本記事は 6月30日「 人気記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部
名優ゲアハルト・シュトルツェの演技を聴く
 オルフ「オイディプス王」(クーベリック)D.G.ゲルハルト・シュトルツェ(最小サイズの肖像写真)  目次は こちら

(25)プフィッツナー「パレストリーナ 」
   枢機卿ノヴァジェリオ を演じる。


■ 1964年 「枢機卿ノヴァジェリオ 」
  ~ プフィッツナー : 楽劇(音楽的伝説 )「パレストリーナ


 パレストリーナ 1964 Wien(Myto )
プフィッツナー : 楽劇(音楽的伝説 )「パレストリーナ 」
ロベルト・ヘーガー指揮
ウィーン国立歌劇場管弦楽団、合唱団、
   フリッツ・ヴンダーリヒ(パレストリーナ )、
   ゴットロープ・フリック(ローマ教皇ピウス4世 )、
   オットー・ヴィーナー(ローマ枢機卿カルロ・ボローメオ )、
   ワルター・ベリー(教皇特使枢機卿ジョヴァンニ・モローネ )、
   ゲアハルト・シュトルツェ(教皇特使枢機卿ベルナルド・ノヴァジェリオ )、
   ヴァルター・クレッペル(トリエント領主司教枢機卿クリストフ・マドルシュト )、
   ロバート・カーンズ(ルーナ伯爵 )、
   セーナ・ユリナッチ(パレストリーナの息子イギーノ )、
   クリスタ・ルートヴィヒ(弟子シッラ )、
   ミミ・ケールツェ、ルチア・ポップ、グンドゥラ・ヤノヴィッツ(三人の天使 )
   ヒルデ・レッセル=マイダン(パレストリーナの亡き妻ルクレツィアの声 )、他
ライヴ録音:1964年12月16日 ウィーン国立歌劇場
MYTO(海外盤 3MCD922 59 )


■ プフィッツナーが音楽史を素材に仕立てた 感動の「フィクション 」
  さて 楽劇「パレストリーナ 」は、前回 予習したとおり、政治的に脚色された音楽史における劇的な逸話の主線を、台本制作も兼ねる作曲者プフィッツナーが そのまま採用し、巧みに楽劇に仕立てた 創作ドラマです。
 とりわけ その第一幕後半の クライマックス部分の音楽は、本当に 本当に 素晴らしいです。

 ドラマは、進行中のトリエント公会議で審議されている 典礼ミサのあり方に対する一つの方針 - すなわち 典礼文の言葉を信者に聴き取りやすくするため、今後 複雑なポリフォニー音楽は 全面的に教会から排除し、グレゴリオ聖歌のような単旋律だけに限定するというもの - が検証されることになり、その第一幕で 公会議の幹事を務めている枢機卿カルロ・ボローメオパレストリーナの屋敷を訪れるところから ドラマは始まります。
 ボローメオは「公会議の意向に沿って、古(いにしえ )のグレゴリオ聖歌に回帰するような 単旋律の様式でミサを作曲してほしい 」と パレストリーナに頼みに来たのですが、しかし 作曲家は 己の芸術家としての個人的な自律心から その依頼を引き受けることが出来ず、かと言って 権威者に背くようなことも許されず、その相克に深く悩みます。

 注目の第一幕後半、宵闇の部屋の中 ひとりパレストリーナが苦しみながら 壁に掛けられた亡き妻ルクレツィアの肖像に「一体どうしたらいいんだ・・・ 」と打ち明けているところへ、突然 過去の偉大な作曲家たち - ジョスカン・デ・プレ(1440年頃~1521年 )やハインリヒ・イザーク(1450年頃~1517年 )ら - しかし それらは 皮肉にもフランドル楽派の作曲家ばかりのようですが - のイリュージョンが次々と姿を現し、口々にパレストリーナを勇気づけ、元気づけ、霊感を与える、という幻想的なシーンが展開されます。
 そしてパレストリーナの亡き妻ルクレツィアの声と共に、三人の天使達まで現れ、あの「マルチェルスのミサ 」の「キリエ・エレイソン 」 - ポリフォニックでありながら、常に主旋律が浮かび上がり、典礼文も聴き取りやすい 絶妙のハーモニー - を示唆するので、これを享けたパレストリーナは まさに憑かれたように 五線紙の上へ羽根ペンを走らせるのでした。
 そのうち作曲家の部屋の中は、美しい旋律で いっぱいに満たされます。
 白々と夜が明け始め、まさに 止揚 aufheben されたオリジナリティによって 新しいミサを 遂に書き上げたパレストリーナは、徹夜の疲労から そこに座ったままの姿勢でぐっすりとまどろんでいます。そこへ、朝の挨拶に入ってきた息子のイギーノは若い弟子のシッラと共に、父の机の上に完成したばかりの作品「教皇マルチェルスのミサ 」の楽譜が仕上っていることに気づくのです。

