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インマゼール / アニマ・エテルナ・ブリュッヘ
ドビュッシー 」、「牧神の午後への前奏曲
(Zig Zag
)
ジョス・ヴァン・インマゼール ドビュッシー インマゼール_Mercury (Zig-Zag Territoires ZZT313 ) Claude Achille Debussy
ジョス・ヴァン・インマゼール と 本日のディスク

ドビュッシー
牧神の午後への前奏曲、
管弦楽のための3枚の交響的素描「海 」、
管弦楽のための「映像 」
 ジョス・ヴァン・インマゼール(指揮 )
 アニマ・エテルナ・ブリュッヘ
録 音 : 2012年 2月 9日、ブリュッヘ音楽堂(コンセルトヘバウ )ライヴ収録
      2012年 2月 3日、アントヴェルペン、ドゥ・シンゲル劇場 ライヴ収録
音 盤 : Mercury (Zig-Zag Territoires ZZT313 )


 既存の和声構造にとらわれず 全く新しい感性で 20世紀へのドアを力強く開いた作曲家ドビュッシー Claude Debussy(1862 - 1918 ) 今年 - 2012年 - が、記念すべき生誕150年だそうです。ご存知でしたか? ・・・私“スケルツォ倶楽部発起人、恥ずかしながら 今日 やっと 気づきましたー  ( ..)φ メモメモ
 フランス近代の「印象主義 」なる 曖昧なカテゴリー分類さえ超越し、その異才の名は、西洋音楽史上において 極めて重要な役割を果たした存在のひとりとして高く屹立しています。
 ピアニストとしても超一流、ベルギーの指揮者ジョス・ヴァン・インマゼール Jos van Immerseel が、いわゆるオーセンティックな「20世紀初頭フランスで製作された歴史的楽器 (復元モデルを含む ) 」 を揃えた、彼の手兵とも呼べる ピリオド楽器集団アニマ・エテルナ・ブリュッヘ を率いてレコーディングに臨んだもので、これは 今年度リリースされたディスクの中でも、エポックメイキングな質を誇れる一枚であると思います。
アニマ・エテルナ・ブリュッヘ
アニマ・エテルナ・ブリュッヘ (CD 解説書より )

 まず ディスク冒頭に置かれた、ドビュッシー32歳の時の傑作「牧神の午後への前奏曲 」。
 聴く前には ピリオド楽器の木管特有の音色が強調されるのではないかと勝手に予想していた牧神のフルートの響きは、控えめなほど淡々と 殊更 奇を衒(てら )うこともなく始まりました。ただ ハープが左右に置かれていたことによって、その爪弾かれる弦の波紋が左右いっぱいに広がってゆくような効果には 意外性がありました。
 このような曲でも 弦楽器のヴィブラートこそ 極力抑えられていましたが、弦セクションの強弱のつけ方には たいへんメリハリがあるので、音楽の豊かな表情に過不足を感じることは全くありません。
 曲の後半に入って、独特な響きの固めのホルンの音と 対照的に柔らかい木管セクションとに導かれながら入ってくるソロ・ヴァイオリンのフレーズには 自然なヴィブラートが 浅くかけられていたことが、逆転した新鮮さを感じてしまいました。

 その幼き日に 本当は「水夫になりたかった 」という夢を抱いていたとされる作曲者ドビュッシーが43歳の時に 仕上げるべくして仕上げた名作 管弦楽のための3枚の交響的素描 」。
 第1楽章 - 深く暗い水底から徐々に海面へと浮かび上がってくる波の運動が、やがて有機的なリズムの中で 生きているかのように ゆらゆらと上下に漂い始める瞬間の弦楽セクションによる即物的で豊かな表情、そして あの有名な四声部に分かれた緻密なチェロ・アンサンブルが 即興的に歌い出したかのように湧き立ちます。 その低音弦に張られた羊腸弦のざらざらした手触りのような音色、それらの魅力を文章で伝えることは ちょっと難しいです。
 一種のスケルツォでもある 第2楽章「波の戯れ 」の中で 頻繁に聴かれる、ドビュッシーの時代に フランス国内で製造されたというチェレスタの音色も捨てがたいものがあります。短い弦のフレーズ、小さな金管のフレーズ、僅かな木管のフレーズ、そして これらに彩りを添えるパーカッション、それぞれの楽器セクションが 小さく短いピースを互いに持ち寄って 離れて眺めると全体の構造が仕上がっているという見事さ、それらが もう目に見えるように伝わってくる演奏です。
 そして第3楽章「風と海の対話 」での見事な迫力は、決してモダン・オーケストラに勝るとも劣りません。途中 弦の一斉のピッツィカートとティンパニが炸裂する一撃の気持ちよさ、後半 全体が大いに静まってから ヴァイオリン・セクションが マーラー「第1番 」冒頭で聴かれるようなハーモニクスを長く伸ばしている最中(さなか )に ハープたちが両翼でアルペジオを刻む、これも有名な個所がありますが、まさしく波に揺蕩(たゆた )う感じの浮遊感です。そしてコーダでの激しい追い込み、文字どおり追い詰められるようなパーカッションの迫力と それでいて冷徹に音楽の行方を見据えている統率者インマゼールの視線までもが見えてくるような、そんな慎重な計算の上で 実は 然るべき成功へと導かれた名演であるという、そんな感想を抱きました。

