ピーナッツ最初のTVアニメ 「チャーリー・ブラウンのクリスマス」(邦題「スヌーピーのメリークリスマス」)の音楽
スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
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ピーナッツ 最初のTVアニメ
「チャーリー・ブラウンのクリスマス 」の音楽


1963年、プロデューサー リー・メンデルソンと アニメーター ビル・メレンデス監督は、チャールズ・M・シュルツ原作による「ピーナッツ 」のキャラクター - チャーリー・ブラウン、スヌーピー、ルーシー、ライナス、そして シュローダー - たちが登場する、記念すべき最初のTVアニメーション映画となる「チャーリー・ブラウンのクリスマス A Charlie Brown Christmas(1965年 全米に放映 ) 」を企画していました。
以下は “スケルツォ倶楽部”発起人が 事実に基づきつつ、しかし勝手に創作した架空の会話です。


(左 )プロデューサー リー・メンデルソン
(右 )アニメーター ビル・メレンデス監督
リー・メンデルソン 「新聞でも評判のコミック“ピーナッツ”のアニメ化は、著者のシュルツ先生の全面的な協力も得られ、無事にスポンサーも決まったし、製作順調だね 」
ビル・メレンデス監督 「台本もなかなか良いものに仕上がったし、製作・撮影も 今のところ大きな問題なしです 」
メンデルソン 「あ、その台本の最終原稿は シュルツ先生に郵送してあるだろうね 」
メレンデス監督 「はい、もちろんです 」
メンデルソン 「あと問題は 音楽だな 」
メレンデス監督 「そうなんです。ディズニー映画風に オーケストラとコーラス入りのドリーミーなバックグラウンド・ミュージックを挿入してはいかがかと - 」
メンデルソン 「『白雪姫 Snowy White 』みたいな? そう言えば 君は元々ディズニーのアニメーター出身だったな 」
メレンデス監督 「はい、けれど その提案には原作者であるシュルツ先生がどうしても納得されませんでした 」
メンデルソン 「先生は 何か代案をお持ちなのかなー 」
メレンデス監督 「何でも 音楽については これを一任するお友だちを 今日オフィスに向かわせるからと、今朝 秘書がシュルツ先生からの伝言を電話で受けたそうです 」
メンデルソン 「さて、一体 誰が来るんだろう 」
メレンデス監督 「さあ きっと音楽に詳しい人だとは思うんですが・・・正直 わかりません 」
(呼び鈴が鳴る )
秘書の声 「シュルツ先生の代理の方が お見えになりました 」
メンデルソン 「どうぞ、入ってもらってください 」

シュローダー 「こんにちは、ぼく シュローダーです。シュルツ先生は 連載の締め切りに追われていて、今日はお出でになれないんです。だから代わりにボクが。はい、これ 先生からお預かりしてきた委任状です。お二人へ渡すようにって 指示されてきました(手渡す ) 」
メンデルソン 「 なになに・・・(読む )『この者に TVアニメーションの音楽に関する私の全発言権を委ねるものとする。チャールズ・M・シュルツ 』 だって。いや、驚いたね 」
メレンデス監督 「初めまして、シュローダー君 」(握手する )
シュローダー 「お会いできて、とてもうれしいです。ボク、TVアニメの台本、早速 読ませて頂きました 」
メレンデス監督 「良かっただろう? 」
メンデルソン 「ぜひシュローダー君の感想を聞きたいな 」
■ TVアニメ―ション
「チャーリー・ブラウンのクリスマス 」 ストーリー
シュローダー 「・・・はい、とても良かったです。本来 神聖なクリスマスが 今は商業主義に汚されてしまっていることに誰も気づいていない。でもたった独り 主人公の チャーリー・ブラウンだけが これに違和感を感じていると - 」
メレンデス監督 「けれど その違和感の理由については、まだ彼自身もよくわかっていないんだよ 」
メンデルソン 「たとえば チャーリー・ブラウンの飼い犬スヌーピーは クリスマスの飾りつけコンテストに応募しようと準備中で あわよくば入賞賞金をせしめようなどと企んでいるし、彼の幼い妹サリーまで サンタクロースに宛てて欲張りなプレゼント希望リストの手紙を送りつけようとしているし - 」


