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スケルツォ倶楽部”発起人/作 の オリジナル・ストーリー
「サンタクロース物語 ~ It’s A Small World ~  」
この物語は、2010年11月30日から同年12月25日に投稿しました、
“スケルツォ倶楽部”発起人.作 の オリジナル連載小説に 手を加えたものです。


 ラファエロ「小椅子の聖母子」
(1)木工職人 ニコラウス 

 この物語は、キリストが お生まれになる 少し前から始まります。
 ユダヤの国の都 エルサレム から東へ20kmほど離れた町エリコに、ニコラウス という30歳になる 頑健な体格の木工職人が住んでいました。暮らし向きは質素でしたが、彼の仕事ぶりは その腕の良さで評判でした。
 大工が新しく家を建てる時など、ニコラウスには工事の親方から必ず声がかかり、その家の建具や窓の枠などをこしらえたり 玄関や暖炉の周りを飾る細かい装飾部分を巧みに彫ったりする - そんな手先の器用な細かい仕事を 次々と素早く丁寧にこなしては、その見事な出来ばえに対する称賛の言葉とともに 感謝の報酬を 依頼元の大工や顧客から得ては、また新たな注文をもらうことになるのでした。そんな時でも ニコラウスは 決して 軽薄に舞い上がるようなことはなく、逆に ぐーっと 気持ちを引き締め 自然に深呼吸してから 頭を下げるのでした。大事な仕事を任された時、彼は いつもそうしているのです。

 ニコラウスには マルタという、夫と同じように働き者の美しい妻がいました。ただひとつ気の毒なのは、彼女は幼い頃に患った病気のため左足の自由が利かず、その片足を引きずるようにして歩かなければならなかったことです。しかし明るく元気な人柄だったので、ニコラウスだけでなくエリコの町の誰からも愛されていました。
 そんな夫婦に、待ちに待った 子どもが授かることが判りました。
 ニコラウスはたいへん喜び、生まれてくる わが子のために器用な手先で動物や鳥などのおもちゃを 得意の木彫りで作り始めました。
「あなた、生まれてきても 赤ちゃんが手遊びをおぼえるまでには まだ早いと思うわよ」
と、妻のマルタが毛糸で産着を編みながら 夫につっこみを入れます。
「ホーホーホー、いいじゃないか、オレには こんなことくらいしか出来ないんだから、やらせてくれよ」
ニコラウスは陽気に笑い声を上げ、その働く手を止めようとはしませんでした。マルタも思わず 微笑み返しました。
「きっと元気な男の子だと思うんだなあ 」
「今から 名前を考えておこうよ、何という名が良いかなー 」
「そうね・・・カルロスなんてどうかしら。お父さんに似て お仕事の才能が授かりますようにって 」
「カルロス坊やか。良い響きだな 」

 ・・・ しかし 喜びの到来するはずだった夫婦に 悲劇が訪れました。ニコラウスの妻マルタの体力では 出産に耐えることが出来なかったのです。彼女は 元気な男の子を生みましたが、自分自身は激しい衰弱から死に瀕し、
「あなた、ごめんなさい。坊やを - カルロスを - どうかお願いします 」
と、愛する夫に子どものことを託しながら 静かに息を引き取りました。
「安心しろ。オレがカルロスを立派に育ててやる 」
ニコラウスも大粒の涙を流し、冷たくなった妻の手を握りながら、固く約束しました。

 妻に先立たれたからといって 悲しんでばかりもいられません。男やもめになったニコラウスが一生懸命仕事に励む 昼の間、親切な近所の人たちが 交替で 生まれたばかりのカルロス坊やの面倒を見てくれました。おかげでニコラウスは どれだけ安心して仕事に精を出すことができたことでしょう。彼は、仕事場から帰ってきてから わが子の笑顔を見るのが 何よりの楽しみになりました。

 やがてカルロス坊やも 2歳の誕生日を迎える頃には もう片言でしゃべれるようになりました。
 坊やが 最初におぼえた言葉
- それは、「パパ 」、 そして「おかえりなさい 」の 二言でした。
 いつも夕方 帰宅する父ニコラウスを よちよちと出迎えてくれるカルロスの可愛らしい小さな口から この二つの言葉が発せられるのを聞くたびに、彼は たとえ外でどんなに大変なことがあっても あらゆる疲れのすべてが吹っ飛んでしまうような気がするのでした。
 幼いカルロスを抱き上げながら、彼は 心の中で亡き妻マルタに心からの感謝の言葉をつぶやくのでした - 「ありがとうよ、マルタ。カルロス坊やは、お前がオレにくれた最高の贈り物だなあ 」。

