本記事は10月13日「 注目記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部 
「モーツァルト 最期の年 」 
モーツァルト 最期の年     ▶ もくじは こちら



(9)「デスマスクを壊せ! 」
    ラウドン元帥の肖像 ラウドン元帥の胸像
    ラウドン将軍の (左 )肖像画 (右 )胸像

 ・・・その老人の声は たしかにラウドン元帥の蝋(ろう )人形のあたりからしました。ジュスマイヤーは 椅子から立ち上がると きょろきょろ周りを見回しましたが、将軍の霊廟の中には やはり彼一人しかいません。ただ自動オルガンだけが、W.A.の作曲した幻想曲 ヘ短調 を 大音量で演奏し続けています。
空耳かな - と思いつつ、
「ここに・・・誰かいるんですか 」
とジュスマイヤーがおそるおそる声を上げてみると、再び老人の声が応えました。
「 - お前には わしの声が届いたのか 」
間違いありません、確かに本物の人の声です。
「あ、あなたは どなたですか 」
「若者よ、恐れるな。わしは ラウドンじゃ。ギデオン・フォン・ラウドン 」
「ラウドン閣下・・・ 」
それは この霊廟に祭られている将軍自身の声だったのでした。
「ほう、ありがたい。ダイムの奴には 今まで何度も話しかけたんじゃが 奴め、一度も返事をせんのじゃよ 」
「・・・何と不思議なことでしょう 」
「ははあ、もしかしたら 今 わしの霊廟に流れている この新しい音楽の力かも知れんぞ。わしは 音楽には詳しくないが、これは今までになく見事な曲だと思う 」
「我が師 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの作品です 」
ジュスマイヤーは 誇らしげに答えました。
「そうか - 。お前は 良い先生についておるようじゃのう。ところで、石膏で死者の顔の型を採ったデスマスクに 実は 本人の魂を地上に引き留めてしまう霊力があることを 知っておるか 」
もちろんジュスマイヤーは 即座に首を横に振りました。
「ふふん、そうであろう。生者は誰も知るまい。わしも自分自身が死んで こうなってから初めて知って 愕然としておる 」
ラウドン将軍の声は、苦しげに語り続けます。
「この建物の主は ヨーゼフ・ダイムという 何でも器用にやる男じゃが、奴はプロイセンとの戦争が終結する頃まで軍隊におって、そこではわしの配下で小隊長を務めておったんじゃ。その当時から わしのことを慕ってくれてな、だからわしが死んだ直後には駆けつけて、涙を流しながらデスマスクを採ってくれたものじゃった。だが魂を地上に縛りつけるこの霊力について 間違いなく 奴は何も知らずに、ただ良かれと思ってやったことなのだろうが、その結果 わしは いつまでも天国に迎え入れられず、現世をこうして漂っておる ・・・ふふん、漂うってか? いや、蝋人形になっているから、この世を“ 楽しく ”漂うことさえ許されぬ身さ 」。
自嘲的に 将軍は笑いながら 言い添えました。
「わしは この暗い部屋に いつまでも人形として置かれっ放し、永遠に縛られ続けるというわけだ。東洋的に言えば『成仏できない 』状態でな。プロメテウスの苦しみにも等しい、まさに拷問じゃ・・・ 」
そう言うとラウドン将軍は 悔しそうに途中で黙りました。ジュスマイヤーは 気の毒な将軍の 何か力になれないものだろうかと考えました。
「どうすれば 閣下の魂は 天国へ迎えられるのでしょうか 」
「それを - よくぞ それを聞いてくれた! 」
ラウドン将軍の声は心底うれしそうでした。
「それは 生者から尋ねられなければ、決して その方法を教えることは許されていなかったからなのじゃ 」
将軍が 少し声をひそめたので、ジュスマイヤーは人形に近づきました。
「私に 出来ることなのでしょうか 」
「とても簡単だ。わしの魂を閉じこめている この蝋人形の原型は、わし自身のデスマスクなんじゃ。その石膏のマスクさえ叩き壊せば、それだけで わしは呪縛を解かれ、天国の門をくぐることができるのだ 」
「閣下のデスマスクのオリジナルとは、今どこに - 」
「おお、感謝する。この反対側のドアを開けろ。そこは倉庫で、その最も奥の棚に置かれておる 」

