本記事は 12月 1日 「 注目記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
「気分がふさいでいるときは、いつも 新しいレコードを何枚か買うことにしてるんだよ 」 Claude Achille Debussy
発起人の ディスク・レヴュー
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冨田勲_0004 冨田勲:ドビュッシー_月の光 Clair de Lune  アルティメイト・エディション Ultimate Edition
冨田勲ドビュッシー
 
月の光 Clair de Lune /
  アルティメイト・エディション Ultimate Edition


 わが国の作曲家、アレンジャー、そして シンセサイザー演奏のパイオニアである 冨田勲(1932~ )氏が、アメリカの電子工学者ロバート・A.モーグ博士の開発したシンセサイザー(MOOG III-C )に初めて触れたのは、氏が大阪のレコード・ショップ店頭で耳にした、ワルター・カーロス( = ウェンディ・カーロスと同一人物、その話題は また後日 改めて… )による 歴史的な『スイッチト・オン・バッハ 』の音だったそうです。

ワルター・カーロス_スイッチト・オン・バッハ ワルター・カーロス_スイッチト・オン・バッハ (2)
 ワルター・カーロスによる2枚の 「 スイッチト・オン・バッハ
 常に斬新な音のマテリアルを探し続けていた冨田氏は「これこそ 私が追い求めていたものだ ! 」と直感、1ドル=360円という時代に「八方手を尽くし、やっとの思いでアメリカのバッファローから 」この モジュラー式モーグ・シンセサイザー(MOOG III-P )を 日本人で初めて購入したのは、今から40年も前のこと、それは ちょうど 私“スケルツォ倶楽部”発起人ベートーヴェンの伝記に初めて触れて 音楽の魅力に目覚めた時期 - 小学校3年生だった、1971年秋の頃でした。

モジュラー式モーグ・シンセサイザー(MOOG III-P ) Robert Moog in 1970_Photograph Hilton ArchiveGetty ImagesJack Robinson
 モジュラー式モーグ・シンセサイザー(MOOG III-P ) と 開発者ロバート・モーグ博士(右 )
 なにしろ まだシンセサイザーなどという「楽器 」が 全く認知されていなかった時代でしたから、見たこともない機械の塊を積み上げられた当時の日本の税関は、あろうことか「不法な軍事機器ではないか 」などと これに疑いをかけ、数ヶ月間にも渡って通関を差し止め(しかも冨田氏は その間の保管料まで請求されたそうです )、その挙句「これが 楽器であることを証明せよ 」と要求された冨田氏は、その頃ロックシンセサイザーを初めて導入していた イギリスのキーボード奏者キース・エマーソン( E.L.&P. エマーソン・レイク & パーマー )モーグ・シンセサイザーを演奏している写真を 当のモーグ博士から取り寄せ、担当官に示しながら必死に説明、やっと納得してもらえた - という 有名なエピソードがありますね。
「ほら、 ↓ コレですよ お役人さま 」
Keith Emerson
 キース・エマーソン Keith Emerson  
 しかし その当時のシンセサイザーは、今日(こんにち )からは 想像を絶するほど原始的なもので、これを操れるようになるまでのご苦労は 様々な機会に 冨田氏ご本人がお書きになられた 多くの文章から 窺い知ることができます。
 その「梱包を開けてみて驚いたことに、たしかに楽器というよりも、電子的な音を作る道具 」と言った方がふさわしいものでした。
「電源スイッチを入れても 音などは何も出ない。各モジュールをモードで結線し、多数のボリュウムを調整し、最後に結線されたモジュールのアルトが音の出口となる 」、「新しい音を作るたびに使用するモジュールが異なるので、音の出る場所はそのつど変わる 」、「ドレミファの音階ですら整っていないので、12平均律も揃えなくては音楽にならない 」といった それこそ途方もない代物で、またシーケンサー(演奏すべき音の情報を正しい音程・順序・配列・速度など制御して 自動演奏させるためにコントロールする装置 )についても 依然旧式のアナログだったので、今なら「数万音も記憶できて、楽器音もついて、2~ 3万円程度で中学生でも買えるようになったものが、当時は高価で一台が90万円ほどもし、ミディ MIDI(一本のコードで 複数の電子楽器や電子機器同士を ひとつの楽器またはシーケンサーに組み込んだ すべての演奏情報で制御することができる )など その時点では まだ開発されておらず、しかもアナログであるため すべてボリュウムでの電圧調整、メモリーなど わずか24音でおしまい。25音目から後は テープレコーダーのチャンネルを変えて、再び新たにシーケンサーの調整をやり直し、続きを録音する 」という状態のため、そんな初期のモーグ・シンセサイザーと 文字どおり格闘しながら「調教 」を重ねた冨田氏が 最初の一枚のアルバムを完成させるまでに「何万回にも及ぶ こういった作業を繰り返すうち、1年4ヶ月もかかった 」という、その凄まじいご苦労は、まさしくエレクトロ・ミュージック草創期の伝説となっています。
 ここまでの「カッコ(青字 ) 」内の文章は、The Cosmos Of TOMITA(BMG / BVCC-38408~18 )に収められた、冨田勲氏による「私とモーグ・シンセサイザー 」より引用させて頂きました。