メレンデス監督 「そんな周囲の違和感に耐えきれなくなったチャーリー・ブラウンは、みんなが楽しんでいるクリスマスに彼だけ疑問を感じているのは きっと自分の心に原因があるに違いないと思い詰め、精神分析医を訪れるんだな 」
シュローダー 「それがルーシーの精神分析ですね。でも彼女も硬貨の音が大好きな拝金主義者ですから、治療費だけふんだくって まともな診断も下さず、 チャーリーを 大いに失望させるんですよね。ふふん、あのルーシーなら ありそうなことだ 」

メンデルソン 「その代わり 学校のクリスマスの寸劇を演じる舞台監督を務めてみないか、と彼女に薦められ - 」
メレンデス監督 「そう、ここからストーリーは展開部に入る 」
シュローダー 「クリスマスのお芝居は、キリストの生誕を祝う聖書の記述を台本にした よくある定番の演劇ですね 」
メンデルソン 「しかし 子どもたちは 寸劇の稽古なんか そっちのけ 、チャーリー・ブラウンを無視して ダンスに熱中している 」
シュローダー 「その真ん中で まるで皆を扇(あお )るように ダンス・ミュージックをピアノで弾いているのが 『ボク 』なんですよね(笑 ) 」

メレンデス監督 「すまないね、シュローダー君。きみの最初の登場シーンが コレでも かまわなかったかな。しかも弾いてもらう曲もお得意のベートーヴェンじゃないし - 」
シュローダー 「いえ、全然大丈夫です。ボクには弾けない曲はありません。それに このドラマの中での演じるべき役割にもちゃんと必然性を感じていますから、そういう『軽率な 』シュローダー役を『演じる 』ことは 一向に差し支えありませんね。むしろ異なる人格を演じることは とても楽しいです 」
メンデルソン 「考え方が大人だねー、シュローダー君は 」
メレンデス監督 「うん、さすがだね 」
シュローダー 「行き詰まったチャーリー・ブラウンは ステージにクリスマス・ツリーを飾ることを思いつくんでしたね 」
メンデルソン 「そう、彼は 親しいライナスを連れ ツリーを買いに出掛けるんだ 」
メレンデス監督 「そこでチャーリー・ブラウンが本能的に選んだのは、流行のカラフルで派手なアルミのツリーなどではなく、昔ながらの質素な木のツリー 」

シュローダー 「質素というより、粗末な - という表現こそがぴったりのツリーでしたね 」
メンデルソン 「そう。案の定、その粗末なツリーを持ち帰ったチャーリー・ブラウンは 皆からバカにされ 一斉に笑われると 」
メレンデス監督 「チャーリー・ブラウンは 今度こそ耐えきれなくなり、『一体クリスマスって 何の日なんだ 』と半泣きで絶叫する。そこで友人のライナスは チャーリー・ブラウンにクリスマスの来歴を教えるため、新約聖書からキリスト誕生の部分を 静かにステージ上で暗唱する。実は ライナスは聖書学の権威でもあるんだ 」

メンデルソン 「この場面は、ある意味で ドラマのクライマックスとも言える、非常に重要なシーンとして扱わなければいけないよ。ステージ上で演じられるという意味においても、静かだが とても劇的なシチュエーションなんだ 」
シュローダー 「ライナスの言葉に癒(いや )されたチャーリー・ブラウンは、クリスマスに対して - と言うより 周囲のクリスマス商戦に浮かれ気分でいる世間に対して、自分は 本能的に違和感を覚えていたのだ、という正当な理由があったことに気づき、心の平安を得ると ツリーを抱えて ひとり外へ出るのですね 」
メレンデス監督 「そこでこの物語の核心となるのが、チャーリー・ブラウンの重要な台詞 - 『 I won't let all this commercialism ruin my Christmas ぼくのクリスマスは 商売とは無縁なんだ 』 」

