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スケルツォ倶楽部”発起人/作 オリジナル・ストーリー
「サンタクロース物語 ~ It’s A Small World ~  」
この物語は、2010年11月30日から同年12月25日に投稿しました、
“スケルツォ倶楽部”発起人.作 の オリジナル連載小説に 手を加えたものです。

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James Taylor at Christmas_0001
(8)御子が ここでお生まれに ! 

 ヘロデ王に幼児虐殺の命令を受けた近衛隊長ロンギヌスは、王宮守備の近衛百人隊を二つに分けて そのうち半分を王宮に残留させ、残り半分を自身で率いて 夕刻エルサレムを出発、この冷たい雨の中 ベツレヘムに到着しました。
 ロンギヌスは、彼と同国人であるローマ出身兵の規律には信頼を置いていましたが、過半数を占めるユダヤ人の兵が 果たして この残酷な任務を全う出来るか、些かの疑念を抱いていました。それほどまでに、ヘロデ王の今回の指令が過酷な要請であることを、隊長ロンギヌス自身も 十分感じていました。
 村に入るとロンギヌスは、隊の兵士を 大きなイチジクの木の下に集合させると、そこで一旦小休止を告げ 全員に一杯だけ強い酒を配りました。これは兵の身体を温めるだけでなく、実は 正常な神経を麻痺させる効果もありました。
 その間、総督が属州への課税計画を目的に占領下の全土で作成し終えたばかりの正確な戸籍調査結果から ベツレヘム村内の二歳以下の男子がいる世帯の一覧表26軒の写しを広げながら、ロンギヌスは任務の段取りを確認しました。兵の人数は ローマ兵25名、ユダヤ兵27名でしたから、それぞれを各一名ずつ二人一組にして26軒の世帯すべてを 一気に訪問(襲撃 )することを全員に通達し、配置に就かせようとしました。その時、
「隊長 」
と、二人のユダヤ兵が手を挙げました。
「何だ 」
「ローマ兵の人数が足りないので、自分たち二名は、余りました 」
「ローマ兵と組めなければ 幼児一人討ち損じるというわけでもあるまい 」
と、強い酒に酩酊したローマ兵たちは笑いました。
「静かにしろ、そこは お前たちユダヤ兵二人で一組になればよい 」
ロンギヌスは 心の中で舌打ちしましたが、
「そうすれば全部で26組だ。対象となる26軒を 効率的に一斉襲撃できるだろう 」
と、些かの疑念を振り払いながら 手短に指示しました。
「任務にかかれ、速やかに。そして完了したら、全員この場に戻ってくるんだ 」


