本記事は、9月 5日「注目記事ジャズ ランキング 」で 第1位となりました。
皆さまのおかげです、これからも 何卒よろしくお願い申し上げます。


クラヲタに捧ぐ、ジャズ=フュージョンの名盤 ランダム辞典
スケルツォ倶楽部
スティーヴ・ガッド Steve Gadd を讃える。
 
  
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ガッドの流儀 Gadditude 
スティーヴ・ガッド・バンド (2013年 )

ガッドの流儀_0001 「ガッドの流儀 」Gadditude
「ガッドの流儀 Gadditude 」
スティーヴ・ガッド・バンド
   スティーヴ・ガッド Steve Gadd(ドラムス、プロデュース )
   マイケル・ランドウ Michael Landau(ギター )
   ラリー・ゴールディングス Larry Goldings(キーボード )
   ジミー・ジョンソン Jimmy Johnson(エレクトリック・ベース )
   ウォルト・ファウラー Walt Fowler(トランペット、フリューゲルホーン )
収録曲:アフリカ、アスク・ミー、カントリー、カヴァリエッロ、グリーン・フォーム、ザ・マウンテン、フー・ノウズ・ブルース、ザ・ワインドアップ、スキャッターブレイン
録 音:2013年 2月10~13日 
発 売:2013年 8月
音 盤:ビデオアーツ・ミュージック(VACM-7116 )

 目下 世界中のジャズ=フュージョン系 音楽愛好家の注目を浴びている(と思われる )、スティーヴ・ガッドのリーダー名義による 待望のスタジオ・アルバム 「ガッドの流儀 Gadditude 」は、1988年にザ・ガッド・ギャング The Gadd Gang 名義でリリースされた「ヒア・アンド・ナウ Here & Now 」以来、なんと四半世紀(25年 )ぶりの「新作発表 」ということになります。
 しかも ガッド初のセルフ・プロデュースである上、彼のニュー・グループのお披露目でもある - という意味で、たいへん興味深い内容です。
 
 ガッドバンドは、このレコーディングと同じ オリジナル・メンバー編成で、今年の10月 9 ~ 12 日、来日公演まで予定しているようですね、とにかくライヴには 注目しないわけには まいりません。なぜって、ガッド・バンドの進もうとしている音楽的方向性は、たかだか ニュー・アルバム一枚 聴いただけでは 全然 判らないものだからです。
 ガッド・バンドのメンバーは 果たして ステージ上では 一体 どんな演奏を聴かせてくれるのでしょうか。この アルバム Gadditude と 寸分違わぬ演奏を聴かせてくれるかもしれません・・・ いえ、アルバムに収められた楽曲 たとえば 「アフリカ 」や「カヴァリエッロ 」を 単なる演奏の素材として そこから さらに自由な即興の空間を広げてくれるという可能性も 十分期待できるでしょう・・・ いえいえ、あるいは 意表を突いて、アルバムに収めた楽曲などは 一曲も演(や )らずに、実際のステージでは 従来の ザ・ガッド・ギャング のレパートリー、たとえば 「チェンジズ 」とか「涙をとどけて 」などを ノリノリで並べてくれる可能性だって ないとは言えません ( って 二重否定の肯定文です )。
 わたしの経験から申し上げると、将来 ガッド・バンドの「セカンド・アルバム 」がリリースされた時に、実は 初めて この ファースト・アルバム Gadditude の真価が解るとも言えます。
 ですから、それまで ミュージシャンの - 特にジャズ・ミュージシャンの - 演奏活動(ライヴ )の内容は、アーティストの 今後の音楽的方向性を知る上では、たいへん重要であると考えるものです。
 ムムッ、だから、10月の日本公演を聴きに行けるというような幸運な人たちったら、何と羨ましい ! 生で聴けた人は その重要性を鑑(かんが )みて レポート作成は必修、そしてネット上に積極的な報告を、これ、もう宿題ですから(笑 )、お願いしましたよ !

