ゲアハルト・シュトルツェの演技を聴く (番外編 ) シュトルツェの長女レナ、映画「マーラー、君に捧げるアダージョ Mahler auf der Couch 」に出演
本記事は 5月11日「 人気記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部
名優ゲアハルト・シュトルツェの演技を聴く


(番外編 )
シュトルツェの長女レナは女優、
映画 「マーラー、君に捧げるアダージョ
( Mahler auf der Couch ) 」 に出演



(左 )映画「マーラー、君に捧げるアダージョ 」のポスター
(右 )右端に立っている女性が レナ・シュトルツェ(ユスティーネ役 )
■ シュトルツェの実娘は、映画女優 レナ・シュトルツェ Lena Stolze
ゲアハルト(ゲルハルト )・シュトルツェが、バイロイト祝祭劇場で楽劇「ニュールンベルクのマイスタージンガー 」の舞台にダーヴィット役として初めて出演した1956年、彼は 妻ガブリエーレ Gabrieleとの間に 一人の女児を授かっています。
シュトルツェの長女 - レナ・シュトルツェ Lena Stolze(1956年8月8日、ベルリン生まれ ) - は、ミュンヘンの大学でドイツ文学と美術史を学んだ後、父の卓越した演技力の才を受け継ぎ、母国で女優として大成していました。
▼ 目元辺り や 鼻筋なんか ゲアハルト父さん に そっくりではないですか?




(左 )映画「白バラは死なず Die Weisse Rose 」、これに出演時の レナ・シュトルツェ(20代 )、
(右 )パーシー・アドロン監督 「ゾフィー・ショル、最後の5日間 Fünf letzte Tage ( 西ドイツ 1983年 ) 」から
彼女の代表的な主演作品とされるのは、ドイツのミハエル・フェアヘーヴェン監督による「白バラは死なず Die Weisse Rose ( 西ドイツ 1982年 ) 」という映画で、そこでレナは ナチス・ドイツ時代に白バラ抵抗運動(反ナチ活動 )に関わった咎により1943年、わずか21歳で処刑された悲劇の少女ゾフィー・ショル役を演じ、高い評価を得ました。
同年ドラマのストーリー上 これを補完する姉妹作品 「ゾフィー・ショル、最後の5日間 Fünf letzte Tage ( 西ドイツ 1983年 ) 」 が製作された際にも レナは同じ役で出演することになるのですが、この「最後の5日間 」 で監督を務めていたのが、映画 「バグダッド・カフェ 」 および 今回 紹介する 「マーラー、君に捧げるアダージョ 」の パーシー・アドロン Percy Adlon(1935~ )です。



(左 )「Die Schaukel(1986年 ) 」、
(右 2枚 )「 Das schreckliche Mädchen (1990年 )」に出演のレナ・シュトルツェ
■ 映画「マーラー、君に捧げるアダージョ Mahler auf der Couch 」
グスタフ・マーラーを主人公にした この映画は、パーシー・アドロン監督の新作(アドロン監督は 戦前の著名なヘルデン・テノール、ルドルフ・ラウベンタールの息子! )です。このゴールデン・ウィークから、都内を皮切りに 順次 全国規模で公開されることになっています。
“スケルツォ倶楽部”発起人も 久しぶりに 妻と渋谷の小さな映画館へと出かけてはみたものの、ユーロスペースなる場所に行くのは 二人とも初めてのこと。その所在地はとてもわかりにくく 探し当てるのに多少時間を要しました。なにしろ道玄坂の狭い路地裏を二人で歩くのは10数年ぶり、それもこの辺りは かつて夜にしか歩かなかったような場所ですから、湧き上がる気恥ずかしい懐かしさのような感情に 思わず二人 顔を見合わせ・・・、もう笑うしかありません。
それでも何とかたどりついたユーロスペースは、劇場と呼ぶには いささか規模の小さな映画館でしたが、とても良心的な上映企画を組んでいる 貴重な存在であるようです。
整理券の順番に呼ばれて席に着き、暗闇の中で 待つこと暫し、ようやく映画が始まりました。
マーラー自身が 生前完成させることの出来た最後の音楽 - 第10交響曲の第1楽章が静かに鳴り響く中、小さなスクリーンに主な俳優名のクレジットが順に浮かび上がってくるのを眺めているうち、なんと「Lena Stolze 」 という文字を発見。その瞬間、私 発起人 驚きのあまり 思わず「あっ! 」と声を上げてしまったのです。
妻 「(小声で )どうしたのよ 」
私 「(小声で )レナ・シュトルツェが出てるらしいんだ、この映画に 」
妻 「(小声 ) ・・・って誰? 」
私 「(小声 )ゲルハルト・シュトルツェの娘 」
妻 「(小声 )あー、あのハゲのテノール歌手ね 」
私 「(絶句 ) 」
妻 「(うるさそうに )もー いいから、静かに 映画 観てなさいよ 」
私 「(憮然 ) 」
■ レナ・シュトルツェ演じる、マーラーの妹 ユスティーネ
この映画の中で レナ・シュトルツェが演じているのは、アルマとの結婚直前まで兄であるグスタフ・マーラーと同居して 家事全般を行っていた一番下の妹 ユスティーネ役でした。


