スケルツォ倶楽部 
「モーツァルト 最期の年 」 
モーツァルト 最期の年     ▶ もくじは こちら


(14) 何を 教わっているの?

 W.A.は 腕組みしながら言いました。
「・・・さてと、実は この後 ぼくはサリエリに呼ばれているんだよ、一体何の用だか知らないけどさ - だから まだしばらく ここに残らなけりゃならないんだな。ええと、その間ジュスマイヤーには、どこで待っていてもらおうかなー 」
傍らに立つクラリネット奏者 アントン・シュタードラーと目が合った瞬間、W.A.は 弟子との待ち合わせ場所を 思いつきました。
「そうだ、ちょうど良いや。ジュスマイヤー、お前は このシュタードラーさんのクラリネット工房を見学させてもらっている というのはどうかな、後学のために。ね、いいでしょ、シュタードラーさん? 」
クラリネット奏者は 快く即答です。
「一向にかまいませんよ、確かに わたしのアトリエは このブルク劇場のすぐ近くですから、喜んでジュスマイヤー君をご案内しましょう。モーツァルト君も 宮廷の御用を済ませたら、ちゃんと忘れず わたしのアトリエまで迎えに立ち寄ってくださいよ 」
「うわー、ありがとうございます。それではお願いしちゃいます 」
W.A.はシュタードラーに軽く頭を下げると、今度は 長身の弟子を見上げながら人差し指を立てて言いました。
「いいか、ジュスマイヤー。シュタードラーさんとこに置いてある楽器をいじって壊したりしちゃダメだぞ、一切触らず、見学だけさせてもらうんだ。わかったな 」
「・・・って、私を 子ども扱いしないでください、先生 」
「ふふん、なにしろ お前には ダイム伯爵の所での前科があるからなー 」
「あ、ああ・・・わかりました。その話題には どうか触れないでください 」
激しく頭をかくジュスマイヤーの仕草を笑いながら W.A.は 二人に手を振ると、自作の歌曲「春へのあこがれ 」のメロディを ふんふんと鼻で歌いつつ、サリエリが待っているというバック・ステージの方角へと走り去って行きました。
そんなW.A.を見送っていたシュタードラーが 振り向きざま、
「・・・ジュスマイヤー君、何ですか 『前科 』って? 」
と、訝(いぶか )しげに尋ねるので、
「 - あ、いえ 何でもないんです。モーツァルト先生ったら ちょっと変な人なんですよ 」
と、ジュスマイヤーがごまかせば、それにシュタードラーも顔色一つ変えず、
「あ、よく知ってます。そういうところ ありますね 」
と、当然のようにうなずくのでした。
 モーツァルト時代のブルク劇場
 モーツァルト時代のブルク劇場 ( 右から2番目の低い建物 )

 ブルク劇場を出た二人は シュタードラーの工房を目指しながら、ミカエラー広場の真ん中を のんびりと歩いていました。
「それでは ジュスマイヤー君は、うらやましくも、今 直々にモーツァルト君から音楽の指導を受けているというわけなんですね 」
「私は 昔からモーツァルト先生の大ファンでしたから、おそばにいられるだけで たいへん名誉に思っています 」
「で、今は 何を教わっているんですか。ほら、たとえば 対位法とか 和声法とか - 」
「ええと、それが 実は・・・まだ あまり教えて頂いてないんです 」
「え? ジュスマイヤー君が弟子入りしてから もう3ヶ月以上は経つんですよね。今まで 何をしてきたんですか 」
「・・・掃除、洗濯、料理に お使い といった、日常的なお世話が中心です 」
「そ、それって モーツァルト君が 貴方にお世話されてるっていうことじゃないですか 」
「いえ、私は 昔からモーツァルト先生の大ファンでしたから、おそばにいられるだけで たいへん名誉に思っています 」
「それは また別の話でしょう。モーツァルト君って 自分では料理を作らないんですか 」
「時々なさっています。でも 味付けがザルツブルク風で、私の口に合わないんですよ 」
「ザルツブルク風? 」
「モーツァルト先生の故郷ザルツブルクは、岩塩の産地として有名でしょう。向こうに先生のお友だちがいて、いつも良質な塩を送ってくれるそうなんですよ。でも先生が調理なさる時には それを思いっきり使うものですから、とにかく塩辛いんです 」
「・・・あ、それが “ザルツブルク風 ”っていうことですか? 」
「とにかく濃い味付けがお好みのようで。だから、むしろ私が調理したほうが良いんです 」
「それ、“ザルツブルク風”料理じゃないですよ。ザルツブルクの人、怒りますよ 」
シュタードラーは歩くのを止めると、両腕を組んで考え込みました。
「それでいいんですか、ジュスマイヤー君は 」
「はい? 料理に振る塩の量ですか 」
「違いますよ、モーツァルト君のお弟子として、今のままでいいんですか 」
「私は 昔からモーツァルト先生の大ファンでしたから、おそばにいられるだけで・・・ 」
と、心底うれしそうに繰り返すジュスマイヤーの言葉を遮(さえぎ )って、シュタードラーは 若者に質問を重ねました。
「もう一度 伺いますけど、音楽に関することでは 手伝っていないんですか 」
「主にパート譜の作成や 写譜をやっています。先生の代行で 依頼人のところへ出掛けることも多いです 」
「専門の写譜屋に頼めば 済むことばかりですね。その種の仕事は 召使でもこと足ります。弟子入りされたことが、ジュスマイヤー君自身の為になっているんでしょうか 」
「うーん、たしかに心配になることも 正直 時々あります。たとえば モーツァルト先生は作曲なさる時には ご自分のお部屋に閉じこもって仕事をされるんですよ。夜も私が休んでから、ひとり 徹夜で創作することも多くて。 ・・・だから 私、先生が作曲している時のお姿って、実は まだ見たことないんですよね 」
それを聞いて、内心驚いたシュタードラーは 独り言のように呟きました。
「弟子が先生から技術的なノウハウを盗むことは、良い意味で必要な習得行為であるべきです。ジュスマイヤー君は それが許されない環境にいる、ということですよ、ちょっと聞き捨てなりませんね。そのうち私からも一度 機会をとらえて モーツァルト君に 上手(うま )く話してみましょう 」
「いえ、私は 昔からモーツァルト先生の大ファンでしたから、おそばにいられるだけで もう ・・・ 」
「困ったなあ -  」

  ― つづく ( この物語は パラレル・ワールドのフィクションです。史実との違いを お楽しみください )


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