■ リーダー・アルバムは、25年ぶりのスタジオ・レコーディング
 尚、25年ぶりのスタジオ・レコーディングという情報に少し補足しておきますと、ガッドは 2011年、2012年 に ポール・サイモンの妻として知られるエディ・ブリッケルをフィーチュアしたロック・バンド、ガッドアバウツ Gaddabouts で スタジオ・レコーディングを行なっているのですが、このアルバム 2組は、彼のリーダー作としては カウントされていません。
Gaddabouts.jpg The Gaddabouts_Look Out Now!
▲  「ガッドアバウツ 」 については、またいつか、別の機会に 感想を書きたいと思ってます。

 また、(スタジオ録音ではなく )ライヴ盤ということであれば、「スティーヴ・ガッド & フレンズ Steve Gadd & Friends / Live at Voce 邦題 ガッド・ライヴ ! ) 」という良作が 最近 - 2010年に -  リリースされていましたね。
Steve gadd and friends live at Voce
⇒ ガッド・ライヴ ! の感想は こちら

 新作に付けられた オリジナル・タイトル Gadditude とは、ガッド Gadd と Attitude 【 姿勢、態度、接し方、気構え、去就、動向、思い入れ etc. といった意 】という 二語を混成させた ユニークな造語と思われ、国内盤発売元による「ガッドの流儀 」というタイトル、当意即妙な良訳と思います。

 それでは 以下、勝手ながら 発売元(ビデオアーツ・ミュージック )ホームページに掲載された、参加ミュージシャンの紹介文を 引用させて頂きます( 以下 青字部分 )。
録音中のガッド
Steve Gadd/スティーヴ・ガッド:Drums
1945年 4月 9日、ニューヨーク州ロチェスター生まれ。
地元のビッグバンドで活動後、ニューヨークに出て、スタジオ・ミュージシャンとなり、クロスオーヴァー、フュージョンの草創期からその第一人者として高い評価を得ていた。
1976年には「スタッフ 」のメンバーとなり、1980年代には自己のバンド「ザ・ガッド・ギャング 」を結成、R&B の名作をカヴァーしたグルーヴ感溢れるサウンドは 多くのファンを魅了した。また、ポール・サイモン、ジェームス・テイラー、ロバータ・フラックと言ったミュージシャンにとって 欠かす事の出来ない存在であることは 彼らのアルバム・クレジット、ツアー・パンフからも一目瞭然であり、その演奏は 多くのロック・ファンをも虜にしている。
その他、クインシー・ジョーンズ、スティーヴィー・ワンダー、ポール・マッカートニー、スティーリー・ダン、チック・コリア、ジョー・サンプル、ミシェル・ペトルチアーニ、エリック・クラプトン等々のレコーディングやツアーに参加。ジャンルを超えてのビッグネーム達との共演歴、そして驚異的な数のレコーディング & ツアー歴をもつ、誰もが認める世界最高峰ドラマー。

マイケル・ランドウ Michael Landau(ギター )
Michael Landau/マイケル・ランドウ:Guitar
1958年 6月 1日、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。
高校卒業後プロとして活動。スティーヴ・ルカサーの後任としてボズ・スキャッグスのバンドに参加。1980年代以降、ピンク・フロイド、マイルス・デイヴィス、ロッド・スチュワート、ジェームス・テイラーなどの作品に起用される人気ミュージシャンとなる。
90年代から精力的に自身のソロ活動やバンド活動を行い、ソロ & バンドを合わせて13枚のアルバムを発表している。セッション・プレイヤー、また卓越したギタリストとして多くのプレイヤーに影響を与えており、日本での人気も高い。友人のスティーヴ・ルカサーは ランドウを評して「世界で五本の指に入る 」との賞賛を贈っている。

録音中のラリー・ゴールディングス
Larry Goldings/ラリー・ゴールディングス:Keyboards
1968年、ボストン生まれ。
ハモンド・オルガンの名手、そしてピアノを含むキーボードの名手。主戦場はジャズの分野であるが、クリスティーナ・アギレラ、ウォルター・ベッカー、ソロモン・バークからトレーシー・チャップマン、ノラ・ジョーンズ、ジェームス・テイラー等々、錚々たる面々のポップスのスーパースター達からも熱いコールを受ける存在。近年ではジェームス・テイラーとのコラボレーションが多く、テイラーの近作にはオリジナル楽曲の提供も行っている。リーダーとしてはこれまでに15枚余りアルバムを発表。自身のオルガン・トリオ(ピーター・アースキン、ビル・スチュワート)を率いるほか、2007年にはジョン・スコフィールド、ジャック・ディショネットとのアルバム『Trio Beyond』(ECM)でグラミー賞・最優秀ジャズ・アルバムにノミネートされている。

