本記事は、10月14日の 「注目記事ジャズ ランキング 」、および
10月21日の「 注目記事クラシック音楽鑑賞 ランキング 」においても
それぞれ 第1位 となりました。
皆さまのおかげです、これからも 何卒よろしくお願い申し上げます。


スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
「アフター・シュトラウス & “ バイ・シュトラウス ”」
After-Strauss & “By Strauss”
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(27)1961年 ビル・エヴァンス
 「ワルツ・フォー・デビイ Waltz For Debby 」

  - 音楽における即興 - 
写真Disc-2-14 Bill Evans Composing ビル・エヴァンス 左利きだ!
「ワルツ・フォー・デビイ 」 ~ 同名タイトル、ライヴ・アルバムより
  ビル・エヴァンス Bill Evans(ピアノ )
  スコット・ラ・ファロ Scot LaFaro(ダブル・ベース )
  ポール・モーシャン (モチアン ) Paul Motian(ドラムス )
収録曲:
マイ・フーリッシュ・ハート、ワルツ・フォー・デビイ、デトゥアー・アヘッド、マイ・ロマンス、サム・アザー・タイム、マイルストーンズ
録 音:1961年6月25日 ニューヨーク、ヴィレッジ・ヴァンガード、ライヴ
音 盤:Riverside (ビクター エンタテインメント / VICJ-5084 )


Bill Evans with Debby ビルエヴァンスと姪デビィ

■ 「音楽における即興

 本来 音楽の要素としてたいへん重要でありながら、いわゆる西洋音楽史から殆ど すっぽりと抜け落ちてしまっている要素が「即興演奏 」です。
 W.A.モーツァルト (1756 - 1791 )が、歌劇「フィガロの結婚 」に熱狂するプラハの人々を前にして行なった演奏会(新作として初演された 交響曲第38番 ニ長調 K.504 を披露した後 )で、熱心な聴衆のリクエストに応えて クラヴィーア(当時のピアノ )による 即興演奏 を行なった、という記録があります。それは 自作の「フィガロ~ 」からのメロディを主題にした 奔放な変奏曲演奏だったとも言われ、その天才的な閃きに溢れた迫真の演奏が終わった瞬間、会場は熱狂し、拍手と歓声が長い時間 鳴りやまなかったそうです。
この関連記事 ⇒ こちら 「1787年、架空のプラハ・リサイタル
 クラヴィーアを弾くモーツァルト(エッチング、G.A.Sasso ) 「クラヴィーアを弾くモーツァルト 」

 ・・・しかし、言うまでもなく この時のモーツァルトの演奏を 正確に伝える方法など 当時はありません。西洋のクラシック音楽は、基本的に「記譜されることによって 音楽の再現を可能としてきた 」ため、その場で生まれては その場で消えてしまう即興演奏という形態は、再現不能であるがゆえに 評価や研究・分析の対象とはなり得なかったのです。卓越した即興演奏家であったとされるベートーヴェンパガニーニ、リストらの演奏も、残念ながら200年前の空気中に雲散霧消してしまったのです。申すまでもなく 音楽の本質とは「音 」であり、それは「(はかな )きもの 」でした。
 けれど その状況が大きく変わったのが1877年です。
 最初の蓄音機とエジソン 
エジソンと最初の蓄音機 Phonograph

