本記事は 8月31日「 注目記事 ランキング クラシック音楽鑑賞 」 および
9月 2日「 注目記事 ジャズ ランキング 」 の 両方で(! ) 第1位 となりました。
皆さまのおかげです、これからも 何卒よろしくお願い申し上げます。


スケルツォ倶楽部 の メニュー は こちら  ⇒ All Titlelist

スケルツォ倶楽部 Club Scherzo 
「同時に二つのメロディが重なる音楽の 素敵な効果 」
「ショパンの練習曲に基づく練習曲集 」ハイペリオン(CDA-67411~12 ) 映画「5つの銅貨 The Five Pennies 」 ビートルズ 「レット・イット・ビー Let It Be 」

 今晩は。
 当ブログ スケルツォ倶楽部 8月10日の記事「スヌーピーの音楽 の中で、往年の名画「カサブランカ Casablanca(1942年製作、マイケル・カーティス監督 ) 」について 少し触れましたが、その日 乏しい記憶に誤りがあってはいけないと思い、一応 念のためDVD「カサブランカ 」で イングリッド・バーグマン の“Play It Again ”の場面だけを確かめるつもりで 観はじめたところ・・・ やはり作品の素晴らしさのあまり、途中下車することが出来なくなってしまい、気づいたら 感銘のラストシーン - 今宵も 寝るのが 夜中の 3時を過ぎてしまいました ≪タメイキ≫
カサブランカ オリジナル・サウンドトラック
 その映画のタイトル「カサブランカ 」とは、戦前までフランスの植民地だった(当時はフランス本国と共にナチス・ドイツ軍の占領下に置かれていた )モロッコの港町の地名です。
 名優ハンフリー・ボガート演じるドラマの主人公リックは、その町 - カサブランカ - で 高級酒場を営んでいますが、監督マイケル・カーティスが ここを映画の主舞台に選んだことは、まさに絶妙です。リックの酒場は 当時の戦中ヨーロッパの縮図を描いていると言ってもよく、そこでは ヨーロッパ脱出の機会を狙う亡命者 - その多くは 自由の国アメリカへの逃亡のチャンスを待つフランス人 - が息をひそめ、同時に 圧制者たるドイツ軍人が幅を利かせ、フランス解放戦線の活動家が潜伏し、その微妙なバランスの上にイタリア人実業家が存在していたり、フランスとドイツから二重の支配を受けている北アフリカ人など、さまざまな立場の人種が複雑に入り乱れることによって ドラマに深みと厚みを与えているからです。
 映画の中では、時代背景的に第二次大戦時のアメリカ(連合国 )側の敵国であったナチス・ドイツ軍が、徹底的にステレオタイプの悪役として 極めて類型的に扱われていました。そんなナチスの士官らが 酒場のアップライト・ピアノを囲んで「ラインの護り Die Wacht am Rhein 」という勇壮なドイツ愛国歌を歌い出すシーンが 特に印象深く 記憶に残っています。
ラインの護り ラ・マルセイエーズ(カサブランカ、ヴィクター・ラズロ )

 この民謡「ラインの護り 」は、奇しくも19世紀前半のドイツ(当時のプロイセン )とフランスとの国境紛争が盛んだった時代に作曲されており、普仏戦争(1870 ~71年 )を経て 第一次大戦の頃までドイツ人によって(常にフランスを敵国として )広く軍歌として愛唱されてきた民謡だったそうです。
 映画では この「ラインの護り 」を酔って大声で歌うドイツ士官たちの振舞いに憤った、自由フランス解放活動家のヴィクター・ラズロ(ポール・ヘンリード )が、店内のバンドに指示して フランス国歌「ラ・マルセイエーズ 」を演奏させ(反ナチ派のリックも陰でこれを了承し、さり気なくミュージシャンに『よし、やってしまえ! 』と頷く一瞬のカットが 実に格好良い )、これに 店内の客全員が呼応して一斉に声を揃えながら「ラ・マルセイエーズ 」を歌い出し、少数のドイツ士官らを遂に圧倒してしまうまでのこの短いシーン・・・

