スケルツォ倶楽部 
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「サンタクロース物語」(12)

 オネゲル_クリスマス・カンタータ  クリスマスの音楽_サンタ_スヌーピー
  ↑ 今宵の一曲
▽ オネゲル作曲 「クリスマス・カンタータ(Une Cantate de Noël ) 」
  エルネスト・アンセルメ(指揮)
  スイス・ロマンド管弦楽団
  ピエール・モレ(バリトン)
  ローザンヌ青年合唱団、放送合唱団、ヴィラモン学校少年合唱団
録音:1961年11月 ジュネーヴ
DECCA = ユニバーサル(UCCD-4129 )
 
併録曲:ドビュッシー 神秘劇「聖セバスティアンの殉教 」

 スイスの作曲家アルテュール・オネゲル(1892~1955)最後の作品、25分にも満たない 短いカンタータですが、とても不思議な魅力を持った 感動的な傑作です。
 この曲は 当初、スイスの小村セルツァッハで上演される「受難劇」として、1940年から 詩人アルクスの台本とオネゲルの音楽とによって構想されていました。パリが第二次世界大戦の占領下にあった時期も含め、9年間に渡って作品は少しずつ書き進められていたものの、1949年 アルクスの自殺によって 未完成となってしまいました。
 これを惜しむ声が高まり、その一部分でも作品化することを親友パウル・ザッハーに委嘱されたオネゲルは、その時 すでに重い心疾患を患っていたものの、命を削るようにしてペンを進め、その死を目前にした1953年「クリスマス・カンタータ」として完成、その年の12月バーゼルで初演されたのでした。オネゲルが亡くなるのは その2年後です。
 全体は3部構成と考えられますが、「キリスト降誕」を祝う第2パート以降の敬虔な美しさは 一度聴いたら忘れられないでしょう。
 児童合唱が「喜べ イスラエルの民よ、インマヌエル(救世主)は 来たらん!」と、マーラー風の純朴な旋律で 天使が合唱を繰り返す部分の可愛らしさ、キリストの到来を告げる重要な天使のパートはバリトン・ソロが務め、やがて フランス、ドイツ、オーストリア、イギリスなどの有名な賛美歌がそれぞれ世界の言語で同時に進行しながら 複雑な対位法的コラージュとも言える、夢のような部分が訪れます。そこでは 賛美歌「いざ歌え、いざ祝え」も聴こえてきます、「きよしこの夜」も聴こえます・・・ そして グレゴリオ聖歌「主を讃えよ ラウダーテ・ドミヌス 」バッハのカンタータ140番「目覚めよ、と呼ぶ声が聞こえ」に使用された あの コラール旋律部分 )が聴こえてくる・・・ ああ、もう この辺まで来ると、音楽の素晴らしさのあまり 何だか 無性に嬉しくなってしまう “スケルツォ倶楽部”発起人 なのでした。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「サンタクロース物語」
(12) バプテスマのヨハネ


 その頃、あの悪虐のヘロデ王は もうずっと以前に亡くなっており、エルサレムを含む このユダヤ地方一帯も 事実上ローマ帝国の支配する地域となっていました。ヘロデ王の死後、息子たちは 兄弟同士 お互い足を引っ張り合い、そこをつけ込まれては ローマ総督に 次々と滅ぼされてゆきました。生き残ったヘロデ・アンティパスは もはや王ではなく「領主」として狭い地域に君臨するしかありませんでした。
 かつてのヘロデ王の宮殿は、今は このヘロデ・アンティパスの居城となっており、宮殿併設の地下牢もまた 同様でしたが、ニコラウスとイヴリーが それを知る由(よし)もありません。

