スケルツォ倶楽部
架空のシューベルティアーデ
シューベルティアーデ  目次は こちら

 ・・・ご想像ください。
 今宵も 若きフランツ・シューベルトを囲む 恒例の音楽の集い (シューベルティアーデ ) が、彼の友人の父親である富裕な商人ゾンライトナー家のサロンにおいて まさに開かれようとしています。
 しかし、どうしたことでしょう 肝心のシューベルト本人が ここに到着していないため、広いサロンに集まった聴衆 - 友人たちや招待客らは、リサイタルの開始を待ち切れない状態です。
 「仕方がない、先に始めていようか
 シューベルトの親友で 支持者でもある幹事役シュパウンは、ピアニストであるヨーゼフ・フォン・ガヒーに声をかけ、一緒に待機していたクラリネット奏者へ 静かに目で合図を送りました。そして、若く美しい新進のソプラノ歌手に近寄って、予定していたシューベルトの 新しい歌曲の演奏から始めるよう促しました。


架空のシューベルティアーデ
(1)歌曲 「岩の上の羊飼い 」 D.965


Schubertiade Ameling, DemusHarmonia Mundi Schubertiade,Harmonia Mundi (左から アーメリング、デムス、ダインツァー )
▲ 左から オリジナルLPのジャケット、アーメリング、デムス、ダインツァー
LP の side A
   ・歌曲 「岩の上の羊飼い 」
   ・12のレントラー (ピアノ独奏曲 )
   ・歌曲 「幸福 」
LP の side B
   ・歌曲 「糸を紡ぐグレートヒェン 」
   ・歌曲 「わたしを愛してはいない 」
   ・歌曲 「秘めた恋 」
   ・歌曲 「春に 」
   ・歌曲 「鳥 」
   ・歌曲 「泉のほとりの若者 」
   ・歌曲 「ミューズの子 」
エリー・アーメリング (ソプラノ )
イエルク・デムス (ハンマーフリューゲル )
ハンス・ダインツァー (クラリネット、 歌曲「岩の上の羊飼い 」 にのみ参加 )
録音:1965年

 このレコードは、“スケルツォ倶楽部発起人である筆者が 小学4年生の頃、銀座の数寄屋橋ショッピングセンター 2階の中古盤店 「ハンター ( 残念ながら数年前、倒産・閉店しました ) 」 で購入した 個人的な思い出も深い名盤です。 ドイツ・ハルモニアムンディ原盤 (当時のテイチク国内盤 )で、シューベルト自身の友人でもあった画家モーリツ・フォン・シュヴィントによる シューベルティアーデの様子を描いた あの有名な絵が オリジナル・ジャケット = このTOPに掲げさせて頂いた水彩画 = でした。
 1960年代のエリー・アーメリングの 透明で清らかな声と、フリードリヒ・グルダ、パウル・バドゥラ=スコダと共に この当時ウィーンの三羽烏と呼ばれた名ピアニスト イエルク・デムスが奏でる古楽器ハンマーフリューゲル独特の音色とが、見事に溶け合っており、朴訥なデムス独奏による 「12のレントラー 」も収録されていて、古いピアノの音色をじっくり楽しむこともできます。
 イエルク・デムスは、自分の骨董趣味から モーツァルトシューベルトの時代の鍵盤楽器を収集し、修繕を施し調律をして、企画物のレコーデイングなどに用いていました。それは オランダのグスタフ・レオンハルトフランス・ブリュッヘンら後の古楽研究者達のオーセンテイックな立場とはやや異なった、独自の(当時の某批評家によれば“独り善がり”な)演奏ではありましたが、良い意味で、古い響きを生かした懐古的な美しい香りも放っていた と 私は信じています。
 何といっても、これは小学生だった私が、生まれて初めて聴いたフォルテピアノの音だったのですから。