 
 こここそ まさに 音楽の力 を感じた名場面でした。 
 注意深く聴いておられたかたは すでにお気づきと思いますが、耳を 傾けるべきところは、ドイツ士官らが歌う 「ラインの護り 」 と 店内の民衆が声を揃えた 「フランス国歌 」 という 異なる二つの音楽 は、まるで競い合うように同時に鳴っていたにもかかわらず、音楽的には 殆どカオス(混乱 )を感じさせなかったばかりか、むしろ 調和さえ していた(! )ということです。
 ここでは 音楽監督マックス・スタイナーの編曲によって、二つのメロディの和声進行を巧みに一致させる工夫が凝らされており、ごく短い時間ではありますが、同じコード進行上で 対位法的(ポリフォニック )に二つの旋律が絶妙なバランスを保ちつつ 同時に動くよう予め計算された効果を発揮した結果だったに違いありません。


   


 たとえば 「ロンドン橋 落ちた 」と「メリーさんの羊 」や、 「雪やコンコン 」と「春が来た 」など、同時に歌うと きれいに かみ合う童謡が存在することは、昔からよく知られていますよね。
 では、大作曲家の作品でも有名な例を挙げるとすれば・・・そうですね、アメリカの歌謡作曲家フォスター Stephen Collins Foster(1826 – 1864 )の名曲「故郷の人々 」と、ニューヨーク・ナショナル音楽院院長としてプラハから赴任してきたドヴォルザーク Antonín Leopold Dvořák(1841 – 1904 )の小曲「ユーモレスク 」とを 同時に同じ調性で演奏すれば、ぴたりと合う(! )という例なら有名ですから、 多分 当“スケルツォ倶楽部 ”会員の皆さまなら どなたもご存知でしょう。
 Stephen Collins Foster ドヴォルザーク Dvorak
(左 )フォスター、(右 )ドヴォルザーク

二つのメロディが 対位法的に調和_0001

 主旋律対旋律とを 対位法的に組み合わせるポリフォニックな手法を使った音楽作品(とくに古今のオペラで )は、おそらくはるか昔から無数に存在してきたことと思います。
 思いつくまま挙げてみるだけでも、ロッシーニ「セヴィリアの理髪師 」第1幕伯爵フィガロによる男声二重唱のアンサンブルが楽しい「お金を見れば知恵が湧く 」の後半部分を筆頭に、ワーグナー「神々の黄昏 」第2幕幕切れ部分 - 陰謀によるものとは知らずに ジークフリートへの復讐を誓ってしまうブリュンヒルデと名誉を失ったグンターの二人を利用してニーベルングの指環を奪おうと企むハーゲンとによる - の三重唱の複雑さ、ヴェルディにも「リゴレット 」、「アイーダ 」、「オテロ 」など枚挙にいとまがないほどですし、さらにプッチーニにも「ラ・ボエーム 」第3幕幕切れ部分二組の恋人たちの喜怒哀楽を表現する四重唱など・・・。
 けれど 実際 その多くは、複雑なアンサンブルではあるものの、よく整理して聴いてみると、二つの旋律の比重が同等の重みを占めているような( - つまり純粋に「主旋律が二つ 」並存するような、という意味 )そんな音楽作品は、意外に少ない ということに注目しました。では これを探してみよう、というのが 今回のテーマです。


   


 最も有名な作品のひとつとして 誰もが真っ先に思い浮かべる音楽は、やはり ジョルジュ・ビゼー組曲「アルルの女 」から、あの「ファランドール 」でしょう。 
Georges Bizet (1838‐1875) イーゴリ・マルケヴィチ指揮 コンセール・ラムルー管弦楽団 PHILIPS(ユニバーサル UCCP-9533 )
ビゼー作曲
「アルルの女 」第2組曲から「ファランドール 」
イーゴリ・マルケヴィチ指揮 コンセール・ラムルー管弦楽団
録音:1959年12月 パリ
音盤:PHILIPS(ユニバーサル UCCP-9533 )

 プロヴァンス民謡「3人の王の行進 」と民族舞曲「ファランドール 」という二つの音楽が同列の比重で重なり合い、プロヴァンス太鼓の単調なリズムに乗せて徐々に盛り上がり、最後には熱狂的なクライマックスを築く その手腕は 天才的です - 但し、この「ファランドール 」を含む第2組曲の編曲は、ビゼーが37歳という若さで世を去ってから4年後、ビゼー親友パリ音楽院の作曲家教授だったエルネスト・ギローが引き継いだ仕事でした。
 「ファランドール 」冒頭から破裂する迫力のマルケヴィチ盤は 猪突猛進の 3分08秒、何をそんなに急いでるんでしょうね?
 