 こうして仕上げられた最初の労作が 「ドビュッシー:月の光 Clair de Lune 」でした。最初のうち国内のレコード業界では全く認められず、日本より先にアメリカのRCAによって評価されたことも よく知られた事実です。
 その結果、この冨田氏のレコードは まずビルボード誌「クラシック 」チャートで いきなり第1位にまで駆けのぼり、アルバム・オブ・ジ・イヤー他、グラミー賞4部門にノミネート、さらに全米レコード販売者協会 N.A.R.M.において 1974年度最優秀クラシカル・レコードに選出されるという 圧倒的な栄誉に輝いたのでした。もちろん日本人としては、「初 」の快挙です。

月の光 Snowflakes Are Dancing ~ ドビュッシーによるメルヘンの世界 月の光 Snowflakes Are Dancing ~ ドビュッシーによるメルヘンの世界 (2)
「ドビュッシー:月の光 」
オリジナルL.P.アルバムのジャケット

(左が 国内盤 Clair de Lune 、右は 米国盤 Snowflakes Are Dancing

当初オリジナルL.P.盤の収録曲順序は、以下のとおりでした。
Side A
 1.雪は踊っている (「子供の領分 」第4曲 )
 2.夢
 3.雨の庭 (「版画 」第3曲 )
 4.月の光 (「ベルガマスク組曲 」第3曲 )
 5.アラベスク第1番
Side B
 1.沈める寺院 (前奏曲集第1巻、第10曲 )
 2.パスピエ (「ベルガマスク組曲 」第4曲 )
 3.亜麻色の髪の乙女 (前奏曲集第1巻、第8曲 )
 4.ゴリウォークのケークウォーク (「子供の領分 」第6曲 )
 5. 雪の上の足跡 (前奏曲集第1巻、第6曲 )


▼ そして、こちらが このたびリリースされた一枚・・・
冨田勲:ドビュッシー_月の光 Clair de Lune  アルティメイト・エディション Ultimate Edition 冨田勲(近影 )
冨田勲 : ドビュッシー
「月の光 Clair de Lune / アルティメイト・エディション Ultimate Edition 」
演 奏:冨田 勲(シンセサイザー )
音 盤:DENON(日本コロムビア COGQ-59 )
収録曲:
 1.雪は踊っている
 2.口笛と鐘 (アート・オブ・サウンド・クリエーション )
 3.アラベスク第1番
 4.月の光 
 5.雨の庭 
 6.雪の上の足跡 
 7.沈める寺 
 8.アラベスク第2番
 9.夢
 10. 亜麻色の髪の乙女 
 11.パスピエ
 12.ゴリウォークのケークウォーク 
 13.雲 (管弦楽のための「夜想曲 」第1曲 )

 ドビュッシーのピアノ曲(「 」を除く )をシンセサイザーによって演奏した冨田勲氏の70年代の あの名盤「月の光 」を、冨田氏自身が「リメイク 」したという、レコード会社の新譜ディスク情報の文章を初めて目にした時、その「リメイク 」なる言葉を 最初のうち 正しく理解することができなかったのは、私“スケルツォ倶楽部” 発起人だけでしょうか?
 あれこれと余計なことを考えて、遠回りしてしまいました。すなわち「 『リメイク 』って どういう意味だろ? 」、「ドビュッシーを 『リメイク 』できる人ったら そりゃドビュッシーしかいないだろ 」、「ああ、さては冨田勲が 同じテーマを再アレンジしたということかな? 」、「いや、冨田が『月の光 』を プラズマ・シンフォニー・オーケストラ新しく再演・再録音したという事ではないか? 」などなど…
 だって なにしろ今回は どういう経緯でなのか、日本コロムビア(DENON )レーベルからのリリースである上、かつて「冨田勲=ドビュッシー:月の光 」としてRCA からリリースされた時の、お馴染みの 幻想的なドビュッシー・ジャケットでもなく(ご覧のとおり、アンリ・ルソーによる個性的な名画「夢 Le rêve 」 が ジャケットに使われてます )、さては1974年のオリジナル音源とは異なるマテリアルでは…と期待してしまうのも仕方ないじゃないですか。
 しかし、半分は安心しつつも 半分はがっかり(? )したことに、これは やはり あの名盤「冨田勲=ドビュッシー:月の光(1974年 ) 」全くの同音源でした。表記も「リメイク 」ではなく、「リミックス 」程度に留めておいたほうが、誤解なく伝わりやすかったのではないでしょうか。
 異なるレコード会社から リリースされることになった理由とは、言うまでもなく、保有されている音源の権利関係に拠るものだったのでしょう。それは、ちょうど 名ジャズ・ピアニストのチック・コリアが、過去の(ポリドール、ワーナー時代 )自分名義による名盤を 近年は 自己のストレッチ・レーベルから 順次リリースし直しているようなものではないでしょうか。