録音中のジミー・ジョンソン
Jimmy Johnson/ジミー・ジョンソン:Bass
1956年、アメリカ生まれ。
ミネソタ・オーケストラのコントラバス奏者であった父親とピアノ講師の母親のもと、恵まれた音楽環境で育つ。76年以降 アレンビックの5弦ベースの名手として有名。79年からLAを拠点として活動。特にジェームス・テイラー、アラン・ホールズワースとの共演が長い。指弾きがメインで特殊な奏法は使わないが、美しくメロディー重視のソロ・プレイには定評がある。幅広いジャンルで活躍しており、リー・リトナー、ケニー・ロギンス、ドリ・カイミ、ロッド・スチュワート、スタン・ゲッツ、アール・クルー、セルジオ・メンデス、マイケル・ランドウ、渡辺貞夫、チャド・ワッカーマン、ロジャー・ウォーターズ、アーニー・ワッツ等々、数多くのアーティストのレコーディング & ツアーに参加している。

ウォルト・ファウラー Walt Fowler(トランペット、フリューゲルホーン )
Walt Fowler/ウォルト・ファウラー:Trumpet, Flugelhorn
1955年3月2日、ユタ州ソルトレイクシティ生まれ。
1974年、フランク・ザッパ & ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションのメンバーとしてプロのキャリアをスタート。75年に兄弟バンド The Fowler Brothers Band を結成、2枚のアルバムをリリース。その後、ビリー・コブハム、ジョニー・ギター・ワトソン、レイ・チャールズ、バディ・リッチ、ジョージ・ベンソン、ダイアナ・ロスなどのツアー・メンバーとして起用。90年代の半ば以降は 『ライオン・キング 』、『バックドラフト 』、『グラディエーター 』、『シュレック 』、『オーシャンズ12 』、『パイレーツ・オブ・カリビアン 』ほか 映画のサウンド・トラックにおける管弦楽の編曲を数多く手掛けている。
2001年にはジェームス・テイラーのツアー・バンドのメンバーとして参加。以降、ジェームス・ブラウン、ロバータ・フラック、スタンリー・クラーク、ジョージ・デューク、マンハッタン・トランスファー、ポーラ・アブドゥル、TOTO、アラン・ホールズワース等々、ジャズ、ロック、ポップス、R&Bとジャンルを超えて 数多くのレコーディング & ツアーに参加している。

     
 - 以上、ビデオアーツ・ミュージック 広告より 転用(青字部分

■ タングルウッドの ジェームス・テイラー 2003
 ・・・はい。それでは、以下は 再び“スケルツォ倶楽部発起人(妻 )の感想文となります。
 
 最初に、上記に引用させて頂いた 5人の名手の名前と顔ぶれ - マイケル・ランドウ、ラリー・ゴールディングス、ジミー・ジョンソン、ウォルト・ファウラー、そして ガッド - を まず眺めているうち、何となく思い出したこと、それは、このグループの人選を 最初に リーダーのガッドが 決めたきっかけって、やはり ジェームス・テイラーを バック・アップしていた スタジオ・ミュージシャンとして J.T.のオリジナル・アルバム「オクトーバー・ロード October Road 」ツアー時代辺りにまで 遡(さかのぼ )るんじゃないかな - という直感です。

 当時の彼らの たいへん素晴らしい公演記録が残っています、と言っても それは正規盤には非ず、CD-Rのマイナー盤でしか 今は 確かめられないのが 残念なことではありますが・・・。
 その興味深い音源は、ボストンFMラジオ局がコンサートの実況を放送したものと思われ、女性アナウンサーによるインタヴューに続いて ジェームス・テイラー自身が あの柔和なお声で、途中 巧みにメンバー紹介を挟みつつ、 Something In The Way She Moves、Copperline、Mexico、(I've Got To ) Stop Thinkin' 'Bout That、October Road、September Grass、Bittersweet、Carolina In My Mind、Up On The Roof、Fire And Rain、Shower The People、Sweet Baby James など、JTスタンダードと呼べる名曲の数々を、この優れたサポート・メンバーをバックに 披露しています。

タングルウッドのジェームス・テイラー
James Taylor Tanglewood Rehearsals
Recorded at Seiji Ozawa Hall、
Tanglewood Music Center,Lenox,Massachusetts、USA 6th May 2003