 以下、この他にも思いつくまま 二つの主旋律が重なる効果も覿面(てきめん )の名曲を挙げてみましょう。


   


ベルリオーズ シャルル・ミュンシュ指揮 パリ管弦楽団 :1967年11月14日 シャンゼリゼ劇場
ベルリオーズ作曲
「幻想交響曲 」から 第5楽章「ワルプルギスの夜の夢 」
シャルル・ミュンシュ指揮 パリ管弦楽団
録音:1967年11月14日 シャンゼリゼ劇場におけるライヴ
音盤:Altus(ALT-182 )
 
 最終楽章のクライマックスで 対位法的な効果が生かされてます。
 ベルリオーズは まずグレゴリオ聖歌の有名な「ディエス・イレ 怒りの日 」をオスティナート的に扱いながら、その上に地獄を旋回する「魔女のロンド 」を思い切り跳躍させており、その重なり合いが凄まじい熱狂を生み出します。
 このミュンシュ / パリ管によるライヴ盤は、その前月に録音されていた、評価も最高だったスタジオ録音(EMI )盤をさえ上回る、煮えたぎる大熱演。第5楽章9分切る記録的走者は、もはやミュンシュだけではないでしょうか(? )。


   


Alexander Porfirevich Borodin 交響詩「中央アジアの高原(草原 )にて 」ポニーキャニオン(PCCL-562 )
ボロディン作曲
交響詩「中央アジアの広原(草原 )にて 」
エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮 ロシア国立交響楽団
録音:1992年6月 モスクワ放送局大ホール
音盤:ポニーキャニオン(PCCL-562 )
 
 背景となるのは 荒漠たる中央アジアの広原、ボロディンはヴァイオリンの高いホ音を持続させることで 遠く高い空と広い風景を表しつつ、そこに二つのグループを登場させ(これを巧みに音楽で表現し )ています。
 それは即ち この地方の隊商の行列(イングリッシュ・ホルンによる「東方の調べ 」 )と、これを護衛するためのロシア兵士達の行列(主旋律となる「ロシアの歌 」 )で、二つは互いに近づいてきて徐々にクライマックスを作りながら対位法的に組み合わされ 見事に結合します。やがてその旋律の断片を残しながら静まりゆく音楽は 遠ざかる二つの行列が 遥か地平線に見えなくなる情景までをも表現しています。


   


レオポルド・ゴドフスキー 「ショパンの練習曲に基づく練習曲集 」ハイペリオン(CDA-67411~12 )
ショパン ~ ゴドフスキー編曲
「ショパンの練習曲に基づく練習曲集 」から
マルク・アンドレ・アムラン(ピアノ )
録音:1998~1999年 
音盤:ハイペリオン(CDA-67411~12 )
 
 レポルド・ゴドフスキー(1870 – 1938 )が ショパンの練習曲を素材に編曲した、難易度も極めて高い全53曲を収録した驚異の全集です。
 ゴドフスキーの手にかかると、ショパンの書いたアルペジオは反対に進行したり、複雑な半音階にその姿を変えたり、さらに難しい対位旋律が書き加えられたり(しかも それを同時に弾かねばならず )、また右手の素材を左手に移し替えてみたり(53曲のうち22曲は 左手のみのために書かれています )、徹底的に細部に凝ってみせたり - たとえば 練習曲 作品10-5「黒鍵 」の 例の五音音階的な動きに対しては、なんと7曲(! )もの異なるバージョンが作られているほどです。
 そんな中でも特に凄いのが、この「黒鍵 」作品25-9「蝶々 」という二つの作品が 同時に鳴り響くポリフォニックな練習曲「冗談 Badinage 」です(同傾向の主旨を持つ作品では、この他にも 作品10-11変ホ長調と作品25-3ヘ長調 とを重ね合わせた曲もあります )。それは、まるで二人のピアニストが二曲同時に弾き出したかのような錯覚さえ覚える、対位法的技巧も際立った作品の中でも白眉でありましょう。 
 これを演奏してみせるアムランの 柔らかいテクニックも「超人的 」という言葉さえ月並み に思えるほどの流麗さです。