ルートヴィヒ(左) と ユリナッチ
(写真 )左奥がクリスタ・ルードヴィヒ、右側が セーラ・ユリナッチ 
女声二人が演じているのは、若い男(いわゆるズボン役 )です


 その新しい音楽の素晴らしさに立ち尽くす二人の若者達の背後の窓から 昇ってくる朝の光が まっすぐ部屋に射し込み、それがあたかも神の意志にかなっていることを表すかのように、眠っているパレストリーナと その机の上に置かれた楽譜とを照射します。 
 さらに 次の瞬間、パレストリーナの成し遂げた仕事を 祝福するように サン・ピエトロ大聖堂の鐘が すぐ間近で鳴り始め(その間 管弦楽は一瞬 全休止し )、これを背景に 静かに幕が下りてくるという 絶大なる効果は、音楽への造詣も深かった美術評論家で 昨年急逝された 宮下誠氏も 著書「迷走する音楽(法律文化社 ) 」の中で「古今東西のオペラの幕切れの中でも屈指の感動をもたらすもの 」として絶賛の 名場面でもあります。

 私は、プフィッツナーの「パレストリーナ 」は、この第一幕だけで すでにストーリー上では 十分 完成されている、と感じています。その内容、量(長さ )、構成、そして音楽的高揚感も、実は これに続く二つの幕は、もはや第一幕に勝るものではありません。
 第二幕は、後述するとおり「スケルツォ 」のような一幕で、混乱するトリエント公会議の場、幹事・各国代表委員・従者たちの口論に終始する 「世俗的な思惑に満ちた現実世界の描写(藤本一子氏 ) 」 に過ぎません。唯一 重要な展開は、新しいミサを教皇の宮廷で 2週間後に試演されることが決まる、というくだりだけですが、次の開幕を前にして すでに終幕(第三幕 )の結果は、わたしたちには予測出来てしまいます。
 すなわち、試演された「教皇マルチェルスのミサ 」が 人々に高く絶賛され、音楽家や民衆たちによって「パレストリーナ、音楽の救い主! 」と褒め称えられる、という ストーリー上では もはや 実質 エピローグ的な締め括りに過ぎません。
 枢機卿ボローメオを随行して 当時のローマ教皇 ピウス四世まで「デウス・エクス・マキーナ 」的に舞台に登場し、パレストリーナに祝福を与えます。
 歓呼の声に囲まれながら 神への感謝 - 主よ、いまこそ 私は あなたの幾千もの環の一つにつながれていることを感じます - を捧げるパレストリーナの謙虚な後ろ姿は もちろん感動的ではあるものの、しかし すでに第一幕で主人公は 現世の祝福よりも遥かに尊い神の霊感を授かったわけですから、さらに第三幕においても 重ねて教皇から誉められても その感銘はダメ押しとなり、(蛇足とまでは言いませんけれど )初幕の せっかくの神秘的な効果まで削いでしまうような気がするのです が、いかがでしょうか。

■ シュトルツェは「第二幕 」にのみ出演
  比較的知られていない楽劇にもかかわらず、今回 プフィッツナーの「パレストリーナ 」を 真剣に聴き込んでみたら、その余りの素晴らしさに“スケルツォ倶楽部” 発起人、心から感動してしまったため、思わず 作品そのものをご紹介させて頂くことに 力こぶが入ってしまいました。 ・・・毎度のことながら 長文、申し訳ありません。

 さて、冒頭に掲げた今回 紹介のディスク(ヘーガー指揮 / ウィーン国立歌劇場 MYTO盤 )は、ヘルベルト・フォン・カラヤン辞任後のウィーン国立歌劇場における貴重な上演記録ですが、上記をご覧のとおり、その出演者たるや往年のシュターツ・オーパーの名歌手たちがずらりと顔を揃えています。中でもタイトル・ロールの「パレストリーナ 」を演じているフリッツ・ヴンダーリヒの素晴らしさも特筆すべき 実況録音です。
 なお、MYTO盤と同日公演の音源と思われるRCAからリリースされた抜粋盤(RCA 海外盤 74321.79598.2 )が 比較的入手も容易(? )・・・今、どうなんでしょうか。
 プフィッツナー「パレストリーナ」抜粋
 しかし この「抜粋盤 」では、ゲアハルト・シュトルツェの活躍する 肝心(? )の第二幕(トリエント公会議の場 )が バッサリとカットされて、欠片(かけら )さえも聞けませんから、シュトルツェを聴きたいと思ってくださった方には 要注意。その第二幕には 主役であるパレストリーナ(ヴンダーリヒ )の出番はまったくありません(! )が、これとは「正反対に 」シュトルツェが演じるノヴァジェリオが、この第二幕には 出ずっぱりです。
 
