本記事は、7月19日の 「人気記事ジャズ ランキング」 で 第1位となりました。
皆さまのおかげです、これからも 何卒よろしくお願い申し上げます。

Getz Children Of The World (CBSソニー 25AP-1696 ) スケルツォ倶楽部 ⇒ 全記事 一覧は こちら
午後のジャズ喫茶 「カフェ ソッ・ピーナ」から
  ⇒ メニュー画面は こちら


村上春樹の 「ノルウェイの森 」を読み、
ジャズ・ミュージシャンによる
ノーウェジアン・ウッド 」を聴く。


 こんにちは、スケルツォ倶楽部“発起人” 妻 のコーナーです。
 自宅から 徒歩10分ほどの距離、公園そばに建っているオレンジ色の雑居ビル2階にある、わたしがお気に入りのジャズ喫茶 「ソッ・ピーナ 」。
 壁一面がガラス張りで 明るい内装は (激しい直射日光が射す 真夏のこの時期だけは、さすがに日除けスクリーンを降ろしていますが )、さりげなく「普通の喫茶店 」を偽装(笑 )してますが、この店内で次々とかかる趣味の良いB.G.M.は 実は どれも音楽オタクで独身の二代目マスターが 自分勝手に選ぶジャズ や ジャズ周辺 の ディスクばかり。それらを 先代オーナーから譲り受けた 自慢の巨大オーディオ・セットで 大音量で鳴らしてくれるのを、香り高いコーヒーとともに楽しめるひと時は、わたしにとって 何ものにも代え難い自由時間でもあります。
 衝動的にマスターが爆発させる ウンチク談議 に我慢して耳を傾けてあげれば、それなりに学べるところも 無いとは言えない(二重否定の肯定文 )かも。
 さてと、今日は店内では どんな音楽がかかっているのかしら と、小さな胸をわくわくさせながら 階段を登り、お店の入口の重い木のドアを よいしょっと押し開ければ 掛けてあるカウベルがいつものようにがららんと鳴り、それに一瞬マーラーの第6交響曲を連想するのも毎度のこと。
 あ、マスターったら、相変わらず 来店客が誰もいないのをよいことに、カウンター席に腰かけ、また何か文庫本を読みふけっているようね。おや、その表紙には 村上春樹の「ノルウェイの森 」というタイトルが見えたわ、ちょっと興味があるぞ。

ノルウェイの森 (講談社文庫 )_0001  ノルウェイの森 (講談社文庫 )_0002

 ・・・で、店内では ボブ・ドローが歌う「ノーウェジアン・ウッド 」がかかっている。
 これは すでに前回 (ボブ・ドローの回で )ご紹介した音盤ね。 ⇒ こちら
Bob Dorough_Beginning To See The Light
ライヴ・アルバム 「ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト 」
ボブ・ドロー(ピアノ、ヴォーカル )、ビル・テイカス(ベース )
録 音:1976年4月 ライヴ・アット“ コンサート・バイ・ザ・シー ”(レドンド・ビーチ )、カリフォルニア 
収録曲:
サイモン・スミスと踊るくま、ベター・ザン・エニシング、アイム・ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト、ア・ハンドレッド・イヤーズ・フロム・トゥデイ、アイム・ヒップ、ナッシング・ライク・ユー、スモール・デイ・トゥモロウ、ノーウェジアン・ウッド、ビコーズ・ウィーアー・キッズ、アイヴ・ガット・ジャスト・アバウト・エヴリシング
音 盤:Laissez-Faire(VSCD-075 )