メンデルソン 「チャーリー・ブラウンが発した小さな灯(ともしび )は、まるでキャンドル・サービスのように - 一度は彼のことを嘲笑した子たちも含め - すべての子どもたち ひとりひとりの心に 明かりをともすことになるんだな 」
シュローダー 「とてもよくわかります。不器用なチャーリー・ブラウンでは飾りつけることが出来なかった その質素なツリーも、大勢の友だちの手によって、初めてきれいなデコレーションが施されるというわけですね 」
メレンデス監督 「それはまるで キリスト・イエス自身が十字架上で亡くなってしまっても、彼の教えを受け継いだ多くの弟子たちの手によって その信仰が強められていったことへの象徴のようだ 」

メンデルソン 「ドラマの最後は、チャーリー・ブラウンによってクリスマスの意味を知らされた、天使のように無垢な子どもたちが 清く降りしきる雪の中で唱和する、メンデルスゾーンの讃美歌『天(あめ )には栄え Hark, the Herald Angels sing 』で終わるんだ 」
シュローダー 「とても良い台本だと思いますよ。出演させて頂けて、ぼく幸せです 」
■「チャーリー・ブラウンのクリスマス 」 の音楽


メレンデス監督 「実はね、シュローダー君。今 製作中の このアニメで使うべき音楽が、実は まだ決まっていないんだ。何か 良いアイデアはないかな 」
シュローダー 「そうですね・・・ 少なくとも シュルツ先生は アニメの背景にディズニー風の豪華なコーラスやムード・ミュージックを付けることには 反対でいらっしゃいます 」
メレンデス監督 「じゃ、どんな音楽をご所望なのかな、知っていたら ぜひ教えておくれ 」
メンデルソン 「シュローダー君なら きっとベートーヴェンの曲じゃないかね 」
シュローダー 「シュルツ先生はクラシックだけでなく、モダン・ジャズもお好きです。仕事場でも ボクたちの画を描きながら、マイルス や デイヴ・ブルーベック などのレコードをよく流しておられますよ 」
メレンデス監督 「子どものアニメにモダン・ジャズか・・・ オモシロイですねえ 」
メンデルソン 「新しい試みだ・・・ しかし“画的”に合うかな 」
シュローダー 「ボクが弾くのはベートーヴェンですが、画の中で 子どもたちの日常性を 表現する場面にも同じ調子の音楽では ウマくないと思うのです。そこでは クラシックの波長とは 敢えて異なる音楽が必要です 」
メレンデス監督 「なるほど。それをジャズが務めるということですか 」
メンデルソン 「たしかにメリハリがつくな 」
シュローダー 「ヴィンス・ガラルディというジャズ・ピアニストの『キャスト・ユア・フェイト・トゥ・ザ・ウィンド Cast Your Fate To The Wind 』という曲を知ってますか 」
メレンデス監督 「どんな曲なんだい 」
シュローダー 「ちょっとラジオをつけてみてください、監督さん 」
(スイッチ・オン! ~ まさに ちょうどヴィンス・ガラルディの「キャスト・ユア・フェイト・トゥ・ザ・ウィンド 」が流れる )
- You Tube でお聴きになれます -


左:ヴィンス・ガラルディ Vince Guaraldi (1928 ‐ 1976 )
右:名曲『キャスト・ユア・フェイト・トゥ・ザ・ウィンド Cast Your Fate To The Wind 』を収録したオリジナル・アルバム(Fantasy )
シュローダー 「これです、これが ヴィンス・ガラルディのピアノです。いかがですか、彼は LAで活躍しています。彼の音楽、ボクたちの背景に最適だと思うんですが - 」
メンデルソン 「あ、これ 知ってるよ。たしか 昨年 - 1962年 - グラミー賞のオリジナル・ジャズ作曲部門で最優秀賞を受賞したチューンだ。ヒットして 今でも売れ続けているんだね。そうそう 思い出した。このジャズ・ピアニストの顔も憶えている。そうだ! ビル、ちょうど君によく似た 大きな口髭を蓄えた男なんだよ 」
メレンデス監督 「え、ぼくと同じ口髭を 生やしているんですって? 」
シュローダー 「本当だ。ヴィンス・ガラルディと監督さんを 二人並ばせてみたいなー、きっとカルト教団の司令塔みたいな眺めになりますよね(忍び笑 ) 」
メレンデス監督 「・・・ 」
メンデルソン 「よし。早速、ヴィンス・ガラルディに連絡を取ってみよう! 」
・・・ こうして シュルツ(原作 )、メンデルソン(製作 )、メレンデス(監督 )、ガラルディ(音楽 )らによって完成した ピーナッツ・シリーズの記念すべき最初のTVアニメ「チャーリー・ブラウンのクリスマス A Charlie Brown Christmas 」は 1965年12月、CBSから全米に初放映。