 偉大なるエジソン Thomas Alva Edison(1847 – 1931 )によって発明された蓄音機による録音技術は、その後 一世紀以上の長きに渡って 改良に改良が重ねられた結果、保存された「音 」に さらに客観的で厳しい評価にも耐え得る「一定の長さ(収録時間 ) 」と「一定の質(音質 ) 」とが加わりました。これを経て、機械によって録音された(本来は一度限りであった筈の )演奏を 客観的に「繰り返し聴いて楽しめる 」という、まったく新しい体験が現実のものとなる日が 遂に訪れたのです。
 即興そのものを 主要な音楽成分としている「ジャズ JAZZ 」は、発展する機械技術の助けを借りて「レコーディング 」されることによって 初めてその真価がパブリックに見出されたものだと思います。尚且つアメリカという巨大な新しい舞台に生まれた数多くの才能豊かな演奏家の出現によって、その真実の姿は さらに美しく磨かれる場所を得た - と言えるのではないかと思うのです。
 この新しい音楽ジャンル JAZZ は、機械技術の発展という背景なしには 前世紀から これほどまでに発展を遂げることは 決してあり得なかったでしょう。 ・・・と、以上 ここまで簡単に要約してしまうと ごく平凡な「一般論 」になってしまうのが 何だかとても悔しいですが、実は コレが かつてのわたしの卒論テーマでした(「音楽における即興 」 )。
 拙Blog - “スケルツォ倶楽部” 会員の大半を占めると思われるクラヲタの皆さまにも きっと受け入れられるに違いない、成熟したモダンなジャズ・ミュージシャンによる即興演奏ワルツを一曲、ご一緒に聴きましょう。 - と言っても、実際にはワルツ・リズムは最初のワン・コーラスのみ、ドラムスが加わって インプロヴィゼーションが始まると、リズムは自然に4ビートへと転じるのですが。
Bill Evans Trio (1961 )
 スコット・ラ・ファロ(1936-1961 )のダブル・ベース、ポール・モーシャン(1931 - )のドラムスを従えた、名ピアニスト ビル・エヴァンス(1929-1980 ) いわゆる“黄金のトリオ”が ニューヨークのジャズ・クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード Village Vanguard 」に出演した晩の歴史的なライヴ・レコーディングです。
 それは あたかも ジョン・ケージの「4分33秒 のように、音楽以外のノイズ - 聴衆の拍手はもちろん、レストランのテーブルに着いて食事している観客たちの低い話し声やざわめき、談笑、ナイフやフォークが皿に当たる音、ウィスキー・グラスに氷が当たる音、そして時々遠くから聞こえてくる呼び鈴やレジスターの音 - によって 臨場感までもステレオで録音され、音楽の一部となったことは、おそらく当時 まったく新しい体験であり、まさに特筆すべきことでした。

 ビル・エヴァンス・トリオによる この日の午後の演奏が 実況録音で残っていたことを、私は 音楽の神様に感謝したくなります。 ・・・なぜなら この演奏の10日後、自動車事故で25歳の若さで急死してしまうことになる「未完の大器 」スコット・ラ=ファロのピッツィカートは、エヴァンスの瑞々しいピアノと控えめな名手ポール・モーシャンのブラッシュさばきと共に、永遠(とわ )に忘れることの出来ぬ戦慄の瞬間を 今も力強く弾(はじ )いているからです。

ヴィレッジ・ヴァンガード 当日午後と夜のセットが聴ける完全盤は こちら
Bill Evans Trio (1961 ) (3) Complete Village Vanguard Recordings 1961
(左から )スコット・ラ・ファロ、ビル・エヴァンス、ポール・モーシャン
1961年 6月25日 ニューヨーク、ヴィレッジ・ヴァンガード
下記 リスト中 赤字の楽曲 は、
アルバム「ワルツ・フォー・デビイ 」に収録されたオリジナル・マテリアルです。

アフタヌーン・セット:1
   1. Spoken Introduction
   2. Gloria's Step (Take 1、途中落雷による停電で中断部分あり )
   3. Alice In Wonderland
   4. My Foolish Heart
   5. All Of You (Take 1 )
   6. Announcement And Intermission
アフタヌーンセット:2
   1. My Romance (Take 1 )
   2. Some Other Time
   3. Solar
イヴニングセット:1
   1. Gloria's Step (Take 2 )
   2. My Man's Gone Now
   3. All Of You (Take 2 )
   4. Detour Ahead (Take 1 )
イヴニングセット:2
   1. Discussion Repertoire
   2. Waltz For Debby (Take 1 )
   3. Alice In Wonderland (Take 2 )
   4. Porgy (I Loves You, Porgy )
   5. My Romance (Take 2 )
   6. Milestones
イヴニングセット:3
   1. Detour Ahead (Take 2 )
   2. Gloria's Step (Take3 )
   3. Waltz For Debby (Take 2 )
   4. All Of You (Take 3 )
   5. Jade Visions (Take 1 )
   6. Jade Visions (Take 2 )
   7. ...A Few Final Bars


