スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
「アフター・シュトラウス & “ バイ・シュトラウス ”」
After-Strauss & “By Strauss”
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(19)1941年 アラム・ハチャトゥリアン
   「仮面舞踏会 」
のワルツ

レールモントフ Wiki ハチャトゥリアン Wiki 浅田真央
(左から ) M.レールモントフA.ハチャトゥリアン浅田真央選手

▼ ハチャトゥリアン 生誕100周年記念演奏会(2003年 モスクワ )実況盤
VISTA VERA(海外盤 VVCD-00060 “ Khachaturyan Centenary ” )
ハチャトゥリアン : ワルツ ~ 組曲「仮面舞踏会 」から
ヴラディーミル・フェドセーエフ 指揮 Vladimir Fedoseyev
チャイコフスキー交響楽団 Tchaikovsky Symphony Orchestra
録 音:1990年
 (「仮面舞踏会 」ワルツ のみ )
併 録:ヴァイオリン協奏曲、バレエ組曲「スパルタカス 」から 「アダージョ 」、同「ガイーヌ 」から 「ばらの娘たちの踊り 」、「アダージョ 」、「レズギンカ 」、「剣の舞 」 )
海外盤(VISTA VERA )VVCD-00060 from “ Khachaturyan Centenary

 
 今宵 ご紹介の ディスク “ Khachaturyan Centenary ” は、2003年5月13日モスクワ音楽院大ホールで行われた 大作曲家ハチャトゥリアン生誕100周年記念演奏会の実況録音で、アラベッラ・シュタインバッハー Arabella Steinbacher 独奏による 素晴らしいヴァイオリン協奏曲やバレエ組曲「ガイーヌ 」などがメイン・プロでした。

Vladimir Fedoseyev アラベラ・シュタインバッヒャー
(左)ヴラディーミル・フェドセーエフ Vladimir Fedoseyev
(右)アラベッラ・シュタインバッハー Arabella Steinbacher

 「ガイーヌ 」と言えば、野性的な「レズギンカ 」で炸裂する、ここで聴ける即興的なパーカッション奏者のプレイには注目です。参考までに、作曲者の生地アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したロリス・チェクナヴォリアン(ASV )盤における「レズギンカ 」の演奏も、音楽的な調和さえ犠牲にした 捨て身の迫力を聴かせてくれる凄まじさという点では これと双璧でしたね。
 なお、肝心の「 “ 仮面舞踏会 ”ワルツ 」もフェドセーエフらしい熱のこもった激演で、テヌート気味に旋律を思いっ切り引っ張る濃厚な弦セクションの節回しが特徴ですが、この演奏だけ「1990年のライヴ録音 」です。掲題のVISTA VERA盤の中では ボーナス・トラック的扱いの収録でしたので、念のため。

■ 戯曲「仮面舞踏会」のストーリーは 「オセロー」に似ている
 生涯報われず、悲劇的な最期を遂げた軍人 ミハイル・ユーリエヴィチ・レールモントフ Mikhail Yuryevich Lermontov (1814 – 1841 )の 戯曲「仮面舞踏会 」は 十九世紀ロシアの社交界が舞台ですが、妻の貞節への疑念に取りつかれ 遂に破滅する新興貴族を描いた悲劇 というテーマでは、背景設定こそ異なるものの シェイクスピアの戯曲「オセロー 」のヴァリエーションとも言えるでしょう。たとえば 主人公を陥れる疑惑の証拠として使われる小道具は、「オセロー 」においては その妻デスデモーナの盗まれたハンカチーフでしたが、この「仮面舞踏会 」の場合には 主人公アルベーニンの若く美しい妻ニーナが落としたブレスレットなのです。

■ 初演舞台の音楽は、グラズノフ作曲(!)
 1938年にメイエルホルドの演出によってペテルブルクで初演された時には、この芝居の伴奏音楽はグラズノフが担当していました。が、なぜかグラズノフは 劇中重要な場面 - 無実の妻への疑念を病的に深めた主人公が、遂に妻に毒を飲ませる舞踏会のシーン - で使われるワルツを オリジナルには作曲しておらず、この初演の舞台では 代わりにグリンカの「ワルツ=ファンタジー 」という無難な曲が転用されて この場面に充てられていたそうです(尤も、グラズノフ自身は1936年に亡くなっていますから、その時点で 自分自身では全曲を完成させることができないことも予感し、メイエルホルドには 代替手段としてグリンカの音楽を使うようにと指示していたものかもしれません。ここは 発起人の憶測ですが・・・ )。