・・・大好評を博し、エミー賞を獲得しました。
この作品は、音楽にモダン・ジャズを導入した(おそらく )最初の子ども向けのアニメーションであり、また 子どもの声の吹き替えを(当時は大人の俳優が演じることが普通でしたが )俳優の代わりに本物の子どもたちを声優として起用するなど、先駆的な新しい試みを大胆に実践し、これを成功させたこともまた 高く評価されています。多くの意味で 普遍的に質が高いがゆえに、あらゆる年齢層の愛好家を楽しませているとも言えるでしょう。そして毎年クリスマスの季節になると 繰り返し再放送されるようになり、毎年 - 今年も - 世界中で多くのファンを増やしているのです。

「 シュローダー君、お疲れさま 」 「いえ、どういたしまして 」
■サウンドトラック「スヌーピーのクリスマス 」 A Charlie Brown Christmas を聴く



演 奏 : ヴィンス・ガラルディ (ピアノ )Vince Guaraldi、
フレッド・マーシャル (ベース )Fred Marshall、
ジェリー・グラネッリ (ドラムス )Jerry Granelli
( 注 : 国内盤 解説書の記載には ベースとドラムスのパーソネルに 誤りがあります )
収録曲 :もみの木、ホワット・チャイルド・イズ・ジス、マイ・リトル・ドラム、ライナス・アンド・ルーシー、クリスマス・タイム・イズ・ヒア、スケーティング、ホーク・ザ・ヘラルド・エンジェルス・シング、クリスマス・イズ・カミング、エリーゼのために、ザ・クリスマス・ソング、グリーンスリーヴス
「もみの木」 O,Tannenbaum
有名なドイツ民謡「もみの木 」は、フランス語圏では「Mon Beau Sapin(わが美しきもみの木 )」、英語圏では「Oh Christmas Tree(クリスマス・ツリー )」という訳詞が付けられ 世界中で愛唱されている名曲です。この原曲は3拍子ですが、ガラルディ・トリオは途中からリズムをフォービートに変え、快適なピアノによるインプロヴィゼーションを紡ぎだしています。これはチャーリー・ブラウンがライナスと一緒にクリスマス・ツリーを選ぶシーンで使われています。
「ホワット・チャイルド・イズ・ジス」 What Child Is This
これは、アルバム最後(ボーナス・トラック )に納められているイギリス民謡「グリーンスリーヴス Greensleeves 」と同一曲です。どこか哀愁を感じる落ち着いた演奏ですが、私の聴く限り アニメの中では使われていないようです。
「マイ・リトル・ドラム」 My Little Drum
これは、アメリカのハリー・シメオン合唱団によって1958年ミリオン・セラーを記録したクリスマス・ソング「リトル・ドラマー・ボーイ The Little Drummer Boy 」を巧みに下敷きにしたガラルディのオリジナル曲。なかなかの傑作だと思います。太鼓の音を模した子どもたちの合唱がリズミカルで面白く、途中から児童合唱が美しいメロディをハミングするパートなどは、実にドリーミーです。この曲もアニメでは未使用でしたので、ちょっと惜しいです。