■ ちょっと脱線、「サム・アザー・タイム Some Other Time 」
Leonard Bernstein 
作曲者 レナード・バーンスタイン

 さて、ここで またも話題を脱線させてしまい、申し訳ありません。
 ライヴ・アルバム「ワルツ・フォー・デビイ 」のオリジナルL.P.レコードなら B面 2曲目に収録されている レナード・バーンスタインが作曲したミュージカル「オン・ザ・タウン On The Town 」の中から 選ばれし一曲「サム・アザー・タイム Some Other Time 」の、絶美とも言えるピアノの響き に 個人的には 強く心惹かれています。
 「サム・アザー・タイム Some Other Time 」における ビル・エヴァンスの解釈は、後年 1964年に北欧の女声歌手モニカ・ゼタールンド(セッテルンド Monica Zetterlund 1937 - 2005 )が 当時のエヴァンス・トリオ - チャック・イスラエル(ベース )、ラリー・バンカー(ドラムス ) - による伴奏で「ワルツ・フォー・デビイ 」をスウェーデン語訳詞で(! )歌ったことでも知られるアルバム(写真1 )の中に収録されたバージョンでは 彼女の声域に合わせてヘ長調に移調されてましたが、さらに1975年にも 大物歌手トニー・ベネットとのデュオ・アルバム(写真2 )でも演奏しているほどですから エヴァンスがヴォーカリストと共演する際には「ワルツ・フォー・デビイ 」と並んで常に取り上げるレパートリーだったような印象を勝手に抱いています。
 そこでは ゆったりと五度を刻むベースに乗せて 展開したCとFのコードをシンプルに繰り返すピアノの伴奏音型が印象に残りますが、これが 実は エヴァンスが参加したことによって あの独特の雰囲気が決定したとも言い得る マイルス・デイヴィスの歴史的傑作「カインド・オヴ・ブルー Kind of Blue (1959年 / CBS ) 」のラストに置かれた「フラメンコ・スケッチズ Flamenco Sketches 」(写真3 )における そのピアノ・プレイ・・・、それは さらにその前年(1958年 )エヴァンス自身のリーダー作「エヴリバディ・ディグス・ビル・エヴァンス Everybody Digs Bill Evans (1958年 / Riverside ) 」で披露された 秀逸なるソロ・ピアノ・ナンバー「ピース・ピース Peace Pieace 」(写真4 )を経過しながら 徐々に結晶していった軌跡を その演奏から聴き取ることが出来、これらすべてを並べて 各セッション毎にビル・エヴァンスのプレイを聴き比べてみることは とても楽しいです。

(1 )1964年 モニカ・ゼタールンド With ビル・エヴァンス(Philips )
収録曲 :
降っても晴れても、ビューティフル・ローズ、ワンス・アポン・ア・サマータイム、ソー・ロング・ビッグ・タイム、ワルツ・フォー・デビイ、ラッキー・トゥ・ビー・ミー、悲しき風、イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー、サム・アザー・タイム、イン・ザ・ナイト

Waltz for

(2 ) 1975年 トニー・ベネット & ビル・エヴァンス(Fantacy )
収録曲 :
ヤング・アンド・フーリッシュ、ザ・タッチ・オブ・ユア・リップス、サム・アザー・タイム、ホエン・イン・ローマ、ウィル・ビー・トゥゲザー・アゲイン、マイ・フーリッシュ・ハート、ワルツ・フォー・デビイ、バット・ビューティフル、酒とバラの日々

Bill Evans_0001 ビル・エヴァンス 左利きだ!