■ 舞台再演時に新たな音楽を書き下ろしたハチャトゥリアン
 偶然にも 初演の舞台を35歳のハチャトゥリアン Aram Il'ich Khachaturian( 1903 - 1978 )は 客席から観ていました。この時、彼は 劇中におけるワルツの存在が占める重要な役割 - 主人公が 無実の妻を殺害してしまう決定的な場面の背景に流れている音楽であること - を認識した上、グリンカワルツを聴いた時 直感的に「これは レールモントフ自身が意図したような種類のワルツではない 」と感じていたのだそうです。さすが 凄い感受性ですね。

 後日、この 劇「仮面舞踏会 」が R.シモノフによる新演出で モスクワのヴァフタンゴフ演劇劇場によって上演されることが決まった時、新たな劇伴音楽作曲のオファーが 奇しくもハチャトゥリアンにくだりました。
 かつて初演の舞台に立ち会っていたハチャトゥリアンは この依頼に運命を感じ、劇場の要請を引き受けますが、やはり 問題の「ワルツ 」の作曲までくると そこで しばらく筆がストップし、ドラマの中で重要な音楽であることを意識していたがゆえ 特に心をくだいたと言われています。
 この  ワルツ 」は 死の音楽 でもあるのです。 高揚する舞踏のリズムと外面的な派手さの奥に、実は 深い感情とエネルギーがたぎっていなければなりません。
 ハチャトゥリアンは、恩師ミヤスコフスキーの協力を得て グリンカ以前の時代のロシアのワルツを全部調べてみたりしますが「回答となるような衝動を与えてくれるものは見当たら 」ず、「文字通り平静を失って、ワルツでうわごとを言わんばかりに (寺原伸夫ハチャトゥリアン : 組曲 “ 仮面舞踏会 ” 全音楽譜出版 )より 」悩み抜くのですが、翌週になって突然 天の啓示を受けたように一瞬の閃きを捉え、一気に脱稿した と伝えられています。
 そして1941年6月21日、ハチャトゥリアンの新しい音楽と共に 無事「仮面舞踏会 」の新演出プレミエの幕が上がったのは、モスクワの新聞各紙がナチス・ドイツ軍によるソヴィエト侵攻を報じる前日のことだったそうです。

■ 忘れ得ぬ 浅田真央選手のフリー演技
浅田真央選手(NHK )
 女子フィギュア・スケートの浅田真央選手が、このワルツを 一昨年頃からフリー・プログラムの演技で取りあげてくださったおかげで それ以来 何とハチャトゥリアンが 一般にも広く認識されるようになりましたね。さすがに今シーズン(2010 - 2011 )では もう使われていないようで 少し残念ではありますが、あの音楽と演技のコンビネーションは 稀にみる素晴らしさでした。
 深読みし過ぎかも知れませんが、浅田選手が決めていた最後の振付の姿勢 - それはまるで天空を仰ぐかのような このポーズ写真 ) - でしたが、あれこそ まさしくレールモントフの主人公である悲劇の妻ニーナが 夫に仕込まれた毒薬をあおいだ瞬間浅田選手が全身で表現していたように 私には思えたものです。 ・・・ いえ、きっと そうであったに違いありません。
浅田真央選手 「仮面舞踏会 」  
▲ このポーズの意味するもの (AP Photo/Ahn Young-joon,2008 )

1942年  スターリングラードの攻防戦。
      ショスタコーヴィチ、交響曲第7番「レニングラード 」

1943年  連合軍、シチリア上陸。
      イタリア降伏、ムッソリーニ処刑される。   
      バルトーク、「管弦楽のための協奏曲 」。

1944年  連合軍、ノルマンディー上陸。
      パリ解放。

1945年  連合軍、ドレスデンを爆撃。
      ウィーン国立歌劇場、ブルグ劇場、聖シュテファン教会 など全焼。
      ベルリン陥落、ヒトラー自決。ドイツ軍、無条件降伏。   
      ポツダム宣言。
      広島・長崎に原子爆弾投下、日本軍 無条件降伏。
      第二次世界大戦終結(戦死者1700万人、負傷者2700万人 )。
      サンフランシスコ会議。国際連合が発足。
      R.シュトラウス、「メタモルフォーゼン 」。
 
1946年 ウィーンフィルのニューイヤー・コンサート、ヨーゼフ・クリップスの指揮で継続される。  
      ニュールンベルク裁判。
      チャーチル首相(英)、ソ連の脅威を「鉄のカーテン 」と発言。

1947年  アメリカ、共産主義根絶政策トルーマン・ドクトリン。   

1948年  指揮活動禁止措置が解けたクレメンス・クラウスの指揮により、
      ウィーンフィルのニューイヤー・コンサート再開。   
      欧州経済協力機構(O.E.E.C. )。   
      イスラエル独立宣言、建国にアラブ諸国が反発、第一次中東戦争。
      ガンジー、暗殺される。
      R.シュトラウス 没。
      映画「第三の男 」
~ アントン・カラス「カフェ・モーツァルト・ワルツ 」 に続く・・・

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