   


Sousa.jpg レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
スーザ作曲
行進曲「星条旗よ永遠なれ 」
レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
録音:1967年10月 ニューヨーク・フィルハーモニック・ホール
音盤:CBSコロンビア(ソニー・クラシカル SRCS-9291 )
 
 後部に登場する柔和なメロディーが、これに重なって装飾的な動きをするピッコロの旋律と対位法的に重なり合って 圧倒的なクライマックスを築く、その巧みなエンディングによって有名な スーザの傑作です。
 しかし この行進曲の場合、二つの旋律の比重は必ずしも同等とは言えません。ピッコロのパートは 後部主旋律のオブリガートである - という見方が妥当であるように思われます。
 この曲につきましては、ヴラディーミル・ホロヴィッツが 彼自身ピアノ独奏用に編曲したバージョン(RCA盤 )も存在するのですが、この話題は また次の機会にとっておき、今回は レナード・バーンスタイン / ニューヨーク・フィル の名盤をおススメします。当時のヤング・レニーの熱血とパワフルなダッシュが存分に楽しめる、他の追随を許さぬ名演です。
 
 そのバーンスタインが作曲した傑作ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー 」の中にも、対位法的な効果を生かした部分がありました。しかも それは「二つ 」以上のパートが さらに複合的に重なり合う効果を使った技巧的な音楽でした、手元のサントラ盤で確かめてみましょう。


   


Leonard Bernstein バーンスタイン ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー 」CBSコロンビア(MHCP-385 )
バーンスタイン作曲
ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー 」から
 「クインテット、または トゥナイト(アンサンブル ) 」
公開:1961年(映画のオリジナル・サウンド・トラック盤から )
音盤:CBSコロンビア(MHCP-385 )
 

 この場面の緊迫感は、バーンスタインが採用した対位法的な技法によって得られたものです。 
 二つの相敵対するグループ(ジェッツシャークス )が全面抗争に突入することが明らかとなり、対決するのは「今夜だ(トゥナイト Tonight )! 」と 憎み合う相手グループが待ちかまえる その決闘の場所へと互いに近づきながら大いに奮い立ち、絶叫するように歌う二つの集団(二部合唱 )による呼応パート
ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー 」 ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー 」 (2)
 その音楽に重なるように 主人公のカップル( = ロミオとジュリエット )、トニーとマリアが 同じ時刻、( しかし二人は異なる場所にいるのです )その声を揃え、互いに愛し合う相手を想って 絶唱の名曲「トゥナイト Tonight 」を歌うパート、
ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー 」 (4) ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー 」 (3)
 これに加え、シャークスリーダーであるベルナルドマリアの兄でもある )の恋人アニタが、この決闘さえ終われば 今宵の逢瀬ではベルナルドに抱かれる、その若き欲情に逸る心を抑えつつ 異なる旋律でもうひとつの妖艶な「トゥナイト Tonight 」を歌うパート、
ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー 」 (5)
 ・・・と、これら5つものセクションが、同じ和声上、同時進行で築き上げる絶妙のアンサンブルの効果によって、舞台でも映画でも(映画の場合には、その映像的モンタージュ効果も秀逸! )空前の盛り上がりをみせる約 3分半の凝縮された時間。しかも 歌っている全員のハーモニーが、最後は「トゥナイト 」という重要な一語に 見事に収れんします。ここ、ホント素晴らしいです。
 でも よく聴いてみると、トニーとマリアが歌う 名曲「トゥナイト 」主旋律とすれば、実は アニタ歌唱パート 及びジェッツ VS. シャークスによる二部合唱パートは 単に 対旋律を発展させた形である、と みなせるのではないでしょうか。ドラマではこの後 敵対する関係に立たされた恋人たちを 悲劇的なカタストロフィーが待っています。


   


ロジャース & ハマースタイン サウンド・オヴ・ミュージック サウンドトラック盤
リチャード・ロジャース作曲 (写真 右は 作詞家 オスカー・ハマースタインⅡ
映画「サウンド・オブ・ミュージック 」から
「ドレミの歌 Do-Re-Mi 」
公開:1965年 パラマウント映画オリジナル・サウンド・トラックより
音盤:RCA (海外盤 07863-66587-2 )
 