 その年の秋、エリコの町では風邪が大流行していました。薬も注射もなく 衛生状態も良くない当時のこと、体力の衰えた老人や免疫力の低い子どもたちが真っ先に感染しては、次々と亡くなっていきました。ニコラウスの大事なカルロス坊やも この悪性の風邪に罹(かか )ってしまいました。
 ニコラウスは全ての仕事を休んで 大事な息子の枕元で必死に看病しました。日頃から世話になっている近所の人たちも 入れ替わり立ち替わり訪れては 何か手伝うことはないか、と 親子を心配してくれました。

 ・・・ しかし、あまりにもあっけなく カルロス坊やの幼い命の灯は消えてしまいました。
 ニコラウスは、両眼を涙で腫らしながら 亡き妻に謝りました。
「マルタ・・・ すまない。オレには カルロスを助けることが出来なかった・・・」

 愛妻に続いて、愛しい息子までも奪われたニコラウスは、生きる気力を失いました。
 すべてに絶望してしまったかのように仕事も手につかず、かつてカルロス坊やのために自分で彫った木製のおもちゃを弄(もてあそ )びながら 独り 椅子に座ったまま 日が沈むまで放心したように 毎日ぼんやりと過ごしていました。

   ぼくの名前を 覚えていてくれるだろうか
   もし天国で 君に会えたなら
   何も変わらずに いてくれるだろうか
   もし天国で 君に会えたなら

   ぼくの手を 握ってくれるだろうか
   もし天国で 君に会えたなら
   ぼくを 支えてくれるだろうか
   もし天国で 君に会えたなら

 ・・・このままではいけない、と周囲の人々も心配し始めました。新しく若いお嫁さんをニコラウスに世話しようと近所の親しい人が訪れたりましたが、ニコラウス本人は もはや生気の失せた目で 首を横に振るばかりでした。

 ある日、そんなニコラウスのところへ 以前から親しい大工の親方が、珍しい仕事の話を持ってきました。
「すごく遠い東の国から旅してきた 三人の占星術の先生が、エリコの東部に 今 滞在しているんだが、彼らは子どもが遊べる木製のおもちゃを必要としていて、希望どおりに作れる腕のいい職人を 探しているそうなんだ」
木製のおもちゃ 」 - と聞いて、初めてニコラウスは 顔を上げました。
「おもちゃを 一体 何に使おうというのでしょう 」
大工の親方は 腰を上げながら答えました。
「さあ、知らねえなあ。だがニコラウスよ、もしお前が引き受ける気があるなら、その星の先生たちの滞在先を教えてやろう 」 

 - つづく - 



- 解説 ―
1.主人公ニコラウスの職業 - 木工職人 - は、大工が家を新しく建てる時には必ず呼ばれて仕事を請け負う立場。腕の良い職人だったニコラウスは、依頼元の大工から大きな信頼を受けています。
 思い出してください、聖母マリアの夫ヨセフの職業は大工で、キリストご自身もまた 布教活動に入られるまでは 大工の見習いでいらっしゃったことを。

マルタ・アルゲリッチ
▲ 2.ニコラウスの愛妻の名前 - マルタ - とは、作者 “スケルツォ倶楽部”発起人が敬慕するピアニストの名前、マルタ・アルゲリッチから拝借したもの、この名を選んだことに深い意味はありません。

Carlos kleiber
▲ 3.ニコラウスマルタに授かった男の子に付けた名まえ - カルロス - とは、やはり“スケルツォ倶楽部”発起人が好む カリスマ指揮者カルロス・クライバーから拝借したもの。マルタの台詞「お父さんに似て お仕事の才能が授かりますように 」とは、音楽ファンの方ならお察しのとおり、そのカルロス・クライバーの父が 偉大なエーリヒ・クライバーだったということに拠りますが、これも物語の本筋とは特に関係ありません。

4.カルロス坊やが 最初におぼえた言葉 - 「パパ 」、「おかえりなさい 」とは、父ニコラウスが 最愛の家庭に帰る というキーワードそのものであり、それこそが この物語の隠されたテーマのひとつ「父の帰還 」です。

Eric Clapton Unplugged
▲ 5. 文中に引用した歌詞の一部は、エリック・クラプトンの名曲「ティアーズ・イン・ヘヴン 」Tears In Heaven(1992年発表 )から。この歌は、幼くして先立った息子のことを悼む クラプトンの慟哭として知られ、ここで ニコラウスの心情を 投影しています。


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