本記事は 7月22日「 人気記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部 Club Scherzo 
最高齢のスケルツォ、
サン=サーンスの「クラリネット・ソナタ 変ホ長調 」

ポール・メイエ Saint-Saeuml;ns
(左 )ポール・メイエ(DENON )盤のジャケット
(右 )晩年のサン=サーンス Saint-Saëns
の 肖像写真

  組曲「動物の謝肉祭 」などで有名な フランスの大作曲家サン=サーンス Charles Camille Saint-Saëns (1835 ‐ 1921 )の作品に、「クラリネット・ソナタ 変ホ長調 op.167 」という室内楽曲があります。ピアノとクラリネットのために書かれた 四楽章から成る15分程の短いソナタなのですが ご存知でしょうか これが「至福の逸品 」であることを。
 もしも古今東西のあらゆる名曲に お前が「好きな 」順位を勝手に付けて、ランキング表を埋めてゆけ! と言われたら、(・・・おー、そりゃ個人的に何とわくわくする企画であることか - )その時 自分なら確実に50位以内にランク・インさせるに違いない、“スケルツォ倶楽部 ”発起人の「心の名作 」が、この一曲です。


■ 「最後 」に「最初 」が戻ってくる・・・
  「コロンブスの卵 」的な 効果の絶大さ
  
 その第1楽章 冒頭。独奏クラリネットに登場する 穏やかな主旋律の親しみやすさといったら、まるでエンニオ・モリコーネの映画音楽作品のよう。そして 名匠サン=サーンスが ここで採用したもうひとつの方法 - 曲中のフレーズを有機的に生かしつつ循環形式にも似た その展開方法 - には まったく隙が無く、それでいて あたかも熟練の職人による仕事のように、自然でさり気ない仕上がりなのです。
 第2楽章の短いスケルツォの生き生きとした素晴らしさ、そしてクラリネット特有の低音の艶(つや )から高音の繊細さまでを大きなスケール幅で表現する 聴かせ所も満載の第3楽章の深み、それらはいずれも秀逸ではありますが、何より全曲の構成の見事さに、やはり言葉を失います。
 それは終楽章も最後の最後になって、第1楽章の冒頭で提示されたあの魅力的な主旋律が、最初に出会った時と殆ど変わらぬ形で 再び 思い出のように懐かしくその姿を現わし、憧れを込めて回想されつつ終わるという・・・クラシック音楽においては 意外なことに ありそうで無かった かくも大胆な終結方法の効果には、初めて聴いた時、感動のあまり全身に鳥肌が立ったものでした。
 けれど このアイディアは、あまりにもシンプルであるが故に、度々(たびたび )使えるような手法ではありません。たとえば もし同じ作曲家が、他の作品で - その最初と最後で - この技法を繰り返し試みたとしたら、その瞬間、作為性だけが剥き出しで鼻につき、せっかくの感動も失われてしまうに違いないからです。
 賢明なるサン=サーンスも、当然その危険を察知していたことでしょう。おそらく彼は この着想を得ながらも アイディアを慎重に温存しつつ、効果的な作品が生まれるのをじっと待ち続けた結果、図らずも生涯で最後の作品のひとつとなった この「クラリネット・ソナタ 」において、最初で最後 一回限(き )りのカードを まさに ここで切ったのだ、と 私“スケルツォ倶楽部 ”発起人は 勝手に想像をたくましくします。


■ おススメの名盤たち
 昔から素晴らしい音盤が たくさん出ているので 選ぶのにも枚挙にいとまがありません。
 若いクラリネット奏者が吹き込んだ新譜アルバムの一隅に この美しいソナタが含まれているのを見つける度に ついつい聴きたくなって、ふと気づくと そのディスクを手にしてレジに並んでいることも一度ならず・・・(笑 )。
France Calliope(CAL-4819 )
▲ モーリス・ギャベ Maurice Gabel (クラリネット )
アニー・ダルコ Annie d'Arco (ピアノ )
録 音:1975年 パリ
併録曲:
オーボエ・ソナタop.166(独奏 モーリス・ブルグ Maurice Bourgue )、バスーン・ソナタop.168(独奏 モーリス・アラール Maurice Allard )、ホルンのためのロマンスop.36(独奏 ジルベール・クルシェ Gilbert Coursier )、トロンボーンのためのカヴァティーヌop.114(独奏 ジャック・トゥーロン Jacques Toulon )、9つの管楽器のための小交響曲(グノー作曲 )、7つの管楽器のためのシャンソンとダンス(ダンディ作曲 )モーリス・ブルグ管楽アンサンブル(グノーとダンディのみ )
海外盤 France Calliope(CAL-4819 )
 