 管弦楽のための「映像 - 1903年から10年近い年月を費やし、50歳になったドビュッシーが - 1912年に完成させた作品。曲順は指揮者によって入れ替わる場合がありますが、ここでのインマゼールは「春のロンド 」、「ジーグ 」、そして「イベリア 」 の順に 演奏しています。
 「ジーグ 」、「イベリア 」に垣間見える 決然としたリズムと鋭いアクセントは、インマゼール / アニマ・エテルナ・ブリュッヘ の演奏によって 初めて 私が出会うことのできた、各曲の新しい表情でした。
 そして、途中 打楽器が民族音楽的なリズムを刻みながら盛り上がる「春のロンド 」を聴きながら、ふと考えたこと ・・・って、本日 最後に ちょっと脱線してしまいますが。

インマゼールが弾く、「もう森へなんか行かない
 この「春のロンド 」の中で 繰り返し顔を出す重要な旋律 - それは、フランスの古い童謡「もう森へなんか行かない Nous n'iron plus au bois 」の旋律だそうです。
楽譜「もう森へなんか行かない 」
 このメロディーは ドビュッシー自身 - その理由はなぜか知りませんが - お気に入り の旋律だったようで、彼の他の作品 - ピアノ曲 - のいくつかでも これを転用しています。
 興味深いのは、本日ご紹介した指揮者インマゼール自身が、ドビュッシーの時代に製造されたエラール(1897年製 )のピリオド・ピアノを使用して、今から約20年ほども前になりますが、1993年に 「前奏曲集第1巻 」と 作曲者の遺作である 「忘れられた映像 」を演奏した録音があるのですが -
ドビュッシー インマゼール_Channel Classic(CCS-4892 )
ドビュッシー
前奏曲集第1巻 全12曲、遺作「忘れられた映像 」
ジョス・ヴァン・インマゼール Jos Van Immerseel(1897年製 エラール・ピアノ )
録音:1993年 アムステルダム
音盤:Channel Classic(CCS-4892 )

  - その中で 私 “スケルツォ倶楽部発起人 が注目するのは、アルバムの埋草的な存在と思われがちな 短い組曲「忘れられた映像 」のほうなのです。
 この作品は ドビュッシーの死後に発見された未発表の曲集(1894年作曲 )で、本来なら「映像 第3集 」とでも 呼ばれるべき作品ですが、今日(こんにち )の通称は「忘れられた映像 」となっています。
忘れられた映像 Images oubliées 」
第1曲 Lent レント(メランコリックに柔らかく )
第2曲 Dans le mouvement d'une Sarabande Souvenir du Louvre・・・ (サラバンドの動きで、古い肖像画やルーブル美術館の思い出などのように、重々しい優雅さをもって、ゆったりと ) 
第3曲 Quelques aspects de “Nous n'iron plus au bois”parce qu'il fait un temps insupportable フランス民謡“もう森へなんか行かない”による、いくつかの諸相 - だって天気が悪いから・・・

 たまたま手元にある 音楽之友社の 名曲辞典では、第3曲の原題の中の“aspects”という語に「諸相 」という訳語が充てられていますが、“aspects”とは 英単語の“aspect”に近い綴りの言葉とほぼ同意で、「時間の流れの中で、ある事柄が起き、続き、終わる、そのことの表わし方 」とされます。日本語の響きとしては やや語感の固い「諸相 」より「情景 」程度の訳語を充てたほうが 自然に響くような気もするのですが。 ・・・と言っても この作品の正式な曲名は「諸相 」で 邦訳も定まってるのでしょうか、やはり有名な、たとえば「指環 」や「椿姫 」や「大地 」などのように ?
 なお 第2曲「ルーヴルの思い出 」は、後年 編まれた組曲 「ピアノのために 」第2曲「サラバンド 」に転用された、それらは 殆ど同じ楽曲です。
 ここで整理すると、ドビュッシーの「映像 」と呼ばれる作品は 全部で四集あり、作曲者の死後に発見された この未発表の曲集(1894年作曲 ) 「忘れられた映像 」を除けば、第1集第2集は よく知られたピアノ曲。そして 今回 インマゼール / アニマ・エテルナ・ブリュッヘ盤で 皆さまと ご一緒に聴いた第3集が 「オーケストラのための “映像” 」ということになりますね。

