本記事は 8月20日「 人気記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部 
「モーツァルト 最期の年 」 
モーツァルト 最期の年     ▶ もくじは こちら


(7)ローゼンベルク伯爵
 
 「おい、モーツァルト。お前の作曲した新しいダンス音楽が、今回 なかなか評判だそうだな。特に あとから追加して宮廷に提出された、ほら - そりの鈴や鞭の音を加えた あのオモシロイ作品などは、殊に子女らに受けているそうではないか 」
今シーズン、舞踏会場として使われている宮殿のひとつ ホーフブルクのアマリア宮で W.A.の姿をいち早く見つけた ローゼンベルク伯爵は、足早に近づいてくるなり そう話しかけてきました。

 ローゼンベルク伯爵を演じるチャールズ・ケイ
 映画「アマデウス 」にも登場したローゼンベルク伯爵(チャールズ・ケイ
 ・・・ここでも 結構イジワルな役どころです。


 このローゼンベルク伯爵は、皇室の侍従長で 皇帝と宮廷作曲家たちとの連絡係も務めている貴族でしたが、決して気を抜いてはならない相手でした。W.A.にとっては ザルツブルクからウィーンに移転して以来でしたから、そろそろ10年来の仕事上のつきあいとなるわけですが、伯爵の性格が二枚舌であることを知っているW.A.は、この男をまったく信用してはいませんでした。
 たとえば、彼の表面上の親しげな態度にまんまとだまされて 少しでも本音を喋ろうものなら、遅くとも翌週には その話題が聴かれては都合のよくない相手にW.A.の喋った(・・・時には 喋っていないことまでも )その内容がすっかり筒抜けになっていた - ということも一度や二度ではなかったからです。

 しかし、そんなローゼンベルク伯爵に対してさえ、今宵のW.A.には 訊かずにいられぬ質問がありました。
 それは、シュテファン教会のカペルマイスター、ホフマン師の予言 - 「お前が作曲した仕事に対して、もし“ありがとう”という 心からの感謝の言葉を発してくれる者が 五人でもいれば、その瞬間、お前の願いは叶えられ、コンスタンツェさんは お前の妻になっているであろう! 」 - という、あの“魔法の言葉”の真贋を確かめることでした。

「・・・え、何だと? 畏(おそ )れ多くも 皇帝陛下が お前ごときに感謝のお言葉をくだされたどうか 教えろなどと申すのか? 」
さっきまで にこやかだったローゼンベルクの表情が 急に不快そうに曇りました。
「何故そんなことを突然言い出すのか。まさか 毎月きちんと与えられている報酬が足りないとでも申す気か、モーツァルト。お前にはかなり自由な範囲で内職を許しているほうなのだぞ。この舞踏曲にしても、今シーズンさえ過ぎれば、お前自身がピアノ用にでも室内楽用にでも編曲して 自由に出版してお構いなしだというのに? 」
鼻先まで滑り落ちてきた眼鏡を ローゼンベルクは人差し指でゆっくりと押し上げながら、その丸いレンズの奥から W.A.のことをじっと凝視しています。W.A.は しまった、と心の中で舌打ちしながら、必死に質問を変えながら 言い繕おうとしました。
「いえ、つまり・・・私がこしらえ奉(たてまつ )りし音楽に対し、陛下が 何らかの・・・その、ご感想のお言葉などを 溢(こぼ )されたりはなさらなかったでしょうかと、お伺いしたまでのことでございます 」
しかしW.A.が その言葉を 最後まで言い終えることはできませんでした。
「!何を申す、不遜な奴め。あるわけがなかろう。お前は 陛下よりお仕事を賜(たまわ )る立場であろうが。そのありがたさを思えば、お前が皇帝陛下に感謝を申し上げるならまだしも、陛下から 感謝のお言葉を引き出そうなどとは、不敬の至りではあるまいか 」
ローゼンベルク伯爵は、怒り出した自分の姿が きっと周りに与えているに違いない高い威圧感に 自分自身酔い痴れながら、激しい剣幕でW.A.を叱責し続けました。
「申し訳ございません。取り消します・・・申し訳ございません 」
W.A.は、ただ平身低頭するしかありませんでした。