 その役 教皇特使枢機卿 ベルナルド・ノヴァジェリオは、教皇の甥でもあるボローメオと共に トリエント公会議の幹事を務める人物ですが、とにかく多弁で、第二幕に限ってはヴンダーリヒに代わって シュトルツェが主役を演じている(! )と言っても過言でないほどの大活躍です。
 彼の役は苦労人で、 期待して頼んだ新しいミサの作曲をパレストリーナに断られたことを愚痴る 同僚ボローメオに 「芸術家なんて皆 頭がおかしいのさ 」という慰めにもならぬ言葉をかけながら、会議のモットーたる Schnell zum Schluss 「速やかに終わるべし 」 を実践しようと躍起になる実務家です。そのてんてこ舞いの努力たるや涙ぐましいほどで、性格テノールとしてのシュトルツェの、まさに独壇場です。
 各国代表に平身低頭するかと思えば、大声をあげてみたり、延々と続くイタリア派とスペイン派の反目で空転させられてしまう公会議の真ん中で振り回されて途方に暮れ 苛立つ様子は、ワーグナーの「マイスタージンガー 」に登場する人物 徒弟ダーヴィットを そのまま中年にしたようなコミカルなイメージです(音楽も似ていますし )。
 礼拝のような雰囲気さえ漂う深遠厳粛な第一幕後半と、祝典的な短い第三幕とに挟まれ、虚栄心・無駄な長弁舌・無意味な異議申し立てなど敢えて不要な言葉が飛び交う、収拾のつかぬ世俗的な第二幕は、その一方で 魅力的な旋律が次々と顔を出す交響曲の中間に置かれた、まさしくスケルツォ楽章のような存在でもあり その落ち着きの無い公会議議論の紛糾を演出するための性格的役割を担っている枢機卿ノヴァジェリオのキャラクターは、ここでは突出して重要です。
 シュトルツェの大活躍によって 真ん中の第二幕を 前後でサンドイッチしている二つの幕(第一幕と第三幕 )の、厳粛で落ち着いた内容が、逆に 際立って光り輝いている - とまで断言してしまうのは、この稀代の性格テノールに 思いきり肩入れしている私が 贔屓(ひいき )目たっぷりに言うことですから 当然のことです(笑 )。シュトルツェでなければ 決してここまで演じきることは出来なかったに違いありません。やはり必聴の音源です、正規音源のリリースに期待・・・ !

■ 楽劇(音楽的伝説 )「パレストリーナ 」が聴ける、新しい録音盤はないの?
  最新録音とは言えませんが、D.G.にはラファエル・クーベリック指揮 / バイエルン放送交響楽団による ステレオ録音の優れた全曲盤なら存在します。国内盤CDもリリースされたことがありました(現在は入手困難 )。
 残念ながら、ここでの枢機卿ノヴァジェリオ役は われらがシュトルツェではなく、ベリナルド・シュタインバッハというテノール歌手 (しかし その歌いまわしは、ヘーガー盤のシュトルツェの歌唱/演技を ずいぶんと参考にしてくださっていることが、その細部を聴けば 判ります ) ですが、熱演のニコライ・ゲッダ(タイトル・ロール )の他、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(ボローメオ )、ベルント・ヴァイクル(モローネ )、カール・リーダーブッシュ(ピウス四世 )、ヘルマン・プライ(ルーナ伯爵 )、ヘレン・ドナート(イギーノ )、ブルギッテ・ファスベンダー(弟子シッラ )など、ここでも主要キャストの顔ぶれは たいへん豪華で 興味深いです。
 このディスクは 長らく廃盤でしたが、最近になって ブリリアントライセンス盤で 安価に購入できるようになったことは 朗報です。 しかし もし可能なら、これはぜひ良質の歌詞対訳を付けた上で国内盤で復活されることを、心より願うものです。それに値する 隠れた名作であることを 信じるからです。
Palestrina_Kubelik_DG.jpg Palestrina_Kubelik_Briliant ライセンス盤
(左 )D.G.盤の C.D.初出時のジャケット 名盤 !
(右 )再発 ライセンス盤のジャケット(Brilliant ) 内容は同一です


次回 (26)ベルク「ヴォツェック」大尉 を演じる  に続く・・・

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