James Taylor Tanglewood Rehearsals 2003 ジェームス・テイラー James Taylor
   James Taylor(Vocal、Acoustic Guitar )
   Michael Landau(Guitar )
   Larry Goldings(Keyboard )
   Jimmy Johnson(Bass )
   Steve Gadd(Drums )
   Walt Fowler(Trumpet, add – Keyboard )
   
   Lou Marini (Saxophone、 Flute )
   Luis Conte (Percussion )
   Valerie Carter(Back Vocal )、Kate Markowitz(Back Vocal )
   Arnold McCuller(Back Vocal )、David Lasley(Back Vocal )
録 音:2003年 5月 6日
場 所:タングルウッド、小澤征爾ホール
音 盤:jam-096

 もうお気づきのとおり、今から10年も前に セイジ・オザワ・ホールジェームス・テイラーのことを囲んでいたミュージシャンのうち、ガッドの新作 Gadditude に結集した 5人全員が すでにここで もうドン・ピシャ 顔を揃えていたということに、ちょっと驚きませんか。
James Taylor_October Road James Taylor_Covers Other Covers
ガッド・バンドのメンバーが バックアップする ジェームス・テイラーの代表的なアルバム
(左 )October Road、(右 )Covers & Other Covers


 それは、ちょうど ガッドの出世バンド「スタッフ 」のメンバーが、やはり「ハッスル 」のレコーディング・スタジオに 殆ど顔を揃えていた、という伝説にも似て、この業界では、音楽的志向(嗜好 ? )が一致するミュージシャン同士は まるで 互いに呼び寄せられるかのように - 「類は友を呼ぶ 」的に - 然るべき条件の揃ったスタジオに集結し、きちんと顔を合わせるように宿命づけられているものなのではないでしょうか、もちろん「結果的に 」という側面が 多少はあったとしても。

■「ガッドの流儀 Gadditude 」全曲 感想 !
 
 はい、それでは アルバム収録曲を 皆さんとご一緒に聴きながら、発起人(妻 )が 一曲ずつ感想を打ちます。あ でも、その前に・・・
 実は、このアルバムの 冒頭一曲目 Africa アフリカ を最初に聴いたとき、わたしは少し狼狽したのです。それは、勝手に わたしが予想していた“ガッド・バンド”のサウンドではなかったから・・・です。ひょっとして 自分が間違えて 他のミュージシャンのCDをトレイに載せてしまったのではないかしらと、わざわざ 居間のプレイヤーを確かめに戻ったほどでした。
 聴く前から わたしが無意識に期待していた 新しいガッド・バンドの音とは、きっと かつてのスタッフの諸作、あるいは ザ・ガッド・ギャングで聴けたR&B調の明るく楽しいもの、もしくは それらの路線を継承したような ジョーイ・デ=フランセスコや馴染みのロニー・キューバーなどとの共演ステージの模様を収めた最近のライヴ盤のような、そんな傾向のサウンドを想像していたのです。
 だって、ガッド自己のグループ名義で 新しいレコードを作った以上、これを聴こうと身構えるわたしたちは、ガッドの高い才能を知っているがゆえに、当然 彼の過去の音楽的傾向をチェックした上で、新作においては いかにガッドが 変化したか(あるいは していないか )、いかに彼が 成長したか(あるいは していないか )、ということを 試聴ポイントにしようとする視点は、ある意味 当然ではありませんか。 ・・・でも それは、ただの先入観だったのです。
 正直 驚きました。68歳になろうという 御大スティーヴ・ガッドが、わたしの予想などを超えた、遥か先へ、遥か遠くに、ひとり立っていることを直観したのでした。これは 晩ごはんの支度をしながら 片手間に聞こうなんていう態度は許されないなあ、ちゃんと聴かなくちゃイケナイぞ、と あらためて、スピーカーの前にきちんと座り直し、真剣に耳を澄ませることになったのでした。

では、あらためて・・・

1. Africa アフリカ
(作曲:Michael Landau ) 08:08

ウォルト・ファウラー Walt Fowler Miles,The Man with The Horn
(左 )マイルス柄のTシャツを着る ウォルト・ファウラー
(右 )参考 「マン・ウィズ・ザ・ホーン The Man With The Horn