(3 )1959年 マイルス・デイヴィス「カインド・オヴ・ブルー 」(CBS )
収録曲 :
ソー・ホワット、フレディ・フリーローダー、ブルー・イン・グリーン、オール・ブルース、フラメンコ・スケッチズ

kind of Blue (CBS)

(4 )1958年 ビル・エヴァンス「エヴリバディ・ディグス~ 」(Riverside )
収録曲 :
マイノリティ、ヤング・アンド・フーリッシュ、ラッキー・トゥ・ビー・ミー、ナイト・アンド・デイ、エピローグ、テンダリー、ピース・ピース、ホワット・イズ・ゼア・トゥ・セイ、オレオ、エピローグ

Bill Evans_0003

 ・・・さらに。
 これらに関連して、たまたま先日 初めて出会えた 一枚の音盤を ここで唐突にご紹介 - それは 行きつけのジャズ喫茶ソッ・ピーナに足を運べば、最近 マスターのお気に入りであるらしく、いつお店に行っても ヘヴィ・ローテーションで コレばかり かかってるんですけど。 
 それは、近年「ラッキー・マリア 」のヒットでも有名な ジョエル Joelle の歌唱による スタンダード・ナンバー「ザッツ・オール That’s All 」という一曲です。

ジョエル Joelle「ザッツ・オール That’s All 」
ジョエル Joelle
ラヴ・レターズ Love Letters  [キング KICJ-524 ]
演 奏 :ジョエル(ヴォーカル )、アンダーシュ・パーション(ピアノ )、森泰人(ダブル・ベース )
録 音 : 2007年 スウェーデン
収録曲 :
ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング、恋に落ちた時 When I Fall In Love、マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ、ザッツ・オール、マイ・ロマンス、ラヴ・レターズ、ビー・マイ・ラヴ、ソー・イン・ラヴ、ムーン・リヴァー
 
 注目の 「ザッツ・オール That's All 」 は、おそらく ビル・エヴァンスに かなり傾倒している 若い編曲家によるアイディアによって巧みなアレンジが施されています。ネタばらし自粛のため その詳細は 敢えて申し上げませんが・・・ ぜひ機会があったら 聴いて 驚いてください、ジョエル「ザッツ・オール That’s All 」、素晴らしいです。
 ・・・あ、もちろんアレンジばかりじゃありませんよ。「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング 」や「マイ・ロマンス 」など、おそらく意図的にビル・エヴァンスにちなんだ名曲も多く採り上げられていますし、さあ 試みに 週末の深夜にでも お酒を飲みながら CDの音量も控えめに そっとプレイ・ボタンを押してみてください。たとえば ポール・デスモンドのような ソフトなサックスが控えめに入ってくれば さらに締まったのでは・・・ という気がしないでもなく、また近年キース・ジャレットECM盤“The Melody At Night, With You” でも披露した ワルツマイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ 」といった 必ずしもジャズ・ヴォーカル曲とは言えないような楽曲もありますが 決して悪いという意味ではなく、むしろ その雰囲気は いずれも素晴らしい、抑制も効かせた 潤(うるお )いある歌唱が、きっと 貴方の一週間の仕事の疲れも癒してくれますよー。 
 ・・・って、この項 一部 発起人(妻 )の加筆あり。

■ ・・・で、もとい。
 モダン・ジャズのピアノ演奏史に「ビル・エヴァンス以前 」と「以後 」とをはっきりと刻み込んだ その偉大なる功績を、残されたレコード(CD )に耳を傾けることによって、かつてモーツァルトの時代には決して許されなかった「(はかな )き音楽 」を、今や 私たちは 追体験することさえ可能となったのです。その 底知れぬほど深き 至福の時(! )を与えてくださって -  ありがとう、エジソンさん。


1962年  キューバ危機、回避される。
      ビートルズ、メジャー・デビュー。

1963年  米、人種差別撤廃・雇用拡大を要求するワシントン大行進に20万人参加。
      ケネディ、テキサス州ダラスで暗殺される。

1965年  ホロヴィッツ、カーネギーホールで ヒストリック・リターン。
      チャーチル、シュヴァイツァー、ナット・キング・コール 没

1966年  ベトナム戦争 激化。
      中国文化大革命。

1967年  第三次中東戦争で イスラエル、アラブ諸国に圧勝。

1968年  クロイダー作曲 ワルツ「ザッハー・トルテ 」、に続く・・・

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