・・・たとえば ライナスが ひとりステージで クリスマスの来歴を語る詩的なシーンの背景で 静かに流したら、とても合うような気もするのですが(? )。
「ライナス・アンド・ルーシー」 Linus And Lucy
そして最も有名な一曲「ライナス・アンド・ルーシー 」、サントラ「チャーリー・ブラウンのクリスマス 」に収録されている演奏 - これが 最初のオリジナル・ヴァージョンです。個性的なシンコペーションが生み出す躍動感も素晴らしい魅力的な作品。
ヴィンス・ガラルディの作曲は、独特な左手のピアノの動き と 唐突とさえ思える不規則な転調などが際立った特徴です。TVシリーズにオリジナル曲を提供することが決まった直後、ガラルディが最初に着想を得て思いついたのがこの曲だったそうで、彼が電話口でメレンデス監督に弾いて聴かせた、という楽しい逸話も残っています。名曲にはエピソードがつきものですよね。
「クリスマス・タイム・イズ・ヒア」 Christmas Time Is Here
今や めでたくクリスマス・ソングのスタンダード曲に仲間入りした名作「クリスマス・タイム・イズ・ヒア 」。ガラルディ・トリオの暖色系の柔らかい響きに乗せ、子どもたちが穏やかに歌う とても素直な詩はプロデューサー リー・メンデルソン自身によるものです。
Christmas Time Is Here
作詩 Lee Mendelson リーメンデルソン
作曲 Vince Guaraldi ヴィンス・ガラルディ
Christmas time is here
Happiness and cheer
Fun for all
That children call
Their favorite time of year
クリスマスの季節が訪れると
みんな誰しも 幸せいっぱいの気持ちで これを歓迎する
すべての子どもたちが待ちどおしくしていた
それは とっておきの楽しい季節だから
Snowflakes in the air
Carols everywhere
Olden times
And ancient rhymes
Of love and dreams to share
空からは 粉雪が舞い落ちて
どこにいても クリスマス・キャロルが聴こえてくる
愛と夢を配ってくれる、
旧き良き時代の 昔からの歌
Sleigh bells in the air
Beauty everywhere
Yuletide by the fireside
And joyful memories there
空からは そりの鈴の音も聞こえ
どこもかしこも美しく
暖炉の炎の側(そば )、そこには
楽しい思い出がともにある
Christmas time is here
Families growing near
Oh that we could always see
Such spirit through the year
クリスマスの季節が訪れると
離れていた家族も皆 集まってくるよ
ああ、一年中 いつも
皆がこんな心でいられたら いいのになあ
( 意訳 : 山田 誠 )
私 “スケルツォ倶楽部 ”発起人 が学生の頃 - って1980年代ですが - その当時は まだ どんなアーティストのクリスマス・スタンダード曲集にも、このヴィンス・ガラルディの「クリスマス・タイム・イズ・ヒア」 Christmas Time Is Here は 決して入っていませんでした、この記憶は間違いないです。それが ここ最近 15~20年くらいではないでしょうか、気づいたら いつのまにかクリスマスの定番ソングとして、その評価も急上昇していました。主観的な印象ですが、デヴィッド・ベノワ やジョージ・ウィンストン ら 親ピーナッツ世代のジャズ・ピアニストたちが、ことあるごと さかんに この名曲を取り上げてくれた功績も大きかったのではないでしょうか。
そして私の最注目なカヴァー・ヴァージョンは、デヴィッド・ベノワ盤の中で ゲスト・ヴォーカルとして参加(残念ながら これ一曲だけですが )、大好きな マイケル・フランクス Michael Franks によって 語るがごとく歌い綴られた、この素晴らしい録音です。


演奏:マイケル・フランクス(ヴォーカル )、ハーヴェイ・メイソン(ドラムス )、ジョン・パティトゥッチ(アコースティック・ベース )、パット・ケリー(ギター )、ブラッド・ダッツ(パーカッション )、デヴィッド・ベノワ(ピアノ )
アルバム:デヴィッド・ベノワ Remembering Christmas (GRP MVCR-242 )
リリース:1996年
「スケーティング」 Skating
これも ピアニスティックなガラルディのオリジナル名曲です。