ギタリスト、マイケル・ランドウの作曲した オリジナル・ナンバー「アフリカ 」を聴きながら、わたしは 連想していました、かつて - 1980年 - 5年間もの長い沈黙の後 再び演奏活動に復帰した直後のマイルス・デイヴィスが率いていた、マイク・スターンマーカス・ミラーといった 当時はまったく無名の新人を起用した 新しいバンドのサウンド、それは たとえば「マン・ウィズ・ザ・ホーン The Man With The Horn 」の「ファット・タイム Fat Time 」 や「アースラ Ursula 」などが持つ、独特の神秘的なカラーを、この曲が なぜか思い起こさせるものであることを。
その理由は おそらくこうです。ジャズという音楽ジャンルを聴こうとする場合、ミュートを付けたトランペットにマイルス・デイヴィスの音を連想しない人は皆無だと思います。ましてや この曲が Aマイナー・スケールのモードで出来ているということ、作曲者ランドウによるエレクトリック・ギター・ソロ、ラリー・ゴールディングスによるハモンド・オルガン風の音色のキーボード・ソロに続いて、マイルス風 ウォルト・ファウラーのミューテッド・トランペット・ソロの背後で叩いているガッドのリズムが、徐々に そのフォルムを明確にしてゆき、やがて この曲が伝統的な4ビートを基本にしていたことを示唆するのです。これに気づくと、いつのまにか ジミー・ジョンソンのベースが4ビートの堅実なウォーキングを始めていることにも、ようやく納得するのでした。
06:30を過ぎた頃から バンドが執拗に繰り返すシンプルなリフ・パターンを背景にした、実はドラムス・ソロなんですが、近年のガッドは 少し抑制を効かせ過ぎで、正直なところ、ここ、もう少し暴れてくれてもいいのになーというのが、やっぱり所詮ミーハーな わたしの率直な希望です。

2. Ask Me アスク・ミー 
(作曲:Larry Goldings ) 07:46

Miles, Sketches Of Spain
ウォルト・ファウラーは トランペットからミュートを外します。しかし そのオープン・ホーンの音色もまた マイルス・デイヴィスのサウンドを連想してしまいます。それは、やはり マイルスが1959~1960年にかけて ギル・エヴァンス・オーケストラと制作した 名作アルバム「スケッチズ・オブ・スペインSketches Of Spain で、スパニッシュなスケールとブルースとが融合した感覚、さらにレコードのB面に配された「ソレア Solea 」における ドラムスとパーカッションの複合的なリズム・セクションの刻む独特な動きを ガッドのドラムスが 見事 一人で再現しているかのように、ここでも連想させられてしまうからです(ちなみに、マイルスの「サエタ Saeta 」における ギル・エヴァンスの大胆に複調を取り入れる先駆性は、当時にあっても斬新な感覚で、今日に至るまで ジャズの分野で成功した例をわたしは知りません )。

3. Country カントリー 
(作曲:Keith Jarrett ) 5:59

KEITH JARRETT / MY SONG
この選曲には 意表を突かれました。キース・ジャレットの、わたしもお気に入りのヨーロピアン・カルテット時代からの 美しいレパートリー。
キース・ジャレットは、マイルスのエレクトリック・グループ参加後は、一晩のステージまるごと即興演奏を聴かせるソロ・ピアニストとして 大きな成功を収めたことはよく知られていますが、並行して アメリカ国内(インパルス・レーベル )ヨーロッパ(ECMレーベル )において、それそれ異なるメンバーを擁した 二つのカルテットでの活動を行っていました。
前者は、アメリカン・カルテット(デューイ・レッドマン、チャーリー・ヘイデン、ポール・モーシャン )と呼ばれ、後者が ヨーロピアン・カルテット(ヤン・ガルバレク、パレ・ダニエルソン、ヨン・クリステンセン )です。わたし ”スケルツォ倶楽部発起人(妻 )は、どちらかといえば 叙情的で美しいヨーロピアン・カルテットのほうに肩入れしてきましたが、いずれにせよ キース・ジャレットによる欧米二つのカルテットでの活躍については、またいつか 別の機会に詳しく述べてみたいです。