 ジュスマイヤーは走りました。そしてラウドン元帥の声に教えられたとおり 倉庫のドアを開けると、その奥には 黒い薄布がかけられた白い石膏のデスマスクが。
「これですか? 」
「うむ それだ、壊せ! 」

  ― つづく  ( この物語は パラレル・ワールドのフィクションです。史実との違いを お楽しみください )


■ 本日の音盤 
モーツァルト オルガン作品集_タヘツィ(Teldec ) オリジナル・ジャケット(Telefunken )
「モーツァルト オルガン作品集 」
収録曲:
自動オルガンのためのアダージョとアレグロ ヘ短調 K.594、教会ソナタ ヘ長調 K.244、アレグロ ト長調K.72a(ヴェローナのアレグロ )、ジーグ ト長調 K.574(ライプツィヒのジーグ )、自動オルガンのための幻想曲 へ短調 K.608、教会ソナタ ハ長調 K.328、自動オルガンのためのアンダンテ ヘ長調 K.616
演 奏:ヘルベルト・タヘツィ(オルガン )
録 音:1969年 3月 ウィーン
音 盤:Teldec (Telefunken )
 
 ミュラー芸術館の機械仕掛け自動オルガンが現存しない以上、そのオリジナルの音色は 人の手によるオルガン演奏で偲(しの )ぶしか方法はありません。 
 ラウドン元帥の霊廟で鳴らされる目的で作られた三曲を含む モーツァルトの主要なオルガン作品を、アーノンクール教会ソナタでは チェロで参加! )のウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの鍵盤楽器奏者として著名なオルガンの名手タヘツィが、ウィーンマリア・トロイ教会のオルガン(1800年頃に製造 )で弾くのを聴くことが出来ます。明快なタッチと重厚な響きとを両立させた素晴らしい演奏ですが、少し音量を上げて耳を澄ますと ぱたんぱたんと鍵盤が戻る音まで遠くから響いてくるのが さらに臨場感を高めてくれます。
 なお モーツァルト J.S.バッハの対位法を研究していた頃にライプツィヒで作曲した佳曲「ジーグ ト長調(ライプツィヒのジーグ )K.574 」は、ピアノで弾かれた音盤こそ数多く存在するものの、オルガン演奏の録音は極めて少なく、個人的には これが聴けることだけでも大変貴重な一枚であると思っています。


ハイドン 交響曲_0001
ハイドン 交響曲第69番 ハ長調「ラウドン 」Hob.Ⅰ-69
アンタル・ドラティ指揮 Antal Dorati
フィルハーモニア・ハンガリカ Philharmonia Hungarica
録音:1969年 マール(聖ボニファティウス教会 )
Decca 478 1221(Haydn Complete Symphonies 33枚組 )に収録

 この交響曲(1778年作曲 )に オーストリア軍隊の強さを諸外国に示し帝国の威厳を保った功績を誇るラウドン将軍の名を そのタイトルとして冠したのは、井上太郎氏の労作「ハイドン 106の交響曲を聴く (春秋社 )」に拠れば、作曲者であるヨーゼフ・ハイドン自身だった(!)そうです。
 ハイドン 交響曲_0002
 しかも なんと「ラウドンの名前はフィナーレを10通り作るより売り上げを伸ばすだろう 」などと言ったとか・・・。ハイドン先生の 商魂逞しい一面が垣間見えてしまいます。
 たしかにこれは いかにもハイドン先生というスタイルの典型で、重厚壮大というより どちらかと言うと 楽しく軽快な古典交響曲 - ですから付されたタイトルの必然性は・・・ 殆ど感じません w.


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