 ・・・さらに、ドビュッシー「版画 」第3曲「雨の庭 」や、歌曲「眠りの森の美女 La Belle au Bois dormant (作詞 ヴァンサン・イスパ ) 」などの中でも、それぞれ 同じ童謡の お気に入り旋律「もう森へなんか行かない Nous n'iron plus au bois 」を用いているんですよ、私が知らないだけで 実はまだ 他にも使われている作品って 存在するかもしれません。
 それは たとえば 手塚治虫が 異なる作品の中で 執拗に繰り返しヒョウタンツギを登場させてみるような、そんな遊び感覚にも近いのではないでしょうか(・・・チガウって )?
 ヒョウタンツギ 
ヒョウタンツギ By 手塚治虫   
 
 もし お手持ちの音盤があれば、どうぞご確認ください。
 そうですね、「版画 」の名盤といえば、個性的な サンソン・フランソワ(EMI )盤、イタリア楽旅の スヴャトスラフ・リヒテル(D.G. )盤、即物的な ジャン・イヴ・ティボーデ(DECCA )盤 あたりを、私なら 個人的には 思い出します。
 
 ・・・もとい、なお このチャンネル・クラシック盤で弾かれた 1897年製 エラール・ピアノインマゼール が愛用する楽器でもあるらしく、それから約12年後、今度は サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ )が歌うドビュッシーの「歌曲アルバム(2006年録音 Naïve ) 」のレコーディングでも インマゼール同じ楽器を 伴奏に用いているそうです。
ドビュッシー 歌曲集「忘れられた小唄 」(Naive )
▲  しーっ ・・・ 何も 語れません 。だって 発起人、未聴ですから (笑 )

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コメント

NoTitle

お返事ありがとうございます.CDでもそこは印象的に響いている、という事ですね.小澤トロント響の例は知りませんでしたが、ブーレーズ指揮ニューヨーク・フィルの《火の鳥》でもハープ3台を左右真ん中に振り分けていました(フルートも振り分けていた筈).さすがにこの辺りは、編集上の操作の気がします.

演奏会の日付はご指摘の通りです.

最後に挙げられているピオーとのドビュッシー歌曲集は、なかなか感心して褒めたら仏歌曲専門の知人から「インマゼールのピアノが重すぎ、ピオーの発声に無理がかかっているのではないか」というお叱りを頂いてしまいました(ちなみに私はシロートです).確かにそういう面もあるかもしれません.エラールの響きは面白いと思うのですが.

URL | M. F. ID:JalddpaA[ 編集 ]

追記 インマゼール、「幻想 」でも。

M. F. さまへの お礼メール(下記 )に 、一言 追記させて頂きます。
今朝 下のメール返信を 投稿した後で、何となく気になって、インマゼール / アニマ・エテルナ の ベルリオーズ「幻想交響曲 」 (2008年 5月録音、Zig Zag ZZT-100101 / KKC-5074 ) を聴き直したら、すでに ここでも 複数のハープ2パートを オーケストラの左右に振り分けていたことを 確かめました。
インマゼールのアイディアは、このドビュッシーが最初ではなかったのです!

URL | “スケルツォ倶楽部” 発起人 ID:-

貴重な情報を・・・ 感謝!

M. F. さま、アントヴェルペンのドゥ・シンゲル劇場(おそらく 2012年 2月 3日 )における この インマゼール / アニマ・エテルナ の公演を ホールでお聴きになられたという、得がたい情報を寄せてくださり、ありがとうございます! そうか、この配置は ライヴでもそのとおりだったのかー …
「音 」しか享受できない 私のような CDリスナーにとって たとえば「この複数ハープって、個性的な鳴らし方してるけど どうやって演奏してたんだろ 」と思っても なかなか確かめようがありませんから、やっぱり リアルタイムで演奏家のパフォーマンスを観られた方の証言って、貴重だなーって 思います。
複数ハープを オーケストラの左右に振ってる例って言えば、小澤征爾 / トロント交響楽団による 「幻想交響曲 」(旧盤・SONY )第2楽章など を 思い出します。これは スタジオ録音だった筈ですが、とても効果的でしたよね。
ラヴェルの歌曲集《シェエラザード 》情報にも 興味津々です! このドビュッシーが素晴らしかったから、期待してます。 またおいでください、M. F. さま いつでも歓迎ですっ!

URL | “スケルツォ倶楽部” 発起人 ID:-

NoTitle

こんにちは.ネット検索をしたらこちらに辿り着きました.

この演奏私はドゥシンゲルでの収録日を聴いたのですが、ハープ2台をオケの左右前面に出しているのがちょっと目を引きました.もちろんインマゼールの「アイディア」だと思いますが、CDでもそれを反映させたミキシングになっているのでしょうか?

演奏会ではもう一曲ラヴェルの歌曲集《シェエラザード》も取り上げたので、これもいずれ音源が纏まったら出てくるものと思います(S:カリーナ・ゴーヴァン.ラジオでは放送済みの筈).

URL | M. F. ID:JalddpaA[ 編集 ]

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