(左 )ユスティーネを演じるレナ・シュトルツェ
(右 )マーラーを演じるヨハネス・ジルバーシュナイダーと、その妹ユスティーネを演じるレナ・シュトルツェ
登場する場面こそ 決して多くはないものの、脇役 ユスティーネは 複雑な性格を内面に秘めた 難しい役どころであると感じました。
彼女は 愛する兄マーラーをアルマに奪われた という潜在的な憎しみの感情を抑圧し続けているものの、後年 マーラーが 音楽家として最高のポストである宮廷歌劇場( 国立歌劇場 )総監督の座を辞職に追い込まれるという 悲劇的な「ハンマーの一撃 」を知ると、それまで ずっと抑圧していたアルマへの憎悪が爆発し、夫であるアーノルド・ロゼーが制止するのさえ振り切って 義理の姉アルマに食ってかかるのでした。「皆 あんたのせいよ 」、「このあばずれー 」と怒鳴りつける憤怒のレナの表情、間違いなく父ゲアハルト譲りの性格演技の才だなあ・・・と感嘆いたしました。
ちなみに この マーラーの妹ユスティーネと夫ロゼーとの間に 生まれた娘の アルマ は 成長してのち 両親ともにユダヤ系だったため、ナチス政権によって アウシュヴィッツの強制収容所に送致され、そこで悲劇的な最期を遂げることになります。そんなナチスへの抵抗運動家ゾフィー・ショル役を かつて 演じたことで女優としてのキャリアをスタートさせたレナ・シュトルツェが、パーシー・アドロンによって ここでユスティーネ役にと起用されたことは 感慨深いものがあります。
■ 原題 - Mahler auf der Couch – カウチ(長椅子 )上のマーラー とは?

それにしても もう少し適切な邦題を付けられなかったのか・・・ と残念な気持ちを拭い去ることが出来ません。
その邦題「マーラー、君に捧げるアダージョ 」の原題は、Mahler auf der Couch – 直訳すると 「カウチ(長椅子 )上のマーラー 」ということに。
これは、映画をご覧になれば説明の必要もないことなのですが、妻アルマの不貞を知ったマーラーが衝撃のあまり神経衰弱となり、オランダはライデンのホテルに滞在している精神分析医ジークムント・フロイト(カール・マルコヴィクス )を訪問、フロイトのカウンセリングを受けることから物語が始まり、かつては幸福だった夫婦の出発点である過去から回想することによって、映画のストーリーも進行してゆくことを明示するという 秀逸なタイトルだったのです。


(左 )オリジナル・ポスター
(右 )映画の中で、フロイトに受診するマーラー
フロイトは ご存じのとおり 催眠療法を採用していましたから、まず患者をカウチ Couch( 長椅子 )に横たえて自然にリラックスするのを待ち、精神の外傷的体験を語らせるという方法を行なったのです。映画の中でも、忠実にその場面は 想像を交えて再現されています。マーラーもまたフロイトの一患者として カウチに横たわり、最初のうちこそ困惑しつつも、徐々に信頼を深めていった医師に対し、ありのままの夫婦関係をさらけ出すことによって 興味深い分析を受け入れ、最後は史実どおりに精神の鎮静を得るのでした。
この映画では そこまで言及されてはいませんでしたが、マーラー自身は、未完成のまま亡くなってしまう 最後の第10交響曲の( 煉獄 を経て - )その極めて美しい終楽章において、背徳のファム・ファタールでありながら、実は 楽想の女神 ミューズであった 妻アルマに対し、天国から 赦(ゆる )し を与えているのですね。
■ ブルーノ・ワルター登場!
この映画の中には、グスタフ・マーラーと妻アルマの周辺の有名人が リアリティを持って登場しています。
クリムト、ツェムリンスキー、ブルクハルト、そして グロピウス・・・。皆 変な奴らばかりで とことんイヤラシイ。
しかし 私 “スケルツォ倶楽部”発起人が 最も萌えたのは、若き日のブルーノ・ワルター - 二枚目すぎる! - が登場するシーンです。演じるのは ミヒャエル・ダングル Michael Dangl という俳優。とても雰囲気が出ています!