アニメの中では 子どもたち - ルーシー、パティ、シュローダー、ライナス - が、降ってくる雪片を 口で受け止めようと冬空に向けて口を開ける、微笑ましい場面で短く使われていました。
この後、この曲は 劇場用長編アニメーション「スヌーピーとチャーリー A Boy Named Charlie Brown 」の中でも、アイス・スケート・リンクの氷上で 美しく伸びやかに滑るスヌーピーの素晴らしいフィギュア・スケートの場面で再使用され、そこで最大限の効果が生かされたのでした。
「ホーク・ザ・ヘラルド・エンジェルス・シング」 Hark, the Herald Angels Sing

すでに 前述のとおり、アニメのラストシーン 子どもたちのコーラスで歌われる、メンデルスゾーン作曲の旋律を使った 讃美歌「天(あめ )には栄え 」ですね。
「クリスマス・イズ・カミング」 Christmas Is Coming
これもガラルディの個性が溢れる楽しい作品。

後年ファンタジーからリリースされることになるコンピレーション盤「チャーリー・ブラウンの休日 Charlie Brown's Holiday Hits 」の中に収録された「運動会(Track Meet ) 」という未発表曲があるのですが、タイトルこそ違えど これは「クリスマス・イズ・カミング 」と同一曲なんです。
なぜこんなにわくわくさせられるような楽曲に出来ているのか、それは やはりガラルディがよく用いる手法 - 左手のベース固定音(B♭ )のパルスに乗せて、Fマイナー7 や E♭メジャーなど変ホ長調のスケールで構成されるコードをそこにどんどん重ねてゆくというモーダルなサスペンション - の魅力なのでしょうね。途中、曲はさらに突然ハ長調に転調して、リッチー・ヴァレンスの1958年のヒット曲「ラ・バンバ 」と同じコード進行で盛り上がるという意外性もガラルディらしい部分と思います(・・・1958年とは ハリー・シメオン合唱団「リトル・ドラマー・ボーイ 」のヒットと同年。偶然? )。
なお アニメの中では「ライナス・アンド・ルーシー 」が使用されているシーンと同様、演劇の稽古をほっぽらかしにしてダンスに興じている子どもたちの場面で使われています。そこでも ピアノをシュローダーが弾いているという設定です。
「エリーゼのために」 Für Elise WoO.59
これは 言うまでもなく、ベートーヴェンによって 1810年頃に作曲された超有名曲。


よく知られるように この曲のタイトル「エリーゼ Elise 」は、本当は「テレーゼ Therese 」(テレーゼ・マルファッティ )だったという説が 今日では有力です。事実 この楽譜は、彼女の遺品の中から発見されたものだったそうです。
この曲は 今回のアニメ・ストーリー中、シュローダーのピアノから流れ出す 唯一のクラシック楽曲という意味で 貴重なナンバーです。
チャーリー・ブラウンがライナスと二人でツリーを探しに外出した後で、シュローダーは ルーシーに「この曲をクリスマスの寸劇の中で使おうと思っているんだ 」などと説明しながら 彼女に弾いて聴かせるのですが、その時 彼いわく「 『エリーゼのために』は、ベートーヴェンのクリスマスの曲 」であると言うのです - ? 何か理由があってのこととは思うのですが、意図不明です、今はノー・コメントとさせて頂きましょう。 ・・・後日、もし何か判ったら書き加えます。
サウンド・トラック盤には この後「ザ・クリスマス・ソング The Christmas Song 」も収録されていますが、実際にアニメの中では未使用でした。この名曲は クリスマスに欠かせない傑作で、ナット“キング ”コールによる録音(Capitol )盤が有名ですが、この歌の作曲者で ジャズ・ヴォーカルの最高峰とも讃えられるメル・トーメ“Mel” Tormé (1925 ‐ 1999 )自身が残した録音も数多く知られています。そう言えば このメル・トーメも晩年 お返しのように ガラルディ作曲の「クリスマス・タイム・イズ・ヒア 」を歌っていましたね。
その他、このサウンド・トラック盤には未収録でしたが、スヌーピーが 忙しく 自分の小屋をクリスマスのオーナメントで 飾りつけるシーンで ユーモラスに使われていた 「サーフィン・スヌーピー」 Surfin' Snoopy という速いテンポの軽快な楽曲は、前述のコンピレーション盤「チャーリー・ブラウンの休日」 Charlie Brown's Holiday Hits の中で、「運動会」 Track Meet と一緒に、未発表曲のひとつとして収録されていましたね。
■ シュローダーは トイ・ピアノで どんな音でも出せるのか
では、最後に このアニメの中に出てくる ひとつの 不思議なシーン を 解読してみましょう。
ルーシー 「 ねえシュローダー、『ジングルベル 』弾ける? 」