 ロバート・ワイズ監督が「ウェストサイド~ 」から 4年後に完成・公開したミュージカル映画の最高傑作と言えば、やはり「サウンド・オブ・ミュージック 」、そして どなたもよくご存知「ドレミの歌、『ド 』はドーナツの『ド 』・・・ 」を歌いながら、ホーエンザルツブルク城を駆け降りた ジュリー・アンドリュースの演じるマリア先生と子どもたちが ザルツブルク市街地(の観光名所 )を疾走しながら舞い歌う場面、とても効果的に使われていましたよね。
ドレミの歌 ドレミの歌 (2)
 7人の子どもたちがまるでハンド・ベルを振るかのように「ド・ミ・ミー、ミ・ソ・ソー、レ・ファ・ファー、ラ・シ・シー 」と交互に繰り返すリズムに乗せながら、マリア先生が「When - You - Know - The - Notes - To - Sing … 」対旋律を重ねて 歌いだすところです。ポリフォニック効果の素晴らしい仕掛けが大爆発します。
 そんな 実に楽しく秀逸なアイディアも満載の作品、やはり「良いものは良い! 」ということで、全てがこれに尽きます。
映画「サウンド・オブ・ミュージック 」については ⇒ こちらも

   


ダニー・ケイ夫妻(1944 ) 映画「5つの銅貨 The Five Pennies 」
シルヴィア・ファイン作曲 (写真 左は 彼女の夫 ダニー・ケイ
映画「5つの銅貨 The Five Pennies 」から
公開:1959年
音盤:Decca (ユニバーサル UCCC-3033 )
 
 奇しくも オリジナル舞台版の「サウンド・オブ・ミュージック 」が ブロードウェイの舞台で大ヒットしていたのと同じ年に公開された映画で、名優ダニー・ケイ Danny Kaye(1913 – 1987 )が、実在したディキシー( ~ スイング初期 )の偉大なコルネット奏者 レッド・ニコルス Loring "Red" Nichols (1905 – 1965 ) の半生を演じた、こちらもたいへん感動的な作品でした。
 このレッド・ニコルスという人は、自身の活動期間が短かったせいもあって 同年代のルイ・アームストロングビックス・バイダーベックの陰に 隠れてしまい、日本ではあまり知られていませんが、1920年代当時ジャズの主流だったディキシーに軸足を置いて、その後のスイング時代への橋渡しに貢献したファイヴ・ペニーズ The Five Pennies というコンボの(のちに人数も増えて大所帯になりましたが )リーダーで、その後スイング・ジャズ時代の中心人物となるグレン・ミラー、ベニー・グッドマン、ドーシー兄弟、アーティ・ショーなどはいずれもレッド・ニコルスによって見出された若き逸材でした。 
 しかし この映画は 当時多く製作されたジャズ・ミュージシャンを主人公にした音楽映画というジャンルでありながら、その本質は「家族愛の映画 」である - と言い切って差し支えないほど、本物の傑作です。感動のラスト・シーンなど、私には 思い切り泣けます。
DVD The Five Pennies (1959 )
 ・・・それらの詳細に触れるのは、またいつか別の機会にさせて頂くとして、今回は映画の(タイトル名と同じ )テーマ・ソング「5つの銅貨 The Five Pennies 」と、劇中で重要な役割を果たす二曲の子守唄「ぐっすりお休み Good Night, Sleep Tight 」「ラグタイムの子守唄 Lullaby In Ragtime 」の合計三曲(! )が、同時に重ねて歌われるポリフォニックな場面の素晴らしさだけに話題を絞りたいと思っています。
 映画の中の演奏場面で、たびたび自身サッチモ本人を演じながら脇役として登場し、その渋いノドと素晴らしいトランペットの吹奏を聴かせる ルイ・アームストロング がステージで ジャズ調にアレンジされた子守唄「ぐっすりお休み Good Night, Sleep Tight 」を歌うシーン、最高です。これに ダニー・ケイの演じるレッド・ニコルスが 軽快な「ラグタイムの子守唄 Lullaby In Ragtime 」を重ね合わせて歌い、さらに レッドの愛娘ドロシー( 5 ~ 6歳くらいでしょうか? )が、ルイの歌唱に釣られることなく テーマ・ソング「5つの銅貨 The Five Pennies 」をたどたどしくも可愛らしく歌う、そんな魅力的な三重唱のシーンは、必ずしも劇的とはいえませんが、その音楽的効果たるや 絶大です。誰しも 一度観たら(聴いたら )忘れられなくなるに違いありません。
 ここは ぜひ 実際に映画を観て頂き、その演奏をお聴きになってみてください、そうしたら もう心を奪われるほど・・・ その感動も きっと倍加するものと思います。