(左 )映画 : 若きブルーノ・ワルターを演じる ミヒャエル・ダングル Michael Dangl
(右 )本物 : ブルーノ・ワルター と(一人おいて )、その“人生の師” マーラー
宮廷歌劇場を去ったマーラーを非難する団員やジャーナリストたちに対し、徹底的に師を擁護するというワルターの姿勢は ドラマの最後まで一貫しており、とても頼もしく 格好イイ役回りなのです、ご注目を!
この映画における、登場人物同士の会話やエピソードの多くは アルマ・マーラー=ヴェルフェルが書き残した「グスタフ・マーラー、愛と苦悩の回想 」に その多くを依存しているように感じましたが、アドロン監督の映画「マーラー、君に捧げるアダージョ 」には とても説得力あり、感動あり、涙あり、エッチあり、ちょっぴり 笑いもあり、たいへん面白く拝見いたしました。
■ 映画 Mahler auf der Couch のサントラ盤もあります

収録曲 : 交響曲 第10番 - 第1楽章:アダージョ、アルマの歌曲「私は花の下をさまよう 」、「なま温かい夏の夜 」、「激情 」、「あなたのそばに居ると 」、交響曲 第5番 - 第4楽章:アダージェット (抜粋)、交響曲 第4番 - 第3楽章 (抜粋) 、交響曲 第10番 - 第1楽章:アダージョ (パーツ録音) 第8-15小節、ヴィオラ、第32-35小節、チェロ、第63-68小節、ホルン、第80-84小節、ヴァイオリン、第83-99小節、木管、第90-95小節、オーボエ、 第116-118小節、フルート、第122-123小節、フルート、第112-127小節、木管 + ホルン、第116-125小節、ヴァイオリン・ソロ、第135-140小節、木管、第137-141小節、トロンボーン + テューバ、第135-140小節、木管 + トロンボーン + テューバ、第137-140小節、チェロ + コントラバス、第135-140小節、弦五部、第141-144小節、ホルン、第162-166小節、ヴァイリン + ヴィオラ + チェロ、第151-166小節、弦五部、第176-177小節、オーボエ、第194-200小節、ハープ、第194-200小節、弦五部 + ハープ、第194-212小節、木管 + 金管、第203-208小節、木管 + 金管 + 弦五部 + ハープ、第230-237小節、ファゴット、第229-237小節、チェロ + コントラバス、第80-84小節、ヴァイオリン + ヴィオラ
演 奏:エサ=ペッカ・サロネン(指揮 )スウェーデン放送交響楽団、
ニーナ・ベルテン(ソプラノ )リコ・グルダ(ピアノ )
音 盤: キング(KICC 930 )
アルマが J.S.バッハの平均律を弾くシーン、マーラーとアルマのピアノ連弾によって ミルテンブルクがワーグナーの「ヴァルキューレ 」からブリュンヒルデがジークリンデの懐妊を知らせるくだりを歌うシーン など ストーリーの進行上 登場人物が演奏する一部の楽曲を除くと、サウンドトラックは 基本的には マーラーが作曲した 第10交響曲第1楽章からの抜粋となっています( アドロン監督自身によって 指定された楽器パートから抜き出された演奏の断片が挿入されており、これがたいへん おもしろい効果を上げています )。
映画では 第4、第5交響曲の 美しい緩徐楽章 が、遠く過ぎ去った幸福の記憶の場面などで 使われていたことと、このサントラに収録されているアルマが作曲した歌曲で 伴奏を務めているピアニスト リコ・グルダ とは、あの フリードリヒ・グルダの息子であること - などを 付記させて頂きます。
■ 今回は ゲアハルト・シュトルツェの出番 無し
・・・で、申し訳ありませんでした。
シュトルツェの愛娘レナは、現在 二児の母 だそうですから、彼女の子どもたちは、当然 ゲアハルト・シュトルツェの孫、というわけですね。母レナと同様、何らかの才能を あの素晴らしい おじいちゃん から 受け継いでいるのでしょうか。
参考に
ドイツの俳優を紹介するサイト ⇒ こちら
レナ・シュトルツェ 紹介サイト ⇒ こちら
では 次回こそ・・・ (23)1964年、カラヤン ウィーン国立歌劇場を辞任の年 に続きます・・・
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