4. Cavaliero カヴァリエッロ 
(作曲:Larry Goldings ) 6:40

Steve Gadd Band
中庸なテンポでラテン系のダンス・リズムを刻むときの ガッドの強烈な個性が物を言う名演。リズムの弱拍部でスネアをローリングさせ、あり余る筈のエネルギーを 敢えて押さえ込みにかかるという抑制の美学、本来であれば そこで炸裂させればパワー全開のところ、意図的に抑えることによって逆に 放熱する音楽が 真実の鼓動を打っている、その力強さに 心底シビレます。 ガッドには ぜひ このリズムで、たとえばアストル・ピアソラの「ブエノスアイレス午前零時 」とか「リベルタンゴ 」などを演(や )って頂きたいものです。

5. Green Foam グリーン・フォーム 
(共作:Steve Gadd, Walt Fowler, Larry Goldings, Jimmy Johnson, Michael Landau ) 06:12

録音中のマイケル・ランドウ
ガッド自身の名も作曲者クレジットに載っている、バンド・メンバー 5人によるオリジナル共作。 
・・・といっても、聴いてみれば お判りのとおり、ジャム・セッション中に たまたま仕上がってしまったようなB♭マイナーのブルースで、ウォルト・ファウラーが吹く主旋律は スティーヴィー・ワンダーのヒット曲「迷信 Superstition 」の音列にも似た、よくあるメロディです。ギター・ソロの途中では、4ビートのブルース調になったり、テンポは変わっていないというのに 複雑な変拍子の経過句を差し挟んだり、やはり変幻自在のガッドのドラミングが聴きものです。

6. The Mountain ザ・マウンテン 
(作曲:Ibrahim Abdullah ) 06:11

リラックス・ムードのオリエンタルな曲調。アフリカの名ピアニスト、ダラー・ブランド ( アブドゥーラ・イブラヒム ) によるD♭メイジャーの民謡調の作品です。ガッドが自己のバンドに このめずらしい楽曲を なぜ採用したのか、その経緯をぜひ聞いてみたいものです。ウォルト・ファウラーのホーンが爽やかな、良い味を出しています。

7. Who Knows Blues フー・ノウズ・ブルース
(作曲:Michael Landau ) 05:55

Bマイナーのブルースガッドらしい、巧みにローリングさせるスネアが刻むリズムが快適。ガッドの千変万化するドラミングは、たとえ一小節といえども単純な繰り返しを行わない、あらゆる瞬間に 生きた鼓動を打ち続けています。
ロ(B )調という調性はどちらかといえば 管楽器は吹きにくく、案の定 ファウラーはテーマを断片的になぞるだけで、ここではソロを取っていません。

8. The Windup ザ・ワインドアップ
(作曲:Keith Jarrett ) 05:40

KEITH JARRETT / Belonging
これも 3.カントリー 」と同じく、キース・ジャレットによる ヨーロピアン・カルテット(ECM )による演奏が原曲でした。途中で ガッドが得意とするブラッシュに持ち替えてからのプレイを聴けるところが 特にポイント髙く、スパン スパンと弾(はじ )ける勢いのまま ドラム・ソロまで披露してほしかったなー。
彼らのアレンジは、原曲とはかなり異なる躍動的な表情を引き出すことに成功しており、特に最後の締め括りのアンサンブルまで ビシッと決まって まとまりも良く、実に素晴らしい アルバム中でも白眉の好演と思います。
ガウチョ
▲ ここで 脱線ネタですが、この キース・ジャレットECMオリジナル・アルバム Belonging に収録されている 'Long As You Know You're Living Yours  が、なんと スティーリー・ダン「ガウチョ 」Gaucho(の 同名タイトルナンバー ) にパクられてる・・・っていう話題、もう スケルツォ倶楽部の会員の皆さんでしたら、すでに ご存知ですよね。でも もし未聴の方、いらっしゃったら ぜひお試しあれ(笑 )。  