シュローダー ( 『ジングルベル 』を弾く。トイ・ピアノだが いつものようにグランド・ピアノの音で )
ルーシー 「違う、そうじゃないわ。『ジングルベル 』よ 」
シュローダー ( 『ジングルベル 』を弾く。今度はハモンド・オルガンの響きで ゴスペル調に聞こえる・・・ )
ルーシー 「違うってば。ほら、『ジングルベル 』よ、サンタさんがホーホーホーっていうヤツ、知らないの? 」

シュローダー ( 指1本で『ジングルベル 』を弾く。今度は 正しくトイ・ピアノのチープフル Cheapful な音 )

ルーシー 「それよ! That's It ! 」(シュローダー、吹っ飛び )

・・・これは 一体 どういう意味なのでしょう。
そのヒントは こちらです。 ⇒ 「なぜ シュローダーが弾くトイ・ピアノは スタインウェイの響きがするのか 」
このストーリーの中では 拝金主義者のルーシーは、すでに子どもの想像力 イマジネーション を喪失しており、彼女には シュローダーのピアノから スタインウェイやオルガンの 豊かな響きを聞きとることは もはや出来なくなっているのです。
ここで 彼女が聞き取ることの出来た 唯一の音こそが、ありのままの トイ・ピアノの音 だけでした。そして、実は この音こそが、シュローダーの 空想上でこそ スタインウェイ・コンサート・グランド のサウンドなれど 実際には 彼がいつも叩いている トイ・ピアノ の「リアル 」で「夢がない 」「現実の 」音 だったのです!
ルーシーは 自分から シュローダーとの「ごっこ 」遊び を拒否する - 少なくとも 共有出来ないことを 宣言する - 格好になっています。魔法が解けた シュローダーが不機嫌な表情をしている理由がそれなのです。そして お気に入りの「ごっこ遊び 」を 彼女に拒絶されたシュローダーは、そのショックのあまり 回転したに違いないのです。
この場面は、ピーナッツ・アニメにおける、シュローダーのトイ・ピアノが その役割を果たしている 基本的な「約束ごと 」を 制作者 が 逆手に取ることによって、実は 子どもたちの心の 危機的な状況を 表現しているのではないでしょうか。
■ さらに 深読みすると・・・
コマーシャリズムや商業主義に 独り違和感を覚えていたチャーリー・ブラウンは、 このアニメのラスト・シーンでは 皆に子ども本来の心を無事に取り戻させることに成功します。
最後の場面で 賛美歌「天(あめ )には栄え 」を唱和する子どもたちは、今や クリスマスの意味を知り、純粋な心を取り戻した結果、ルーシーを含む全員が きっとシュローダーのトイ・ピアノから スタインウェイの豊穣なる響きを聴き取ることができたでしょう。
そうなんです、「チャーリー・ブラウンのクリスマス 」のストーリーとは、拝金主義=悪魔に魂を奪われていた仲間たちの純粋な魂を、チャーリー・ブラウンが ライナス(神の言葉 )の力を借り、自分自身を犠牲にする(木のツリーはチャーリー・ブラウン自身の象徴でもあり、これが折れてしまうこと が 彼の犠牲の死を意味する )ことによって 救済へと導く、キリスト教の精神を 忠実に ドラマ化したものだったのです。


本来の 子どもらしい心 を取り戻した子どもたちが 今度は 力を合わせ 折れた木のツリーを 美しく飾りつけし直すことによって、チャーリー・ブラウンもまた 「復活 」を遂げ、登場人物は みな全員で クリスマスの讃美歌を唱和するのでした。
そんな子どもたちの表情は、まさしく 天使のようではありませんか!
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