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(8)1910年 クロード・ドビュッシー 「レントより遅く  

「ハイフェッツ・ヴァイオリン小品集1946-1970」BVCC-37129~32
クロード・ドビュッシー
「レントより遅く 」 ~ ロクェ編によるヴァイオリン独奏版
ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン )Jascha Heifetz
エマヌエル・ベイ(ピアノ )Emanuel Bay
録音:1946年10月 ハリウッド
RCA(BMGファンハウス/BVCC-37129~32「ハイフェッツ・ヴァイオリン小品集1946-1970 」 )


 フランス近代を代表する 偉大な作曲家 クロード・ドビュッシー( Claude Debussy 1862 ~ 1918)が 1910年に出版したピアノ曲を、レオン・ロクェヴァイオリン独奏とピアノのために編曲したものです。
 船山隆氏の説によると、ドビュッシーは この年(1910年)10月29日から12月6日までのハンガリー旅行の際、ブダペストのカフェで ラディック(別の説ではレオーニ)という名のロマ(ジプシー)のフィドラーが演奏する 物悲しいヴァイオリンにインスピレーションを得て このワルツを作曲したもので、彼が友人の R.ゴデ に書き送った手紙には  「このジプシーヴァイオリニストの奏でる 音楽に対する愛は、どんな有名な音楽家の演奏よりも遥かに深いものだ。彼は 普通のカフェで弾いているのだが、まるで深い森の中で弾いているように思われる」 「ラディックを 聴くためだけに もう一度ブダペストに足を運ぶ価値がある」 とまで 書かれているのだそうです。
 もし事実であるなら ピアノ独奏よりも この演奏のように ヴァイオリンによって奏でられる方が相応(ふさわ)しいのでは と考えるのは、ドビュッシー研究の第一人者 青柳いずみこさん だけではないでしょう。
 このロマの音楽は、特に ハンガリールーマニア民族音楽と関係が深く、試みに リスト の「ハンガリー狂詩曲」や ブラームス の「ハンガリー舞曲」、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」とか モンティの「チャールダーシュ」といった、いわゆる “ジプシーっぽい”曲の “ラッサン”(= ゆったりしたパート ⇔ “フリスカ”= 急速なパート)を聴いて頂ければ、「あー、あの感じね! 」と きっと すぐ判って頂けるのではないか と思います。ロマの楽師がヴァイオリンを構え、物憂い雰囲気で 引きずるようにワルツを演奏している姿を想像してみてください。
 後輩の ラヴェル に比べると、ワルツを主題にした作品は ドビュッシー には意外に少なく、比較的有名な作品を拾ってみても この他には「ロマンティックなワルツ」や「ハイドン礼賛」があるくらいでしょうか。いずれも演奏される機会は 決して多くないようです。しかし この「レントより遅く」だけは、ドビュッシー独特の浮遊感覚をもった和声と、沈滞気味なワルツのリズムの上に、多少屈折しながらも親しみやすいメロディ を漂わせ、この時代のデカダンな空気感を見事に切り抜いた佳作だと思います。
 私は この音楽を(幸か不幸か、)ヴァイオリンとピアノによる編曲版で - 大好きなハイフェッツのレコードによって - 最初に出会ってしまったため、ホント つい数年前まで、この ヴァイオリン独奏バージョン ドビュッシーの作曲した オリジナル・フォーム だと 思いこんでいました(赤面)。・・・なので、おススメのディスクは、やっぱりコレになってしまいます。でも ここでの ハイフェッツの ボウイング たるや 本っ当に良いので、もし 機会がありましたら ぜひ一度、お聴きになってみてください。
 強靭な ハイフェッツのヴァイオリンは、このようなスタイルの曲でも 明晰な表情を曖昧に崩すことはないものの、曲の途中で まるで陽が差し込むように長調へ転調する個所などでは、巨大な熱帯産の色鮮やかな花が 甘い滴(しずく)を滴らせながら ゆっくりと開くよう に、摩訶不思議な表情を聴かせてくれます。

作曲者自身のアレンジによる オーケストラ編曲版も
 さて、このワルツには ドビュッシー自身による オーケストラ編曲版 も存在しています。作曲者が1910年に体験したハンガリー旅行から帰ってきた後、憑かれたように 一気に脱稿したとされ、上記の 船山氏 の ご意見を引用させて頂くと、「ドビュッシーはこのハンガリー旅行で、ジプシーの音楽を直接体験し、ジプシー音楽の自由で幻想的な発想と音色を この《 レントより遅く 》で実現しようとした」ものである と言えます。
 
オーケストラ版では ツィンバロンが大活躍
ドビュッシー管弦楽曲全集(ジャン・マルティノン)EMI ジャン・マルティノン(EMI)盤  デュトワ_モントリオール交響楽団POCL-1534 デュトワ(Decca)盤


 管弦楽によって演奏される その 遅い「ワルツ」の音は、名盤 ジャン・マルティノン/フランス国立放送局管弦楽団 ( EMI TOCE-9373~76 / 1974年 パリ録音) の CD(ドビュッシーの 主要な管弦楽作品を 高い演奏レベルで、 しかも これ一巻で ほぼすべて網羅しているという たいへん重宝なセット)や シャルル・デュトワ/モントリオール交響楽団(decca)盤 などでも 聴くことが出来ますが、おそらく 初めて聴く人は 誰もが その音色の不思議な新鮮さに 心底 驚くことでしょう。
 そこではハンガリーの民族楽器 ツィンバロン(ピアノのように並んだ4オクターヴもある弦を2本の細いスティックで叩くようにして演奏する打楽器)が用いられ、コダーイの「ハーリ・ヤーノシュ」のような、気だるい ロマの雰囲気を見事に振り撒いてくれるのです。作曲者である ドビュッシー自身が感じ、意図したものが、このオーケストレーションからも 明瞭に見えてくるではありませんか?

1910年  日韓併合、
      前年 伊藤博文を暗殺した 安重根 処刑。
      ハレー彗星、
      バーバー 生まれる。

      フリッツ・クライスラー「愛の喜び」 に続く・・・
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