 ええと、残念なことに この フランス・カリオペのディスクは、アリアCDさんの情報によれば、2011年初頭でレーベルが業務を停止しているそうです。古き良きフランスのオリジナル管楽器の音色と演奏を楽しめる、これは 知る人ぞ知るカリオペが誇る 極めて価値の高い名盤の復刻でした。
 名手ギャベのクラリネットは言うに及ばず、全曲いずれも素晴らしい木管奏者たちの演奏が(ついでにリアルな間接音までをも )聴ける 貴重で宝石のようなアルバムでしたが、とりわけフランス産バスーン(バッソン )の音色が際立っていて、これには思わず耳を奪われます。
 ただひとつ、音楽以外のことで しかも今さら言ってもしようがないことですが、このディスクは 再生時 サン=サーンス木管ソナタ三曲に関しては いずれも なぜか楽章間の切れ目が一切無視され、何と 一曲で1トラック収録(! )なのが、唯一の不満です (えー なんだよ、それ (・・? )

クラリネット・ソナタ_0002
▲ エマ・ジョンソン Emma Johnson (クラリネット )
ゴードン・バック Gordon Back (ピアノ )
録 音:1988年4月7、8日 ロンドン
併録曲:
ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女 」、ミヨー「デュオ・コンチェルタント 」、「ブラジレイラ(ブラジルの女 )~ 『スカラムーシュ 』より 」、プーランク「クラリネット・ソナタ 」、ラヴェル「ハバネラ形式による小品 」、「逝ける王女のためのパヴァーヌ 」、ピエルネ「カンツォネッタop.19 」
国内盤 日本クラウン(CRCB-1011 )原盤ASV

 この個性的な音色を聴かせるクラリネット奏者は、イギリスのエマ(エンマ )・ジョンソン( 1966年~ )です。彼女はBBCの器楽コンクールで優勝して以降、1980年代から音楽活動を開始、ヨーロッパ、特に母国イギリスを中心に幅広く人気を得ているようです。これはアルバムとしての選曲の楽しさも秀逸で、やはり手元に置いておきたい一枚です。
 なお、ここで伴奏を(一部編曲も )務めているピアニストは、ヨーロピアン・リズムマシーン の ピアノ奏者ゴードン・ベック Gordon Beckではなく、ゴードン・バック Gordon Back ですから、お間違いなきよう ご注意のこと (・・・って、誰が間違うっつーの? )。


クラリネット・ソナタ_0003
▲ ザビーネ・マイヤー(クラリネット )
オレグ・マイセンベルク(ピアノ )
録 音:2006年11月 サフォーク
併録曲:
プーランク「クラリネット・ソナタ 」、ドヴィエンヌ「クラリネット・ソナタ第1番ハ長調 」、ミヨー「スカラムーシュ 」
海外盤:EMI CLASSICS CDC 3 79787 2 
 
 18世紀のドヴィエンヌから 20世紀ミヨーまで フランスの名品を通して紐づけたような とても味のあるアルバムの統一感が見事です。完璧なまでの音楽性で 現代を代表するクラリネット奏者のひとりとなったザビーネ・マイヤーの安定感。その素晴らしい演奏だけでなく 今日に至るまでの彼女の活躍を知れば知るほど、晩年のヘルベルト・フォン・カラヤンマイヤーベルリン・フィル入団に なぜ 当時あそこまで執着したのか、老いたる帝王の真意が 少し判るような気さえいたします。
 彼女のクラリネットの透明な音色には本当に癖がなく、あらためてその質の高さを実感させられます。もしサン=サーンスの「クラリネット・ソナタ 」を初めて聴かれるという幸運な方がいらっしゃったら、まず これこそが 一番最初にチョイスすべき名演であると、私“スケルツォ倶楽部” 発起人は 目下 マイヤー盤に 大きな太鼓判を ぽーんと押しましょう。