9. Scatterbrain スキャッターブレイン
(共作:Thomas York、Phlip Selway、 John O’Brien、Jonathan Greenwood、Colin Greenwood ) 04:20
 
UKロックバンド、レディオヘッドが2003年に発表した6番目のアルバム「ヘイル・トゥ・ザ・シーフ Hail To The Thief 」に収録された一曲。「スキャッターブレイン 」とは、「おっちょこちょい 」とか「軽はずみで無秩序な人 」という自虐的な意味ですが、歌詞は反戦的なメッセージが込められたバラードです。“As Dead as Leaves”という副題が付いています。
最初にこのタイトルを見つけたとき、わたしは てっきり ジェフ・ベック同名異曲のほうだと考え、さては ガッドとも共演歴のあるロック・ギタリストのオリジナル曲を「ははあ、このアルバムの締めくくりに採り上げて、盛り上げて終わるんだな 」などと 勝手に思い込んでしまったことを反省しています。
聴いてみたら、ベックとは 似ても似つかぬ ヨークの曲で、静かなバラードでした。スミマセン、レディオヘッドについては あまり詳しくなく、さすがに わたしの守備範囲外。

■ 最後に、余計な呟きを
 ところで、このアルバム「スティーヴ・ガッド・バンド:ガッドの流儀 」を、わたしは 国内盤で購入しました。輸入盤を 同時に買ってまで 国内仕様との違いを比較したわけではありませんから どの程度 品質に差があるのかは知りませんが、少なくとも わたしの入手した国内盤には、曲名・演奏者名を日本語で(といっても カタカナにしただけ ) 印刷した小さな帯が付いてるのみ、ライナーノートの一枚さえ封入されていませんでした。これは いささか不親切では ないですか (ぷんすか )。
 音楽を聴こうという者に 音楽以上の余計な情報は不要という考えなのかもしれませんが、少なくとも そこで演奏しているアーティストの近況程度の情報でもよし、 松下佳男氏とか 熊谷美広氏 あたりの著名な評論家によるコメント一本でもよし、何らかの情報が 新しいリスナーの正しい理解を助ける足掛かりとなり、そこから縦に横に 若い聴者の興味を広げる役割を果たす場合だってあるでしょう。「売ったら それでオシマイ 」 なんですか、ビデオアーツ・ミュージック さん ?
 主婦感覚と笑われるかもしれませんが、価格に相応しい手間がかけられているかどうかは、製品を手にすれば 経験者は直感で判ります。これで 2,625円(税込 ) とは いささか割高感を抱きました。ご関係者は、どうかご一考ください。これでは 若い音楽愛好家が 育たないではありませんか。


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コメント

ガッド先生の新作出ますね

ご無沙汰しています。
ガッド先生も今年で70歳を迎えられますね。ご存じと思いますが、新作アルバム『70 Strong』も3月4日発売予定ですし、楽しみですね。また
スケルツォ倶楽部”奥様”のレビュー楽しみにしています。

URL | かえる ID:-

秋の夜長を、良い音楽で!

かえる さま、こちらこそ ごぶさたです!
コンスタントにアップされる 古今のジャズ・フュージョン名盤についての情報、凄いなーって いつも思ってます。一方 アップにムラのあるわたしたち、かえるさんを みならわなくちゃ。いつも読ませて頂くのを 楽しみにしてるんですよー。
ところで ガッドの新譜は、メンバー構成は納得でしたが、正直 意外な内容(音楽性 )を含んでおり、本文にも書きましたが このグループで来日してのライヴの内容のほうが 気になって仕方ありません。どなたか聴きに行かれる幸運なかたの レポートを 、ホント 心から期待している わたしです。。。
もとい。すっかり涼しくなりましたが、かえるさまの おっしゃるとおり、これから 音楽を楽しむには 絶好の気候ですよね。お互い 一枚でも ステキな音楽に出会えますように、では またね !

URL | “スケルツォ倶楽部”発起人 ID:-

素晴らしいレビューです

こんにちは、ご無沙汰していました。
いやー相変わらず、すごく力の入った素晴らしいレビューを拝見いたしました。ありがとうございます。最近、ガッド先生はアバ・ジャズにはじまり、今回のリーダー作さらにはウィル・リーのアルバムなんかでも、すごく活躍していますね。ファンとしても嬉しい限りです。そうそう国内盤の値段の高いのは考えて欲しいものです。ライナーが付いて、ボーナス・トラックが付いて、さらにおまけのCDやDVDが付いて3,000円超えなんてありますが、結構きついです。まして中には日本語ライナーなし!なんて輸入盤みたいなアルバムはかんべんして欲しいですね。私もライナー読みながらアルバムを聴くのが好きです。レコード会社の皆様にはファンの声を届けたいですね。秋の夜長を、良い音楽で過ごしましょう。

URL | かえる ID:-

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