 」の袋を放り投げました。
「わー、やめてくれーっ 」 
宿屋は、ずっと降り続いている雨で建物全体が濡れているのにもかかわらず 備蓄燃料に引火したためか、いまや 猛烈な紅蓮の炎とともに 天高く燃え上がっています。
 ニコラウスの労作だった 救いの御子への贈り物は、まず 炎の中で 白い袋が灰に変わると、次に その中身が 美しい姿を 顕(あら )わにしました。 - 木彫りの鳥、あらゆる動物たち、あらゆる魚、あらゆる昆虫、あらゆる草木や花、身の回り道具のミニチュア、日常生活用具、武具・武器類、あらゆる建物の小さな模型、そして あらゆる立場の人々や職業の人形たち - その一つ一つのおもちゃは 炎に照らされて一瞬それぞれが明るく輝きましたが、次の瞬間には 激しい熱と高温によって 全部固まって真っ黒な塊へと縮んでゆくのが見えました。
「あ、ああ、神の御子に捧げる 小さな世界が、燃え尽きてしまった・・・ 」
 ニコラウスは またもや 気が遠くなりかけました。
 イヴリーも 自分の宿屋が焼かれてしまった虚脱感から もはや 立っていられないありさまでした。
 二人は ヘロデ王の兵士らに両手を縛られたまま その場に両膝を着き、炎の中から周囲に吹き出している大量の煙が目にしみて涙となって流れ、その降りしきる雨は ・・・夜更け過ぎに 雪へと変わる - でしょうか。

▶ つづく

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