■ なぜ「5つの銅貨 」三重唱のバランスは これほどまで絶妙なのか
「5つの銅貨 」~三重唱のシーン
 稀有なことに、この三曲( 子守唄「ぐっすりお休み 」、「ラグタイムの子守唄 」、「5つの銅貨 」 )は いずれも 従属する対旋律的要素が少なく、三曲とも揺るぎなく主旋律として成り立っています。はっきり言って、「とても良いメロディー 」です。
 しかも 同時に歌うと 驚くほど調和する ように出来ているのです。三曲が 互いに補い合う各旋律は、まるで上等な織物ででもあるかのように 綺麗に折り重なり合います。これほど意図的に作曲されたこと自体が、驚異的です。
 これは、レッド・ニコルスの音楽ジャンルが 「ディキシーランド・ジャズ 」であったということが、ひとつ「謎を解く鍵 」なのではないか - と、私は思うのです。
 ディキシー・ランドとは、ラグタイムスコット・ジョプリン のリズムを基礎に これを発展させたもので、複数の管楽器奏者がフロントに立ってソロを取るスタイルが基本ですが、演奏が盛り上がれば 決まって二人以上のソリストたちは「同時に 」アドリブ・プレイを始めることになっています。けれど そんな「集団即興演奏 」でも ディキシーのプレイヤーたちは 決して「オレがオレが 」などと自己主張のカオスに陥るようなことはなく、彼らは とても抑制を効かせるのです。
 なぜなら 各プレイヤーたちは、演奏主題の旋律や動機に基づいて各自自由にアドリブ・ソロをとるものの、そうしながら「同時に 」他人の演奏に注意深く耳を澄ませてもいるのです。そして自分の演奏が全体の調和を乱すことがないように、協調性を保ちながら バンド全体での即興演奏を紡ぎ出す姿勢、これこそが ディキシーランド・ジャズをプレイする基本的な適性のひとつです。
 けれど、もし その考え方を基礎として、作曲者であるシルヴィア・ファインが この映画「5つの銅貨 」のために - 主演を務めている愛する夫ダニー・ケイのために - この三曲( 子守唄「ぐっすりお休み 」、「ラグタイムの子守唄 」、「5つの銅貨 」 )を作っていたとしたら? 
 ・・・三曲「同時に 」演奏することによって 互いの旋律線を補い合うように見事な織物へと姿を変える その素敵な仕上り具合は、かつてレッド・ニコルスが心から愛したディキシーランド・ジャズ演奏の方法論に基づいている、とても理に叶(かな )った発想から生まれたものかも知れません。ここも 私の直観に過ぎませんが、この点については もう少し深く考えてみたいと思っています。


   


Ive Got A Feeling ( from the Rooftop Concert ) ビートルズ 「レット・イット・ビー Let It Be 」
ザ・ビートルズ
「アイ’ヴ・ガッタ・フィーリング I’ve Got A Feeling 」
(ジョン・レノン & ポール・マッカートニー
作曲
アルバム「レット・イット・ビー Let It Be 」より