 ある夏の日、ニコラウスとイヴリーが閉じ込められている隣の獄舎 - 古井戸跡を改築した、あの恐ろしい水牢 - に 初めて若い囚人が送られてきました。その青年は、駱駝の毛衣で出来た修道服のような着物を身につけ 腰を革の帯で締めていました。実際には この30年もの間、隣の水牢へ沈められた囚人などは、この男以前には一人もいなかったので、ニコラウスとイヴリーは たいへん驚きました。
「あいつ、よほどの凶悪犯なのではないか 」
「関わるのは よそう。話しかけるなよ、ニコラウス 」
 しかし、隣の獄舎にいる二人に 青年の方から話しかけてきました。
「こんにちは。お二人は お務めは 長いんですか 」
それは おそろしく良く通る、澄んだ不思議な声でした。なぜでしょう、ささやくように話しているだけなのに 彼の声は 牢の外まで聞こえるのでした。
イヴリーに止められるのも振り払って、白ひげのニコラウスは 青年に 返事をしていました。
「われらは もう30年 服役しています。あなたは どなたですか 」
「私ですか ‐ 」
と、その澄んだ謙虚な声が 静かに 暗い地下牢内に響き渡りました。
「私は、ヨハネと申します。人は“荒野で呼ばわる者の声”だと 言います。生まれつき こんなに良く通る声なので 隠しごとが何もできません。いろいろなことがありましたが、ただ正直に 思ったことを口にしただけで、結局 こんな場所へ 送られてしまいました。わが身の不徳を恥じ入るばかりです 」
その時、はるか上の地上にいる番兵が、大声を出すのが聞こえてきました。
「こら、うるさいぞ。牢の者、静まれ 」
「ほらね。こんなに静かに話しているのに 」
ヘロデの宮殿では 今宵 大勢の来客が招かれているらしく、先ほどから かすかに楽の音が この地下まで 聴こえてきました。
「あなたは預言者ですね。どうして こんなところへ入れられるようになったのですか 」
いつのまにか 警戒していたイヴリーも ニコラウスの傍へ寄って来ました。
「ご存知のとおり、預言者とは 神の言葉を“預”かって、神に代わって“言”う者のことです。でも、わたしは不幸なことに 生まれつき“預言”だけでなく“予言”の能力も授かっていたのです。それは 未来の物事が見えてしまうのですよ 」
「不幸なことに ですって? 未来のことがわかるって、それはスゴイじゃないですか 」
「いえ、全然 良くないですよ。本当のことを言うと 皆 喜んでくれません。たとえば、この館の 今の領主ヘロデ・アンティパスさまは、本当は気の小さい 臆病なほど信心深い方で、最初は わたしの話を聴きたいとおっしゃって、わざわざ この館に招き、もてなしてくださいました 」
「でも、そのヘロデ・アンティパスに この牢へ入れられたんでしょ? 」
「正確に言うと、お妃のヘローディアスさまの命令でした。わたしには ヘロデ・アンティパスさまがローマ皇帝からガリア地方に追放され、そこで不幸な最期をお遂げになるという悲惨な未来が見えたのです。その原因を作られるのが、お妃のヘローディアスさまだということも見えました。ですから わたしはヘロデさまに お妃さま とお別れになるべきですと、内緒でご注進申し上げたのです。しかし、この声でしょう。全部お妃さまに聞こえてしまったのですよ。お妃はカンカンにお怒りになられて・・・ このありさまです。ヘロデさまが 恐妻家だったと知ったのも 後の祭り 」
と、ヨハネは ため息をつきました。
「お気の毒に - 」
ニコラウスとイヴリーは 青年を慰めようとしました。しかし、ヨハネは 若さゆえか なかなか元気でした。
「おふたりは30年間もこちらにいらっしゃるなら、きっと地上のニュースは お聞きでないでしょう 」
たしかに、二人は 地上の出来事の情報に 飢えていました。
「今、外では スゴイことになっていますよ。偉大な方がいらっしゃいます。その方のお力で、目の不自由な人も見えるようになり、足の不自由な人も歩けるようになり、病人も清められ、耳の不自由な人も聞こえるようになり、貧しい者にも福音が宣べ伝えられ、亡くなった人も蘇っているのです。その方に比べれば、わたしなんか ちっぽけな存在ですが、そのお方が この世にいらっしゃる前に 神さまの道を整える仕事を これでも一生懸命していたのですよ 」
それを聞いて、ニコラウスは 30年前 東方の三博士のひとり、カスパール師が語っていたことを まるで昨日の言葉のように思い出していました。
 ―  「そのお方さえいらっしゃれば、この世の中から 争いも病気も貧富の格差も全部なくなる。そして人々は死に別れた親兄弟とも再会して みんなで平和のうちに暮らせるようになる ・・・ 」
 ああ、そのお方が 遂にいらっしゃったんだ、30年前 ベツレヘムのイヴリーの宿屋の馬小屋でお生まれになられた後、ヘロデ王の魔手を逃れて無事エジプトへまわられ、そして 今になって このユダヤの地で 福音を宣べ伝えておられるのか - 。神の御子は、間違いなく 地上にいらっしゃるんだ !

 ・・・その時です。
 牢の外から ナーマンという名前の アフリカ出身の大男の役人がヨハネを呼びに訪れました。
「ヨハネ、外へ出ろー 」
「おや、もう釈放ですか 」
「いいから、はやく支度しろー 」
ヨハネは 自分の身体を水中から持ち上げながら、二人に言い残しました。
「わたしには あなた方の未来が見えます。もう少しの辛抱です、お二人とも 救い主キリスト・イエスのお力で、間違いなく 牢獄から安全に出してもらえますよ。 ・・・ええと、その前に あなた方の 牢獄は別の場所に移りますね。出られるのは その後です。そして、お二人とも 別れたご家族と無事に再会していますよ。それが わたしには見えます 」
ヨハネの予言を聞いて、イヴリーは 彼の息子イエスと妻エリサベトを思い出したのでしょう、心から嬉しそうな顔をしました。ニコラウスも 嬉しい - とは思いましたが、彼の方は すでに30年以上も前に 愛する妻子と死別してしまっていましたから、予言を信じて喜ぶイヴリーの表情を見ると、淋しさを隠せなくなりました。
「・・・ ヨハネさん、気をつけて 」
「これで お別れなんでしょうか、ヨハネさん 」
最後に二人は 元気な預言者に声をかけました。
「いやー、まだまだ頑張りますよ。ただ 残念なことに、わたしは 自分の未来だけは見えないのですよ 」
そう言うと 彼は にこやかに手を振ると、地上へつながる暗い牢道をゆっくりと昇ってゆきました。しかし、その後ろからは、不吉な指輪をはめた黒人の役人が着き添っていたのです。

次回 バラバの父」 に続く・・・

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文章:“ スケルツォ倶楽部 ”発起人
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