アーメリング「シューベルト歌曲集 」 シューベルト シューマンの肖像画 若きブラームス
▲ 再発CDに追加収録された歌曲 : 歌曲「きみにささぐ 」、「ことづて 」、「あこがれ 」「問い 」、「わたしの美しい星 」、「まつゆき草 」、「新緑 」、「時は春 」、「牛飼いのおとめ 」、「森へのあこがれ 」、「最後の花も枯れて 」、「ジャスミンの木 」、「ちょうちょう 」、「くるみの木 」、「てんとう虫 」、「小さいふくろう 」、「森の語らい 」、「ローレライ 」、「海の妖精 」、「眠りの精 」、「トランプ占いの女 」(以上 シューマン作曲 )、歌曲「ほんの時折りでもあなたがほほえめば 」、「私は夢に見た 」、「ああ、このまなざしをそむけておくれ 」、「なまぬるい大気は 」、「あの谷に菩提樹が立っている 」、「乙女は語る 」、「乙女の歌 」、「甲斐なきセレナード 」、「ねえママ、欲しいものがあるの 」、「セレナード 」、「日曜日の朝に 」、「下の方の谷には 」、「おねえちゃん、おねえちゃん 」、「静かな夜に 」、「はだしで来ちゃだめだよ、かわいい恋人よ 」、「雨の間に 」、「おお、涼しい森よ 」、「永遠の愛について 」(以上 ブラームス作曲 )
原盤:ドイツ・ハルモニア・ムンディ(BVCD-38060~1 ) 

  この CD再発盤のほうには、マニアには嬉しい 同時期録音の シューマンブラームスの歌曲も 追加収録されて2枚組になっており、全曲 傾聴するに値する素晴らしさです。 それでも 思い入れのある者の個人的意見としては、やはり今でも 簡潔なオリジナル LPフォームのほうを 懐かしく思い出します。

シューベルトの肖像画 Schubertiade Ameling, DemusHarmonia Mundi
 ・・・で、もとい。 
 LPレコードのA面1曲目に針を降ろすと、最初に耳を打ったのは、それまで聞いたこともないピアノの音色でした。そのときの衝撃は、今 CDで聴き直すたび 繰り返し 鮮明に思い出せます。ハンマーフリューゲルの低い弦を二度、静かにハンマーが 「と・とーん 」と遠慮がちにノックする 手探りのような開始。深い音楽の森の奥に隠れている、鏡面のように澄んだ泉の中央に小石を投じたら、その波紋が泉の端へ静かにゆっくりと広がってゆきます。泉の水面(みなも )には 高い木立と一緒に 遠く深く透きとおるように青い空が映り込んでいます。クラリネットの 躊躇するような長いフェルマータが付いた最初の音は、その泉の上を 緩やかに横切ってゆく白い雲の流れです。
 そんなシューベルト最後の作品のひとつ 「岩の上の羊飼い 」D.965 に於けるアーメリングのソプラノは、自然の奥深さを羊飼の心情に反映させて語る名曲ですが、後半の華やかなロッシーニ風クラリネットの伴奏を追い風にして、春の到来と 希望に満ちた旅立ちを その澄みきった慎ましさで歌い切ります。
  「泉のほとりの若者 」D.300 のフォルテピアノの伴奏音型は、こんこんと湧き出でる清水が、朝の陽差しを受けてきらきらと輝いているよう。アーメリングの声は可愛らしく、それでいてたいへんよく伸びます。名曲「春に 」D.882 とともに、自然な残響を付加した独特の録音も特筆されるべきでしょう。
 その後のアーメリングの世界的な活躍は言うまでもありませんが、彼女の声を表現する上で 誰もが口にする「清楚、清純、透明さ」は、この時の録音における瞬間が、その後の評価の原点といっても過言ではないでしょう。ここでの彼女の歌声は澄み切っていて、本当に 一点の濁りも聴き取れません。
 レコードだった頃には B面の最後の曲だった 天真爛漫な「ミューズの子 」D.764 が、それこそ未練の欠片(かけら )もなく終わってしまうと、いつも そこで あっという間の短い夢から覚めたような気持ちになってしまったものでした。今でも 繰り返しCDで聴くことの多い 私の心の名盤ですが、この印象は ずっと変わりません。

架空のシューベルティアーデ(2)へ つづく・・・

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