「・・・それは つらいおもいをされましたね、先生 」
帰宅したW.A.本人から 舞踏会場での一件を聞かされたジュスマイヤーは、手にハンカチを握りしめながら 一緒に心からの悔し涙を流してくれました。
「本当に 王宮の貴族の奴らったら高飛車ですよ。先生、よく我慢されましたね。もしも私がその場にいたら、先生を侮辱した そのローゼン何とかって野郎の横面を、思いきり張り飛ばしてやれたのになあ 」
それを聞いてW.A.は 内心では少し癒されつつ、でも困ったように笑いました。
「ははは・・・、そんなことされたら 逆に ぼくのほうが迷惑をこうむるんだって、常識的には知っておいてくれよ、ジュスマイヤー君 」
そして テーブルに置かれたグラスに注いだワインを一口飲むと、W.A.は話を続けました。
「でもね、その時 ダンス・ホールでは 王宮の楽団が 次の舞踏音楽の演奏をちょうど始めたのさ。それが ほら、ジュスマイヤー君の思い出の音楽 - 」
「あ、先生の『フィガロの結婚 』ですね 」
「そのとおり、大ヒット・メロディ『もう飛ぶまいぞ 』を転用したコントルダンスだったのさ。そうしたら、うれしいじゃないか - メロディに気づいた会場では一斉に割れんばかりの拍手と歓声が起こったのさ、そして新たに踊りの輪に参加しようとして 大喜びで大勢の人たちがホールへと流れ込んでゆく、そんな様子を見て ローゼンベルクの奴が目を丸くして驚いている表情を 横目で眺めながら、ぼくは 僅かばかりだけれど ささやかな満足感をかみしめたと、そういうわけなんだ 」
と、笑顔になったジュスマイヤーに嬉しそうに語って聞かせる そんなW.A.の掌の中で、ひそかに隠している銀の小笛は そこでまた一瞬 キラリと光ったのでした。

  ― つづく ( この物語は パラレル・ワールドのフィクションです。史実との違いを お楽しみください )


■ 今宵の一枚
クラウディオ・アバド_1991年
ニューイヤー・コンサート1991 から
コントルダンス第1番「もう飛ぶまいぞ 」、コントルダンス第3番K.609、
3つのドイツ舞曲から 第3番「そりすべり 」K.605
 クラウディオ・アバド指揮
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 録 音:1991年1月1日 ライヴ  ウィーン、ムジーク・フェラインザール
 
 併 録 : シューベルト(マデルナ編 ):ポルカD.735、ギャロップD.735、ランナー:ワルツ「求婚者 」、ヨハン・シュトラウス一世:ギャロップ「ため息」、「ラデツキー行進曲 」、ヨハン・シュトラウス二世:喜歌劇「くるまば草 」序曲、ポルカ「百発百中」、「狂乱のポルカ」、「恋と踊りに熱狂 」、ワルツ「皇帝円舞曲 」、「美しく青きドナウ」、ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・マズルカ「踊るミューズ 」、ワルツ「水彩画 」、エドゥアルト・シュトラウス:ビゼーの「カルメン 」によるカドリーユ
 音 盤:ポリドール(D.G. / POCG-1091 )
 基本的には シュトラウス・ファミリーのレパートリーが 常に演目の中心である 恒例の ウィーンのニューイヤー・コンサートですが、この年(1991年)だけは、たいへん珍しいことに モーツァルトの短い舞踏音楽が 初めてプログラムに並びました。
 それは、当年が モーツァルト没後 200年という記念の年に当たっていたことがその理由でしたが、アバドモーツァルト最期の年 - 1791年 - に作曲された 宮廷舞踏会のための音楽から とりわけ独創的な作品3曲を選びました。
 話題がそれますが、個人的には このライヴ・アルバムの中では エドゥアルト・シュトラウス作曲の「カルメンカドリーユという珍しい曲が 大のお気に入りです。ビゼーのオペラの中から、もうこれでもか とばかりに有名無名のメロディが 速射砲のようにバンバン繰り出され、まったく息をつく閑もありません。かなり笑えます。


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