 1969年1月30日 セントラル・ロンドン、その日、メイフェア地区の曇った空に高く響き渡ったのは、歪んだエレクトリック・ギターの音に乗せて 朗々とよく伸びるヴォーカルを炸裂させるポール・マッカートニーの声でした。
 そのエモーショナルな長い旋律線と哀願するかのようなシャウトが一段落すると、続けてジョン・レノンのヴォーカル・パートとなるわけですが、初めて聴く人にとっては意外なことに、彼はマッカートニーとは全く異なるメロディを歌い出すのです。それは冒頭の旋律線とは正反対の曲線を描き、より低い音域を細かく動きまわる どこか斜に構えたような呟きでもあります。
 ここでの彼ら二人のヴォーカルは対照的です。それはマッカートニーの歌が主情的であるのに対し、レノンの歌が幾分 対旋律的であるというだけでなく、マッカートニーの放つ熱い情熱を まるでレノンが冷まそうとでもするかのように、どこか醒めた客観的な立場を演じているからでもあります。
 つい数年前までは“She Loves You,Yeah-Yeah-Yeah ”と仲良く一緒に歌っていた二人だったのに、もはやここでは声を揃えることはなく、遂に相反する二つの旋律を同時に歌うポリフォニックなエンディングによって、この後 並行線を辿(たど )る ことになる未来の二人の関係を暗示しているようでもあります。
 そう思って聞くと、この歌は(その歌詞もまた )もはや単純なラヴ・ソングではなく、当時 その心がグループ - ビートルズ - を離れ、愛人 小野洋子とともに自己の芸術への脱皮に向かいつつあったジョン・レノンの後ろ姿を追いかけて、すがるようにシャウトするマッカートニーの姿・・・ そんな情景さえもが 目に浮かんでしまいます。
 アップル・ビル屋上の吹き荒ぶ寒風の中、実際 彼ら4人は このとき自覚することこそなかったでしょうが、これが「ザ・ビートルズ 」として 人前でライヴ演奏した最後の機会となってしまった事実を思うと、この一曲「アイ’ヴ・ガッタ・フィーリング I’ve Got A Feeling 」における レノンマッカートニーポリフォニーは、ある意味 当時の二人の人間関係の 象徴 であったとさえ 思えるのです。
⇒ 「なぜ ビートルズは こんなにもオモシロイのか 」


   


WINGS.jpg 「スピード・オブ・サウンド Wings At The Speed Of Sound 」
ウイングス(ポール・マッカートニー作曲 )
「心のラヴ・ソング Silly Love Song 」
発表:1976年
アルバム「スピード・オブ・サウンド Wings At The Speed Of Sound 」収録
 
 今宵 最後の一曲は、これです。
 クラヲタの皆さまにも楽しんで頂ける 質の高いポップ・ソングだと思います。
 上記、ビートルズ「レット・イット・ビー 」「アイ’ヴ・ガッタ・フィーリング 」で効果的なポリフォニック・アンサンブルを使うというアイディアが、 やはりマッカートニーの発想に拠るものであったことを証明するかのような傑作「心のラヴ・ソング Silly Love Song 」は、シングル盤のリリース直後から ビルボード 5週連続全米第 1位の大ヒットを記録・・・とてもよく売れたようです。
 ピンク・フロイドの「マネー Money 」を思わせる、意味不明な機械音がメカニカルにリズムを刻むノイズでスタートする冒頭も興味深いですが、ここで注目すべきは 曲の後半、I Love You, I Love You… という極めてシンプルなリフレインが 繰り返され始めると、そこからが この作品の山場となります。リンダ・マッカートニーの歌う I Can’t Explain The Feeling Within… という異なるメロディのコーラスが 同時にリフレインと絡み出し、さらにデニー・レインが歌う How Can I Tell You About My Loved One… という 3番目の旋律ポリフォニックに重なる瞬間の美しさ、そこはまるで エリザベス朝イングランドのマドリガルを聴いているかのようです。
 1970年ビートルズが解散した後、マッカートニーが自身のライヴ活動を実践する目的で結成した彼のバンドウイングス名義による この名盤「スピード・オブ・サウンド 」 を 久しぶりにあらためて聴いた“スケルツォ倶楽部”発起人、この曲の快適に弾(はず )むベース・ラインホーン・セクションの歯切れの良いリフ・フレーズとが 今日は頭の中で繰り返しずっと流れ続け、一日中 鳴り止むことがありませんでした。

 さて、今回の文章は 発起人(妻 )との合作です。
 必ずしも 今回だけではないのですが、いつも内助の功には感謝しております。
 ・・・と わざわざ書くように言われたので、但し書きを入れた次第であります。


↓ 清き一票を
にほんブログ村 音楽ブログ ジャズへ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
blogram投票ボタン
人気ブログランキングへ  
Club Scherzo, since 2010.1.30.

関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

トラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)