 私“スケルツォ倶楽部発起人 自身は、音楽を聴く際、再生装置にまで凝るほうではないので、その良さを語る資格などはありませんが、これをヘッドフォンなどで聴き比べてみると、そんな私でさえ驚くほど「アルティメイト・エディション 」 4.0チャンネル・サラウンド & SACD化が施された その音の広がり・深さ・多彩さを 実感することは容易でした。
 さらに冨田氏自身は、 「このアルバムは ぜひ四個のスピーカーによるサラウンドで聴いてほしい。(中略 )前後左右の四面ステレオのようにミックスダウンされているので どちらを向いて聴いても良い。お酒でも飲みながら、スピーカーに囲まれた中で 音宇宙に浸るのも良いだろう 」と書き添えておられました。…お試しあれ。

 L.P.時代には未発表曲だった、どちらかと言えば素朴な「アラベスク第2番 」、かつて坂東玉三郎が演じた「天守物語 」の舞台用にと もともとは編曲されたという「 」(原曲は ドビュッシーによる管弦楽曲 ) 」、そして 本アルバム中唯一 冨田勲氏の「作曲 」による - しかし おそらく当時のリハーサル音源をリミックスした程度と思われる - 短い「口笛と鐘(アート・オブ・サウンド・クリエーション ) 」という 耳馴染みのない 楽曲が 収録されていることが興味深いです。

 従来の音源にも 一部手が加えられており、いずれも音質の向上は言うまでもなく、さらにさまざまな工夫が加えられています。一例を挙げれば、フランス民謡「もう森へなんか行かない 」 が登場する、個人的にもお気に入りの一曲「雨の庭 」では、冨田氏自身が、合成電子音ではなく、めずらしくも現実の音 - 夏の軽井沢 三笠パークで生録(ど )りしたという - 雷鳴と雨の音を 新たにミックスしています。冨田氏自身の解説によれば、これは「太古の昔から鳴っている(天然の )電子音を モーグによる(人工の )電子音と 」「協演 」させてみた結果・・・なのだそうですが、しかしまあ発想はオモシロいと思わないでもありませんでしたが、その結果を聴いてみると、必ずしも成功しているとまでは感じられなかったのでした、スミマセン。
 なぜなら、それは やはり私にとっては、かつて 傑作「亜麻色の髪の乙女 」の中で、人工の天然音による「清流のせせらぎ 」を、それこそ忘れ得ぬほど 美しく再現してくださった冨田氏の あまりにも素晴らしいアイディアにこそ 天性のセンスを感じてしまった一人だから・・・です。

冨田勲_0005
若き冨田勲氏とモーグ・シンセサイザー(MOOG III-P )


おまけ タモリのエッセイ  「 星新一先生が泣いた夜( 2008年12月 ) 」 より
タモリ 星新一 冨田勲_スケルツォ倶楽部
▲ (左から )タモリ星新一冨田勲
  ・・・ 一時期、夏に仲間達と伊豆の別荘に行くことが恒例になっていたことがありました。星先生の別荘も近くにあり、たまたまその日に先生が滞在されていたので一緒に食事をしたことがありました。
 食後 ゆっくりと酒を飲みながら 富田勲シンセサイザードビュッシーを大音量で聴いていました。 その夜は風もなくきれいな月が雲のない空に浮かんでいました。高台から眼下に広がる林のむこうに見える海はキラキラと輝き、右の方からうねるように降りてきた青黒い稜線が、その海に最後は垂直に落ち込んでいます。あまりにも音楽にピッタリの光景に全員黙って聴き入っていました。
 演奏が終わって 顔を上げた星先生の目にはいっぱいの涙が浮かんでいました。
 そして 「こんなに感激したことはない 」 とつぶやいていました。
 月明かりの中、宴会は続き 泥酔した星先生は 二人に両脇をかかえられてお帰りになりました。
 泣いている星先生を見たのは我々だけではないでしょうか。過大音量のため スピーカーが一個焼き切れたこともあって 忘れられない夜でした。
星新一 公式サイト ) から



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