マスター  「あ、奥さん いらっしゃいませ 」
わたし   「マスター、また ボブ・ドロー 聴いているのね 」
マスター  「と、言いますか ご夫妻のブログ “スケルツォ倶楽部 ”を読ませて頂いていたら、前回の ほら、ご主人がお書きになった ショート・ストーリー 「 ビートルズの “ノーウェジアン・ウッド ” 成立物語  ⇒ こちら  に とても興味をおぼえたんです。 」
わたし   「あー、あれね。ありがと、夫に言っとくわ、きっと喜ぶと思う 」
マスター  「おかげで ビートルズを聴き直し、ついでに 村上春樹の“ノルウェイの森 ”も久しぶりに読み返したくなり、さらに今度は この曲をカヴァーしているジャズ・ミュージシャンの録音はなかったかなー なんて探していたら、真っ先に見つけたのが このボブ・ドロー盤だったわけです 」
わたし   「ボブ・ドローは、歌いながら あの個性的な声で 歌詞の “ good ” と “ wood ” の踏韻を強調しながら 何度も繰り返しているところがポイントね、ほら、ちょうどこの辺り・・・ 」
マスター  「わかりやすいですよね。ご主人のノヴェルでも言及されてる 重要な、更にもうひとつの踏韻語 “would ”も、これに 加わるわけですよね 」
わたし   「あのストーリー自体は 夫のフィクションだけど、Knowing She Would のエピソードは、ジョージ・ハリスンの事務所に勤めていたという米人女性から村上春樹氏が直接聞いた裏話として ネット上では 結構有名な挿話だそうよ 」
マスター  「はあ、その部分にも村上春樹が絡んでいたんですか・・・ ぼく 知りませんでした。それで10年ぶりに “ノルウェイの森 ” 読み直してるわけなんですが、細かいところなんかは すっかり忘れちゃってて、あれ こんなストーリーだったかなあ - なんて 」
わたし   「そういうことは よくあるわよね。わたしも あの作品を読んだのはずいぶん前のことだから、やっぱり今では 記憶もあいまいだな。特によくおぼえていないのは、どうして直子が 急に - 小説の中では ホントに唐突な感じがするんだけど - 急に死んでしまったのか、思い出せないわ 」


■ 小説 「ノルウェイの森 」 - 直子は なぜ死んだのか - ひとつの仮説
マスター  「たしかに、主人公『僕(ワタナベ君 ) 』の恋人 直子は、精神を病んで施設に入所している設定でしたが、それまでの第10章が終わって、次のページから始まる第11章の冒頭の一文は いきなり『直子が死んでしまった後で - 』という衝撃的な書き起こされ方です。直子は、この二つの章と章の間で、自ら死を選んでしまっていたのです 」
わたし   「ストーリー進行上 決定的な展開点である重要なエピソードであるべきなのに、『僕 』は 彼女の葬儀にこそ参列するものの その時の詳細について ほとんど書かれてないし、事後になって レイコさんから 彼女の死の経緯を聞かされる、というのは とても違和感があったような覚えがあるわ 」
マスター  「よく読んでみると、直子の死は 主人公『僕 』自身が その引き金を引いたようにも読めるんです。間違っているかも知れませんが、作者はその点を おそらく意図的に書かずにいるので、単なる憶測に過ぎないのですが・・・ 」
わたし   「おもしろそう、続けてみて 」
マスター  「直子は 精神的な疾患を治療する目的で施設に入所していますが、夜中に淋しがっていると、自殺した姉や恋人キズキが 同じように淋しがって まるで夜の樹々が風でさわさわと鳴るように 話し相手を求めて直子に向かって話かけてきます。そんな時に 辛うじて彼女を生につなぎとめていたのが、『僕 』の存在、そして『僕 』が毎週のように 直子に書き続けた手紙だったのです 」
わたし   「ふんふん (うなずき ) 」
マスター  「しかし 『僕 』 は そんな 苦しんでいる直子ではなく、他の女の子 - 同級生の緑を 『決定的な存在 』として 選ぶことを決めてしまいます。そして あろうことか 直子と一緒の施設に入所していて信頼のおける年上の女性レイコさん(彼女もまた 精神疾患を抱えている )に 『僕 』 と緑とのこれまでの関係を 全て打ち明けた正直な手紙を書いてしまうのです。なぜこんなことをしたんでしょうか。レイコさんからは 『僕 』に返事の手紙が届きますが、そこには 『あなたと直子がハッピー・エンディングを迎えられなかったことを残念に思う 』 と書かれているものの、『物事を深刻にとりすぎず、恋に落ちたらそれに身をまかせるのが自然 』、『今は 直子には黙っていましょう、そのことは 私にまかせておいてください 』、『放っておいても物事は流れるべき方向に流れる 』、『どれだけベストを尽くしても 人は傷つくときは傷つくのです、人生を学び、幸せになる努力をしなさい 』 - などというアドバイスが書かれているのを 主人公が読むところで、第10章は終わります 」