 ・・・さて、その頃 宿屋の広間に設(しつら )えられた 大きな囲炉裏に放り込まれた薪が赤々と燃え上がる音を聞きながら、主人イヴリーとエリサベト夫妻が用意してくれた 暖かい食事で満腹になったニコラウスは、ようやく人心地がついたところでした。彼の足元では 宿屋の主人夫婦の二歳になるイエス坊やが ニコラウスの袋のおもちゃで 無心に遊び続けています。
 行き届いた給仕をしてくれた女将エリサベトが勧める食後のお茶の香りを楽しみながら、ニコラウスはイヴリー夫婦に尋ねてみました。
「もし知っていたら 教えてほしいんですが。このベツレヘムの村に 王族か貴族の屋敷はないですか。七日前、そこで神の御子がお生まれになった筈なんです。この袋のおもちゃは 実は その御子にお祝いとして渡すことになっているんです 」
「ニコラウスさんって、行商の おもちゃ屋さんじゃなかったのね 」
と、エリサベト。夫のイヴリーは、お茶の入ったカップに口をつけながら ニコラウスに逆に質問しました。
「ニコラウスさん、あなたはどうして その“神の御子”が、王族とか貴族の家に生まれたと思っているの? 」
・・・ それは、東方の博士の一人メルヒオールがそう言っていたから - というだけで、実は根拠があるわけではなかったので、これにはニコラウスも少し狼狽しました。
「え、そうだなー・・・ そういう偉大な人っていうのは ホラ、やっぱり ある程度 地位の高い家柄に お生まれになるものじゃないの? 」
ちっちっちっと、小さく舌打ちをしながら イヴリーは、一瞬 妻のエリサベトと顔を見合わせてから 声をひそめ、ニコラウスに そっとささやきました。
「その“御子” 様は お偉い貴族の家になんざ生まれてないんだぜ 」
ニコラウスは 驚きます。
「え、イヴリーさん、御子を知っているんですか? 」
「ああ、聞いて驚くなよ、その赤ん坊は 神の子にして、ナザレから来た大工の倅(せがれ )なんだ。つい一週間前、うちの宿へおいでになったのさ。名前だって知ってるよ、偶然 うちの子どもと同じだったから忘れっこないさ、“ イエス ”ちゃん というんだよ」
ニコラウスは、血管が切れそうになりました。
「御子が、ここの ・・・イヴリーさんの この宿屋にお泊りになられたって? 」
エリサベトが口をはさみました。
「アンタ、話しておいた方がいいんじゃない? 馬小屋に泊めたってことを・・・ 」
ニコラウスの手から、今度は お茶のカップが落ちました。
「か、神の御子を 馬小屋に 押し込めただと! 何ということを 」
ニコラウスの剣幕に、あわてて イヴリーは釈明を始めました。
「いや、よく聞いてくれよ、ニコラウスさん。御子さまのご両親は高貴でもない、見た目にも 格別 変わった所もない、ごく普通の庶民なのさ。ナザレの大工の夫婦だっていうしよ、まさか ユダヤの王になろうという 神の御子をお生みになろうっていうお方だなんて、そんなの 誰にもわかりゃしなかったんだから、ホントだよ。だから オレたちも 特別扱いなんて出来なかったんだよ 」
神の御子は、自分たちと同じ 貧しい庶民層から お生まれになったのか・・・ と、ニコラウスは意外でした。
イヴリーは 饒舌に 説明を続けます。
「それに 先週辺りは、ほら ローマの戸籍調査のピークだっただろう、都エルサレムはもちろん こんな郊外のベツレヘムにまで 旅行者が溢れていたのさ。お二人は 夜になってから やっとこのベツレヘムに入ったらしく、もうどこの部屋も先客で全部ふさがっちまって、このホールだって床に寝てる人で一杯だったのさ 」
妻のエリサベトが 話を引き継ぎます。
「信じろって言っても、今日の宿屋の この閑古鳥状態を見たらニコラウスさんには想像もできないでしょうけどね、でも本当だったのよ。その夜は もう一組の家族でさえ 詰めて入れるような隙間もなかったの。でも 明らかに奥さんは 臨月を迎えていたし とても苦しそうだった。わたしもつい2年前に この子を産んだばかりだから、お産の大変さは知ってる。その時 馬小屋があるって、思いついたのは 実は 私。ふわふわの藁もいっぱい敷いてあるし、うちのおとなしい馬たちが周りに立ってて隙間風除けにもなるしで、ホント意外に暖かいんだよー。だから そこに居場所をつくってあげて 近所から産婆さんも呼んで来たってわけさ 」
状況は理解したものの ニコラウスは ふと疑問を感じました。
「イヴリーさんたちは どうして 馬小屋に泊めた夫婦が“神の御子”を生むって 知ったんです? 」
「よく訊いてくれた、そこが不思議なところだよ。出産の時刻は もう夜中だったが、その頃になると どこから現われたのか 羊飼いたちが ぞろぞろ祝いに訪れたんだ。それだけじゃねえよ、王様みてえな豪奢な なりをした 三人のアラビア人が駱駝に乗って お供まで引き連れてやってきてさ、うちの宿屋の前で ぴたりと止まったんだ。あれには驚いたね。それで そいつら みんな異口同音に『 ユダヤの王となられる 神の御子の誕生を 祝福しにまいりました 』だって - 」
「そ、そいつらって 一人は若くて、一人は年寄り、もう一人は無口な - 」
「おお そうそう、詳しいねえ。ニコラウスさん 知ってる人なの 」
間違いありません、東方の三博士です。
「彼らが オレのクライアントなんだ! 」
興奮したニコラウスは、今や 彼が最も聴きたかったことを 尋ねました。
「・・・で、肝心の“イエス”ちゃん と名付けられた その御子様は、今 一体 どこにいらっしゃるの ? 」
 その瞬間です。宿屋の入口のドアを ノックもせずに 二人の武装した兵卒が上がり込んできました。兵士の一人が暗い声で言いました。
「 われらは ヘロデ王の命令によって来た。この家の長男 イエスとはその子だな。こちらへ渡してもらいたい」
「お泊りじゃないのかい 」
とイヴリーが立ち上がりかけましたが、兵士の異様な気配に不安を感じたエリサベトは夫を制し、おもちゃで遊んでいたわが子を無言で抱き上げると、その胸にしっかりと抱きかかえました。

- つづく - 


- 解説 ―
1.クリスマスの夜の物語 - その晩 聖母マリアがキリストを産んだ場所は、イヴリーとエリザベト夫婦の旅宿に併設された馬小屋だったことがわかります。ローマ帝国の戸籍調査命令のため エルサレム周辺の町や村は故郷に戻って籍を登録する旅行者で溢れかえり、臨月のマリアを連れたヨセフらがベツレヘムに入った時刻には 泊まれる宿屋はどこにもなく、困り果てる若い大工の夫婦に せめて温かい馬小屋でよければどうぞ、と声をかけたのがエリザベトだったのでした。
 その馬屋で ついに聖母マリアが神の子イエスを産むと、間髪を入れず - まるでラクダにGPSでも搭載していたかのように(笑 ) - 宿屋の場所を正確に突きとめた東方三博士の一行によって イヴリーとエリザベトは 大工の妻マリアの産んだばかりの赤ん坊が、実は 神の御子であるという真実を知るのでした。


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