本記事は 8月24日 「 注目記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部 
「モーツァルト 最期の年 」 
モーツァルト 最期の年     ▶ もくじは こちら


モーツァルト時代のブルク劇場   ~ ここまでの あらすじ 
 
 W.A.は、物心ついた幼時から その掌(たなごころ )に 銀の小笛を隠してきた。手のひらを開けば、そこには いつでも小指ほどの長さの笛が現れ、主人たるW.A.に手を貸してきた。銀の小笛は W.A.自身の楽想の源であり、彼の才能そのものだった。
 1791年の初め、W.A.は 愛するコンスタンツェとの結婚を ずっと許さない彼女の実家ウェーバー家を納得させるため、シュテファン教会楽長という名誉職に就任する可能性を求め、旧友ロイトゲープに勧められるまま、今は病床にある 教会の現職楽長ホフマン師を訪ねるものの、すでに楽長の後継はジュスマイヤーという若者に決まっていると告げられる。そればかりか、将来ジュスマイヤーを教会楽長としての職務が務まるよう指導するなら、ホフマン師は W.A.にコンスタンツェと結婚できる秘法を明かすことを 約束する。
 それは、今年のクリスマスまでに W.A.の作曲に対し 心から感謝の言葉を発する依頼者が 最低5人でも現れたら、その瞬間 めでたくコンスタンツェはW.A.の妻になっているであろう - という不思議なものだった。容易なことのように思え、内心喜ぶW.A.
 一方、尊敬するW.A.に教えを受けられる、と弟子入りがかなったジュスマイヤーも大喜び。そんな未熟なジュスマイヤーに足を引っ張られつつ、一旦 意識し出すと 依頼者からの「感謝の真心 」が なかなか得られぬことに気づき、焦りだすW.A.
 銀の小笛の力を借りつつ W.A.の仕上げた作品たち - 宮廷の舞踏会のための「ダンス音楽 」、ミュラー芸術館「ラウドン将軍の霊廟 」に置かれた自動オルガンのための「幻想曲 」、イギリスへ渡ったハイドンに捧げる目的だった「弦楽五重奏曲 変ホ長調 」 - いずれも秀作であるのに、様々な理由から「感謝 」の言葉は 得られない。
 もし期限のクリスマスまでに 少なくとも「5人 」から 「感謝の真心 」を得られなかったら、コンスタンツェと結ばれるどころか W.A.の「生命(いのち )の灯(ともしび )は 消え失せ 」てしまうことに・・・。プレッシャーに耐えきれなくなった W.A.は、このホフマン師の秘法について ジュスマイヤーにだけは 打ち明ける。
 そんなある日、ブルク劇場の慈善コンサート会場で、W.A.は 宮廷楽長サリエリに 何事か相談に呼ばれる。その間 ジュスマイヤーは、W.A.の友人であるクラリネット奏者シュタードラーの楽器工房を 見学しながら、W.A.の戻りを待っていた・・・。


(16) 新作オペラの作曲依頼

「とても長く待たせちゃったね、ジュスマイヤー。迎えに戻ったよー 」
ようやくシュタードラーの工房に駆け足で戻ってきたW.A.に、
「どうなさったんですかー、先生? お戻りが遅いから 心配しちゃいましたよー 」
と、口を尖らせつつもジュスマイヤー、心から嬉しそうです。
「いやー、ごめん ごめん。シュタードラーさんも どうもありがとう。こいつ、すっかりお邪魔しちゃって - 」
と、ジュスマイヤーのほうを振り向いた瞬間 W.A.、突然 真顔で付け加えました。
「 ・・・って、少しは勉強になったのかな? 」
その表情に 思わず和(なご )んだシュタードラー、逆にW.A.に尋ねます。
「それで 一体何だったんです、サリエリのご用とは? 」
「うん、実はね - 」

