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スケルツォ倶楽部”発起人/作 オリジナル・ストーリー
「サンタクロース物語 ~ It’s A Small World ~  」
この物語は、2010年11月30日から同年12月25日に投稿しました、
“スケルツォ倶楽部”発起人.作 の オリジナル連載小説に 手を加えたものです。

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 The Singers Unlimited_Christmas(MPS)
(7)イヴリーの旅宿にて 

 その頃、おもちゃの大きな袋を担ぎながら走り続けたニコラウスは、やっとの思いで ベツレヘムの村へと到着していました。
 ニコラウスが暮らしていたエリコの町から エルサレム・ベツレヘム方面へ向かう街道は 心臓破りの長い登り坂でした。20km以上の距離を ここまで全力で走ってきたニコラウスは、皆さんもご記憶のとおり この六日間ずっと水以外食事を摂らずに働き続けでしたから、たとえ昨日(きのう )一日寝(やす )んだとは言え、何も食べていない彼の体力は もはや限界でした。
 空腹のあまり ニコラウスは 街道沿いに立つ 高いイチジクの木の下で 遂に倒れ、そのまま気を失ってしまいました。
 その直後、降りはじめた冷たい雨は、イチジクの葉を真っ先に濡らしました。


 ・・・ なぜか煙突の中に身体が詰まって抜けられない という悪夢からニコラウスが目覚めると、暖かい部屋の長椅子の上で寝かされている自分に気づいて はっとしました。木の下で気絶してしまった彼を 親切な人が この場所まで運んでくれたのです。
「ああ、この人 大丈夫なようだぞ。おっかあ、良かったなあ 」
それは 傍らに立つ親切な若い夫婦 - イヴリーとエリサベトの二人 - で、彼らは顔を見合わせて安心したように笑いました。
 ニコラウスは、まだ自分自身の状況が理解できませんでしたが、さきほどまで ずっと握っていたつもりだった大事な贈り物の袋の紐が 手から離れていることに気づいて、まず そのことに狼狽しました。
「あ、袋は ? おもちゃの袋は どこにありますか ? 」
「安心しなよ、旅のお人。ちゃんと あんたのお荷物は そこの囲炉裏端に置いてあるからよ。あんた、おもちゃの行商人かい 」
「まあ、そんなようなもので・・・ ともかくありがとうございます。助けてくださったんですね 」
ニコラウスは 上半身を起こしてみました、でも 相変らず 空腹のため 頭はふらふらです。
 周囲をゆっくり見回すと、ここは どうやら旅宿の大広間のようで、その広い部屋の中央には 不自然なほど大きな囲炉裏があり、積まれた薪に大きく炎が燃え上がりながらロビー全体を暖めていました。
もはや とっぷりと夜も更けてしまっていたようです。
「今夜は 相当冷えこむらしいから、こんな雨の中で あんた、もし あのまま倒れていたら きっと命を落としたね 」
宿屋の主人イヴリーは精悍な男で、囲炉裏に近づくと 燃え上がる薪を火掻棒でかき回しながら、
「雨は 夜更けすぎに 雪へと変わるだろう 」
と、つぶやくと 厨房の方へ歩いて行きました。
屋根を強く叩く雨音は この室内まで聞こえています。今や 神の御子 を探し当てるための たった一つの手がかりだった“メシアの星”を 夜空に探すことも、こんな天気の今宵には もはや不可能でしょう。ニコラウスは 溜め息をつきました。
 イヴリーの妻エリサベトは 動作が俊敏で賢そうな若い女性で、 彼女が この宿屋の女将(おかみ )でした。
 彼女の優しそうな微笑の視線を追ってゆくと、その先には 囲炉裏端に置かれたニコラウスの袋の口が解け、中から溢れ出したおもちゃで嬉しそうに遊ぶ 幼い男の子の姿がありました。この夫婦の子どもです。
「あ、ごめんね。お客さんの大事な持ち物で うちの子が勝手に遊んじまって 」
と、しかし さほど悪びれずに エリサベトが謝りました。
「気にしない 気にしない 」と手を振りながら ニコラウスも 笑顔で長椅子に座りなおすと、男の子の名まえを 母親に尋ねました。
「イエスっていうのよ、ありふれた名でしょ 」
母エリサベトが答えます。 ・・・ この “イエス Jesus ”という名前は、この当時 ユダヤの地域では よくある、どちらかと言えば 平凡な名前のひとつでした。
ニコラウスは 今度は その幼い子どもに 優しく声をかけました。
「イエスちゃん、いくつになったの? 」
「ふたっちゅ 」
男の子は上機嫌で 二本指を立てて見せます。
 ああ・・・ この子は ニコラウスの亡くした子 カルロスと同じ年齢だったのです、「そうだ、このくらいの年格好だった・・・ 」、「カルロスが生きていれば 同い年なんだな -  」と、彼は心の中で わが子の表情や仕草を思い出すと、一瞬 目頭を熱くしました。

 その時、奥の厨房から出てきた主人イヴリーが 声をかけました。
「旅のおもちゃ屋さん、今夜のお客は あんただけだ。さあ 晩ごはんの支度ができたよ! 」
ニコラウスが興奮したのは 言うまでもありません。
「晩ごはん ! お願いします、ぜひ。実は この一週間、私は何も食べていなかったんです 」。

- つづく - 


- 解説 ―
樅の木の頂上に星をつけたいサンタクロース
▲ 1.気絶したニコラウスが見た悪夢「煙突に身体が詰まって抜けられない 」姿 - とは、ニコラウスの 将来の 約束された幸福な姿を暗示しています。

ベルク「ヴァイオリン協奏曲」(ストリックランド指揮ウィーン・プロ・ムジカ交響楽団 1953年VOX Elisabeth Schwarzkopf
▲ 2.イヴリーエリザベト の名前 - 空腹で行き倒れになったニコラウスのことを助ける重要人物、旅宿の主人夫婦の名前は、“スケルツォ倶楽部”発起人 が尊敬する イスラエルのヴァイオリニスト イヴリー・ギトリス、同様にドイツの名ソプラノ歌手 エリーザベト・シュヴァルツコップフの それぞれファースト・ネームをお借りしました。

山下達郎_クリスマス・イヴ [Single, Maxi ]
▲ 3.宿屋の主人イヴリーが 囲炉裏(いろり )の薪を火掻棒でかき回しながら ふとつぶやく独り言が 山下達郎氏の名曲「クリスマス・イヴ 」の歌い出しである、と解る人には すぐピンときたでしょうね。

4.イエスちゃん - イヴリーエリザベトの 幼い一人息子の名前は、奇しくも救世主キリストの名前と同じ。紛(まぎ )らわしくてスミマセン。これには 実は意味があるのですが、それはストーリーの最後近くで わかります。
 また、この「イエスちゃん 」は ニコラウスの失われた息子カルロスと同い年だったのです。これによって ニコラウスは他人(ひと )の子も わが子と同じように愛おしく感じ、この後 イヴリーの家族に危険が迫った時、これを助けようと必死になるのでした。


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