本記事は 8月 7日「 注目記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部 短期 集中連載 

マーラー 交響曲第10番の終楽章は、
掘り起こされた 「歌う骨 」

グスタフ・マーラー マーラーの肖像と晩年のアルマ アルマ・シンドラー
もくじは ⇒ こちら

1.プロローグ

 今は亡き グスタフ・マーラーの妻だった、わたし アルマです。
 わたしには ひとつ忘れられない、ささやかな幸福を感じた 若き日の記憶があります。
 ―  まだ20代だったのに すでに二人もの女の子の母親になっていたわたしは、暖かく日当たりのよい部屋で、ゆったりと大きなソファに腰掛け、幼かった次女のグッキーにお乳をあげている、まさに その時でした ― 質素ながらも とても豊かな幸福感に包まれた気がしたのは。

アルマ・マーラーと乳幼時のグッキー
 わたしの隣の居間からは、20歳近くも年上の夫グスタフが グランドピアノに腰掛け、わたしたちの長女で 4歳になっていたマリア・アンナを膝に抱きながら、遊び半分に 色々な曲を弾いているのが聞こえてきます。彼は ついさっきまでモーツァルトの「魔笛 」のメロディを次々と弾きながら、オペラの混み入ったストーリーを 小さなマリアンナにもわかりやすく説明してあげているようでした。 - それにしても、この様子を 端(はた )で眺めると まるで二人は祖父と孫娘のようね。

晩年のマーラー マリアンナ・マーラー
「パパ、今度は 別の曲を弾いて頂戴。 」
「よしよし、いいとも 」
やがて グスタフが自作の第6交響曲の中で使った、わたしにも聞き覚えのある旋律が流れてきました。
「ね パパ、その曲は なあに? 」
「これかい? これはね パパが作曲した『大好きなママのテーマ 』という音楽さ 」
「へえー 素敵 ! それ、まるでお空を飛んでるみたいな曲なのね、じゃ 今度は あたしのお気に入りの 『ねこちゃんのテーマ 』を弾いて頂戴。 」
「ねこか。よしよし 」
グスタフは陽気なメロディを 即興でつま弾きました、ご機嫌に笑い転げるマリアンナ。
「気に入ったかい? 」
「うん、とっても ! 次は あたしがお気に入りの『お人形さんのテーマ 』を弾いて頂戴 」
「よしよし、お人形か 」
とグスタフ。二拍子でよちよち歩く愉快な旋律を これも思いつきで弾いて聞かせます、マリアンナは そんな父親の膝の上で きゃっきゃと大喜び。
「おもしろいかい ? 」
「うん ! ・・・ね それじゃ、あたしが もしイタズラをした時には、パパは どんな音楽で 叱ってくださるのかしら? 」
これには さすがの彼も少し 考えていたようでしたが、やがて弾きだしたのは 意外にも とても静かなメロディでした。

楽譜 マーラー 交響曲第10番の第5楽章は、掘り起こされた「歌う骨 」
これを聴いたマリアンナが 不思議そうな顔で 首を傾(かし )げながら 尋ねている声が聞こえます。
「ね、その曲のパパったら 怒ってないよね。全然コワくないじゃないの 」。
隣の部屋で聞きながら、正直 わたしも同感でした。グスタフは 一体どう答えるのかしらって思いながら、そっと聴き耳を立て続けていると、
「そのとおりさー 」
と、彼は 突然 愛娘の鼻にデレデレと顔を近づけると
「だって これは、お前が どんなにワルイ子でも パパは『許してあげるテーマ 』だからだよ ! 」
と言うなり、思いきり爆笑しました。
「うわっ、そうなんだ! パパったら 優しいんだなー 」
「そうだよー、おまえのパパは 世界一優しいパパなのさ 」
不思議と耳に残る、その美しいメロディが 夫のピアノで繰り返されるのを聴きながら、隣の部屋にいたわたしは 次女グッキーを胸に抱いたまま ゆっくり立ち上がって 二人のそばに近づくと、夫グスタフに声をかけました。
「世界一優しいですって ? 娘に甘いわねー アナタったら。ご自分のオペラハウスの楽団員には 世界一『厳しい 』くせに ! 」
「そりゃ そうさ。だって 仕事をする場合に ぼくが優しくするのは、あらゆる現世の音楽家が仕えるべきモーツァルトやベートーヴェンといった 音楽の聖人たちに対してだけだからさ 」
と、夫は 顔色ひとつ変えずに、鼻先でふふんと笑うのでした。

次回 「 第1部:Waldmärchen 森の伝説 」に つづく

幸福だった時代のアッシェンバッハ
▲ 映画「ベニスに死す 」より かつて幸福だったマーラー夫妻の思い出

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