 その用件とは、意外なことに、W.A.への 仕事の依頼だったのです。
「へえ、作曲の依頼ですか、しかもサリエリから? 」
「ええと・・・正確には サリエリ楽長からの依頼ではないんだけれど - 要するに、こういうことなんだ - 」
と、W.A.は 要点を整理しながら もう一度 説明を繰り返しました。
「・・・神聖ローマ皇帝でもあるレオポルト2世陛下は、間もなく ボヘミア王としてもプラハで戴冠なさるご予定。で、その戴冠式の祝典に 皇帝、皇后ご臨席の国立劇場で上演される新作のオペラ・セリエの作曲依頼を、プラハの興行主が請け負ったと。彼は その作曲をウィーンの宮廷楽長サリエリに依頼しようと考えた - 」
シュタードラーは 眼鏡を外しながら、そこで どちらかといえば当然の質問を W.A.に投げました。
「その戴冠式って、いつ あるんですか 」
「ふふん 」
「 ・・・ ? 」
「 -  9月 6日 」
「 ! く、くがつ むいか ですって? 今年の 9月の 6日ですよね? もう僅か 4ヶ月間ほどしか 残されていないじゃありませんか 」
「おっしゃるとおり。今からでは 作曲する時間も稽古する時間も全然足りないから、さすがのサリエリでさえ尻込みするような依頼内容にもかかわらず、プラハの興行主からは そこを何とかなりませんかと泣きつかれたと、そういうワケありなんです 」
ここまで聞いていたジュスマイヤーも、大笑いを堪(こら )えながら立ち上がりました。
「サリエリが先生を呼びつけた用件って、結局 それだったというわけですか。 『頼むよー、モーツァルト君。世界広しと言えども きみ以外には 他に 誰も頼める者はいないんだからー 』って、あはは。。。 」
「まあ、そんなとこかな・・・ 」
「先生は、きっと その興行主からもサリエリからも『感謝 』されますよ! まちがいなく『心から 』! 」
「おお、そうだね! 」
「引き受けたんですよね! 」
W.A.の瞼の奥には、一瞬 コンスタンツェの面影が浮かんでいました。
「ああ、もちろんさ! 」
「先生の人気も支持も絶大な、あのプラハの街へ行くんですね! 」
「お前も一緒だよ、ジュスマイヤー! 」
「ええっ、よろしいんですか? 」
「当り前さ、やってもらうことは山ほどあるぞ。それから、シュタードラーさんにも! 」
外した眼鏡のレンズを 柔らかいフランネルの布で拭いていた管楽器奏者は、驚いて 思わず顔を上げました。
「はい? 」
「ボクに考えがあるんです、シュタードラーさん。あなたのクラリネット普及活動の、これは絶好の機会ではありませんか。ぜひボクたちに同行して 一緒にプラハに行きましょうよ。そこで皇帝夫妻がご臨席のオーケストラ・ピット内で、ヒロインのソプラノ歌手に、下から駆け上がっては上から駆け降りる コンチェルトみたいに華麗なクラリネットのオブリガードを付けてあげるんですよ! 」
W.A.の厚意の言葉に 感激して頬を紅潮させながら、思わずシュタードラーは プラハの国立劇場でソロを吹いている自分自身の姿を鮮明にイメージしながら 二人に駆け寄ってきました。
「そ、そのオペラの題材は 何なんですか? 」
ところが、
「 - あ。 聞いてなかったよ・・・ 」
急ブレーキで立ち止まったクラリネット奏者は、そこで 思わず足の裏を天井に向けました。一緒に 作業台の周囲に置かれていた、たくさんの試作楽器も 音をたてながら 何本も床に落下します。その床に 突然 寝転んだシュタードラーの顔を見下ろしながら、W.A.は 落ち着いて 言い添えるのでした。
「大丈夫、大丈夫ですよ、これも速筆で有名な作家マッツォーラから、追って台本が届くことになってるんです。曲が付けられないシナリオなんて ボクには存在しないんですから - 」
と、W.A.が握りしめる掌の中では 銀の小笛が回転しながら光を放っていましたが、陽ざしがいっぱいに注ぎ込む 明るい午後のクラリネット工房では、誰もそれに気づく者はいませんでした。
「 - そう、台本なんか 実のところ 何だっていいんです。お望みなら 新聞記事の文章や 居酒屋のメニューにだって ぼくは 立派な音楽を付けて見せますよ。とにかく 本さえ届けば、すぐに作曲してやるです! 」
W.A.は 今度は 自分に言い聞かせるように、口の中で繰り返していました。

  ― つづく ( この物語は パラレル・ワールドのフィクションです )

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