わたし   「ふんふん (うなずき ) 」
マスター  「そして、続く第11章の冒頭で、われわれ読者は 直子が自殺したことを知ります。明確には書かれていませんが、ぼくは この間に、主人公の 『僕 』 が 直子以外の 他の女の子を選んでしまった という告白を書いた手紙 もしくは 手紙の内容を、レイコさんが、どこかの時点で - それが 手紙でか 電話でか、あるいは 間接的な方法を用いてかまでは わかりませんが - とにかく何らかの方法で、直子本人に伝えてしまったのではないか - と 直感ですが、思えるのです 」
わたし   「でも そんなことは 村上さんの文章には書かれていないわよね 」
マスター  「はい、まったくの ぼくの憶測に過ぎません。 しかし そもそも この特殊な療養施設は レイコさんによれば 『 ここにはそんなに沢山秘密ってない 』 という場所であり、さらに レイコさん自身も 『いろんなことを正直にしゃべるようにしなくちゃいけない 』 という考えをもった、謎と矛盾に満ちた人物でもあります。 彼女が、何らかの方法によって 『僕 』 の秘密の告白内容を 直子に知らしめたものと仮定したら、急に つじつまが合い出す気がしてきませんか 」
わたし   「直子は その前後に 他の病院施設に移るほど 不安定で危険な精神状態だったわけだもんね 」
マスター  「そう、この 『僕 』 の自堕落な行動が 彼女に 『決定的な 』 ダメージを与えた可能性は 高いです。直子が それまで大切にとっておいて 繰り返し読んでいたはずの 『僕 』 からの手紙を、他の 『大事な身の回りのもの 』 と一緒に 突然 すべて焼いてしまった という行動にも 理由がつきます。直子は 『すべてを決めて 』 施設に戻ってきたのです。その最期の晩、レイコさんには 『二人でここ(医療施設 )を出て、一緒に暮らすことができたらいいでしょうね 』 などと言い、それにレイコさんが、 『僕 (ワタナベ君 ) 』 のことはいいのって聞くと、直子は 『あの人のことは 私 きちんとするから 』 と言ったというのです。その時は 元気でニコニコして健康そうだったのに 夜が更けてくると 彼女は 『僕 』 との思い出を詳細に語り始め、そして うんと泣いた後、明け方に レイコさんが寝ている間に ロープを持って外へ出た・・・ 」
わたし   「けれど 直子の死後、施設を退所したレイコさんが 『僕 』 の下宿を訪れ、二人だけで 直子のお葬式を営む、その晩の重要な会話の中において、彼女の死の前後経緯について語る際にも、なぜか二人は その直前に 『僕 』 とレイコさんとが取り交わしたはずの手紙について ( 果たして レイコさんは 直子に 『僕 』 と緑との 決定的な関係について 伝えたのかどうか - という点について ) 互いに一言も言及し合っていないのは、たしかに不自然よね・・・ 」
マスター  「この小説 “ノルウェイの森 ” には おそらく作者によって 意図的に残された謎がとても多いように思いますが、これもそのひとつでしょう。 直子の死の原因については、憶測に過ぎませんが、ぼくにはそう思えるのです 」
わたし   「ふんふん、作者の村上さんは 『 ひょっとして自分は一番肝心な部分の記憶を失ってしまっているんじゃないかとふと思う 』 などという一文を 回想する主人公の言葉として掲げさせ、それを逃げ道にして わざと重要なことほど謎めかしている感じがするわね、わたしには 」
マスター  「 まあ、そここそが、不思議な この小説の 何とも説明できない魅力でもあるわけですが。 はい。 - では 次は 必ずしもジャズというカテゴリーにはありませんが、このビートルズの名曲のカヴァー演奏を語るときには 決して欠かせないレコーディングです 」
わたし   「・・・って、話題 変えた? 」
マスター  「 いえ、戻したんです。 ここは音楽を語るブログですからね(笑 ) 」