ポール・メイエ (2) ポール・メイエ
▲ 「フレンチ・クラリネット・アート 」
ポール・メイエ (クラリネット )
エリック・ル・サージュ (ピアノ )
録 音:1991年4月 フランクフルト
併録曲:
ショーソン「アンダンテとアレグロ 」、ドビュッシー「小品」、「ラプソディ第1番 」、ミヨー「クラリネットとピアノのためのソナチネ 」、「クラリネットとピアノのためのデュオ・コンチェルタント 」、「カプリース 」、プーランク「クラリネット・ソナタ 」、オネゲル「クラリネットとピアノのためのソナチネ 」
コロムビア・ミュージックエンタテインメント(COCO-73092 )

 この演奏は オモシロイです。
 天才メイエのデビュー盤として 決して忘れられない有名なアルバムですが、聴きようによっては「風変わりな 」その演奏の持つ独特の先駆性は、とても強い説得力を伴なっています。
 緩急・強弱の豊かなニュアンスと 余裕の表情が素晴らしく、必要に応じて自由自在に しかも ふわふわっとした綿毛のような軽さで 俊敏にテンポを変えるメイエの即興性は、現代的なエスプリに満ちています。特に 第4楽章でメイエが選んだテンポによって飛翔する音楽の効果は、もう卓越しています。もしもメイエを未体験という方は、その前に比較的ノーマルな演奏を聴いてから、ぜひその後で 触れてみてください。他の演奏と比較することによって、メイエがいかに熱心に楽曲研究をしたか、その痕跡が認められる気がします。


■ 「クラリネット・ソナタ 」を作曲した時、サン=サーンスは86歳(! )
 この曲について調べてみると、作られたのは 前述のとおり サン=サーンスの最晩年(1921年 )だったことが判ります・・・それは 何と86歳という高齢の時期ではありませんか。
 サン=サーンスは、これと同時期 一緒にオーボエ・ソナタ、バスーン・ソナタという いずれも秀逸な 木管によるソナタ三曲を書き上げていますが、これらをまるで書き置き のように残してから 最後のアフリカ旅行へと赴き(彼は 当時 全ヨーロッパでも稀に見る有名な旅行家として知られていました )、その年の12月16日 旅先のアルジェで亡くなるのでした。
 書き置き のように残された、巨匠 最後の三曲の木管ソナタを指して「白鳥の歌 」と呼ばれることもあるのだそうです。なるほど。そう思って「クラリネット・ソナタ 」の終結部を あらためてフランス・カリオペ盤モーリス・ギャベの演奏などで聴いてみると、私には サンタクロースのようなサン=サーンスが 自分の生涯を名残惜しげに振り返りながら 夕映えの中、独り静かに佇んでいる後ろ姿を 遥か遠くに見たような気がしたのでした。


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コメント

木曽のあばら屋さま!

サン=サーンス 木管のためのソナタ 3曲を セットでとらえて聴くことの意義を 私たちに伝えてくれるカリオペ盤には 掛け代えのない価値がありました。
そう言えば、 たしかに ソリストの名前、偶然一致していますね!
そしてドビュッシーの最晩年の作品との 偶然の一致も含め、話題の背景がぐーんと広がるような 見識のコメント、いつも ありがとうございます!

URL | “スケルツォ倶楽部” 発起人 ID:-

天才が最後に達した境地

こんにちは。
サン=サーンスの「クラリネット・ソナタ」というか、
管楽器のための3つのソナタ、大好きな曲です。
個人的にはこの3曲はセットで聴きたいので
アニー・ダルコのピアノによるカリオペ盤を好んでいます。
管楽器奏者の名前を3人とも「モーリス」で揃えてるところもいいですね!(?)
残念ながら現在入手困難なのですね。

ちなみにサン=サーンスと犬猿の仲だったドビュッシーも
死の直前に3つのソナタを書いていますね。
不思議な偶然・・・。

URL | 木曽のあばら屋 ID:GHYvW2h6[ 編集 ]

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