■ セルジオ・メンデス盤の魅力
Polydor K.K. POCM-1996 Sergio Mendes Expo 70
「ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood 」
セルジオ・メンデス &ブラジル’66
(左 )収録アルバム 「Ye-Me-Le 」 1969年(A&M 4236 )
(右 )収録アルバム 「ライヴ・アット EXPO ’70 」1970年(UICY-3710 )

マスター  「名ピアニスト、セルジオ・メンデスは このオリジナル・アルバム(写真左 )における録音(1969年 )盤では エレクトリック・ローズ・ピアノでソロを演(と )っていますが、翌年の大阪万国博覧会(1970年 )における実況録音盤(写真右 )では アコースティック・ピアノを演奏している音が確認できます。エレクトリック、アコースティック、どちらも それぞれの楽器の特性を生かした結果、全く異なるフレーズを駆使したセルジオ・メンデスの素晴らしいソロで、聴き比べる価値があります 」
わたし   「ふーん、本当だ。オモシロイ 」
マスター  「また この大阪万博公演ブラジル’66のパーカッション奏者として名を連ねているドン・ウン・ロマン Dom Um Roman という人は、この2年後に 今度はウェザー・リポートのパーカッショニストとして 再び来日することになる打楽器奏者です 」

セルジオ・メンデス&ブラジル66 来日時のメンバー
 セルジオ・メンデス&ブラジル66 来日時のメンバー
わたし   「興味深いのは 歌詞ね。ブラジル'66 は メイン・ヴォーカルが女性(ラニ・ホール、カレン・フィリップ )だったので、基本的に女性が主格になるように詩も書き換えられていることに気づいてた? マスター 」
マスター  「ああ、そう言われてみれば。そうすると “ノーウェジアン・ウッド ”は、女性が “逆ナン”した男の部屋を訪れるという不自然な歌詞になっちゃっていますね 」
わたし   「これはちょっと変よね。その男は 主人公の女性のことを〝明朝 仕事だから “と言って バスタブで寝かせるなんて・・・とても考えられないでしょ 」
マスター  「同感です。日本人の感覚からすると 些かおかしな習慣ですよね、なにしろ向こうでは あの名曲 “イパネマの娘 ”でさえも 女性が歌う時にはわざわざ “イパネマの少年 ”って直すことがあるそうですからね、演奏だけ聴いていれば 凄く良いんですけどね 」


■ ハービー・ハンコック盤 の魅力
Hancock - New Standard ( verve ) Dave Holland Plays Wood-Bass 
「ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood 」
(左 )ジャケット写真、
(右 )「ウッド 」ベース奏者、デイヴ・ホランド
演奏者 : ハービー・ハンコック(ピアノ )、マイケル・ブレッカー(テナーサックス )、ジョン・スコフィールド(エレクトリック・ギター )、デイヴ・ホランド(ベース )、ジャック・ディジョネット(ドラムス )、ドン・アライアス(パーカッション )
収録曲 :
ニューヨーク・ミニットNew York Minute (ドン・ヘンリー/ダニー・コーチマー )、マーシー・ストリート Mercy Street (ピーター・ゲイブリエル )、ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood (ジョン・レノン/ポール・マッカートニー ) 、ホェン・キャン・アイ・シー・ユー When Can I See You (ベイビー・フェイス )、バッド・ガール You've Got It Bad Girl (スティーヴィ・ワンダー )、ストロンガー・ザン・プライド Love Is Stronger Than Pride (シャーデー )、スカボロー・フェア Scarborough Fair (サイモン & ガーファンクル )、シーヴス・イン・ザ・テンプル Thieves In The Temple (プリンス )、オール・アポロジーズ All Apologies (ニルヴァーナ )、マンハッタン Manhattan Island Of Lights And Love(ハービー・ハンコック/ジャン・ハンコック ) 、ユア・ゴールド・ティース Your Gold Teeth Ⅱ(ドナルド・フェイゲン/ウォルター・ベッカー )
録 音:1995年 6月14~16日 ニューヨーク、マンハッタンセンター・スタジオ
ポリグラム(POCJ-9091~92 )特典盤 1996年 河口湖畔ライヴ音源含む

 おおむねジャズのスタンダード楽曲は、1950年代までのアメリカの流行歌が中心でしたが、この意欲的なアルバムは、もっと近年 ヒットチャートを賑わし 大衆に知られた有名曲を素材にして ハンコックが質の高いメンバーとで そうした楽曲に積極的に取り組んだ、 ジャズ・ミュージシャンが演奏素材として選曲する際の ひとつの新しいスタンダード(基準 )アプローチのショーケースを示したものである - と言えるように思います。
 「ノーウェジアン・ウッド 」などは そう言われるほど新しい楽曲とは言えませんが、ビートルズ・ナンバーから唯一選ばれたにしては、とても意外な選曲です。ここでテーマの旋律を演奏しているのは、「ウッド 」べースを弾(はじ )く 名手デイヴ・ホランド。ベースは音域が低く、意識して聴かないと バッキングを支えているのか 主旋律を弾いているのか 最初のうち それとは判らないほど埋没しがちですので、要注意ですね。そして とても控えめに木管楽器の( Wood Winds ! )アンサンブルが加わって、その渋い音色に 彩りを添えていることにも注目です。意図的に「ウッド 」に こだわっていることは、間違いないものと察します。
 そして お聴きになれば すぐ判ることですが、豪華なメンバーが顔を揃えた外的印象から受ける賑やかなイメージとは正反対に、これは 熱いながら とても内省的な音響を持ったアルバムだということです。優秀なミュージシャン同士が 次々とバトンを渡すような緻密なインタープレイは、予想外にも 音楽の内面に向かって 互いに深く掘り削ってゆくような印象です。


 次回、マイ・フェイヴァリット・シングス 」は、美味しいモーニングバイキング ・・・ に続く


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