アフター・シュトラウス 1911年 R.シュトラウス 楽劇「ばらの騎士 」ワルツ
2010年04月30日23:35
☆ アフター・シュトラウス & “バイ・シュトラウス”
スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
「アフター・シュトラウス & “ バイ・シュトラウス ”」
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1911年 リヒャルト・シュトラウス
楽劇「ばらの騎士 」 のワルツ



ジョン・バルビローリ指揮 John Barbirolli
ハレ管弦楽団 Halle Orchestra
録音:1966年8月 ロンドン (注 * 国内盤には 「1978年録音 」 との誤記あり )
EMI (東芝EMI/TOCE-1212)
(「美しき青きドナウ 」、「雷鳴と稲妻 」、「『ジプシー男爵 』序曲 」、「常動曲 」、「ラデツキー行進曲 」、「金と銀(レハール ) 」、「シャンペン・ポルカ 」併録 )
ジョン・バルビローリは、1953年以来 ロンドンの夏の風物誌として知られるプロムナード・コンサート(プロムス)に、手兵ハレ管弦楽団と共に毎年登場し、毎回「ばらの騎士」ワルツによって締め括られる 名物プログラム「ウィーンの夕べ」のタクトを振ることで知られていました。
バルビローリの「ばらの騎士」の演奏には定評があり、EMIでは カラヤン盤(1956年)以来 久しぶりに この楽劇の全曲盤を 彼の指揮によって新録音する計画があった とさえ言われていたそうですが、マエストロの急逝により 惜しくも実現に至らなかった ということなのでしょう、残念でしたね。もし実現していたら その配役はどうなっていたでしょうか、たいへん興味深いところです。
このディスクの オリジナルのLPタイトルは、「ウィンナ風プロムナード・コンサート “ Viennese Prom Concert ” 」。ジョン・バルビローリが ハレ管弦楽団を率いてスタジオ録音した、ウィーンのワルツを中心としたプログラムです。
「ばらの騎士 」のワルツでは、冒頭から低弦のピッツィカートも 思いきり弾(はじ)け飛び、バルビローリの気合の入った唸り声と共に きわめて精力的に始まります。オックス男爵 の “ お約束の ” ワルツ が始まるのは、04:24頃からですが、 個性的な節回しも素晴らしく、有名な「銀のばら献呈」の音楽をはさんで、蜜のように甘いワルツが延々と楽しめますよ。
▼ こちらはプロムス 「ウィーンの夕べ 」 BBC - Legends(ライヴ )盤。

1969年のプロムス ‐ ジョン・バルビローリ最後の出演の年となった 貴重なライヴ録音が聴ける幸運な日が来ようとは、このディスクを手にするまでは 思ってもいませんでした。上記 スタジオ録音盤に比べると、音質こそ 若干遠め(客席の真上に吊ってあるマイクロフォンで録ったのでしょうか )に感じますが、名演「ばらの騎士 」ワルツの他にも ロイヤル・アルバート・ホールが聴衆のハミングで 歌声喫茶 と化してしまう(!)レハールの「金と銀 」、超低速・急停止・急発進が繰り返される 抱腹絶倒の「トリッチ・トラッチ・ポルカ 」など、決して他では聴けない演奏が目白押しです。
さて、リヒャルト・シュトラウスの楽劇「ばらの騎士 」は、1911年1月26日、ドレスデン宮廷歌劇場で エルンスト・フォン・シューフの指揮、マックス・ラインハルトの演出によって初演され、空前の大成功を収めた、と伝えられます。
オペラが大評判になっていたため、コンサート用に編まれた 管弦楽による編曲作品(組曲、ワルツなど )も多数存在しています。何種類もあるので、以下 整理させて頂きましょう。
「ワルツ第1番 」・・・1944年に R.シュトラウス自身が、第1幕と第2幕の素材から編纂したワルツで、演奏時間 13分ほどの音楽です。
「ワルツ第2番 」・・・編曲者「不詳 」というのも、これだけの有名な音楽に対しては奇妙な話ですが、「第1番」より10年前の1934年に成立した、演奏時間 8分ほどの曲です。冒頭から木管楽器による長いトリルで始まるのが特徴で、主に第3幕からの音楽が素材として使用されています。
上記「ワルツ第1番 」「ワルツ第2番 」が聴ける代表的なCDは、ハインツ・レーグナー指揮 ベルリン放送交響楽団(下左 1977年 ドイツ・シャルプラッテン TKCC-15037)、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(下右 1996年 Decca UCCD-1133)などでしょうか。


私は 後者 ブロムシュテット盤をおススメしたいです。これは、特に「第1番 」で ワルツが本格的に始まってから、低音弦の刻む豊かな音響を見事にとらえた、実に素晴らしい録音です。
シンプルに「ワルツ 」とタイトルされた、フリッツ・ライナー Fritz Reiner による編曲もよく知られていますね。これを収めたライナー自身による指揮/ シカゴ交響楽団による音盤は1957年に録音されたもので、演奏時間は 約8分と 比較的短いです。冒頭の 前奏曲の部分など ちょっと 刈り込み過ぎ だろーって思うほど 端折られています。

それでも このレコードは エリーザベト・シュヴァルツコップフが「無人島に持っていきたい1枚のレコード 」として選んだ(!)という伝説的な逸話によって、たいへん有名になりました。彼女の選んだディスクが、夫であるウォルター・レッグ(EMI )のレコードではなかったことに とても真実味を感じたものです。
オリジナル・カップリングは、これに ヨハン・シュトラウス二世の「朝刊 」、「皇帝円舞曲 」、「美しく青きドナウ 」、ヨーゼフ・シュトラウスの「オーストリアの村つばめ 」、ウェーバーの「舞踏への勧誘(ベルリオーズ編曲 ) 」という 魅力的な選曲でした。
「ばらの騎士 」組曲・・・初演された直後に ナンブアトNambuat(この名はペンネームであり、本名は逆さ綴りの タウブマン N.Taubman と伝えられている )が編纂した組曲。これは 第1曲「銀のばらの授与 」、第2曲「オックス男爵のワルツ 」、第3曲「朝食の情景と三重唱 」、第4曲「終幕の二重唱 」という、全4曲から構成されているものです。

これが聴ける貴重なCDは 古いSP録音からの復刻盤(カール・アルヴィン指揮/ウィーンフィル 1931年6月録音)になりますが、EMI新星堂の「栄光のウィーンフィルハーモニー管弦楽団 初録音集 」というシリーズ・・・実に素晴らしい企画盤でした。
「ばらの騎士 」組曲・・・R.シュトラウス自身が1945年に編纂したものとされますが、一説によると 当時ニューヨーク・フィルの常任指揮者を務めていたアルトゥール・ロジンスキーが、オペラの全曲から選んだ素材を切れ目なく繋ぎ合わせ、あたかも一曲の交響詩のように再構成した作品に対し、多忙な作曲者が これに公認を与えたもの、とも言われます。
概ね 「第1幕の前奏曲 ( - これは かつて レナード・バーンスタインによって、『トリスタンとイゾルデ 』 第2幕のパロディである、と見事に看破された、32歳の元帥夫人マルシャリンと 17歳の少年オクタヴィアンとの 一夜のメイキング・ラヴを表現する濃密な音楽 ) 」 ~ 「第2幕のオックス男爵によるワルツ(R.シュトラウス自身、このメロディの原曲が、実はヨーゼフ・シュトラウスの作曲したワルツ『ディナミーデン Dynamiden Op. 173 』 であることを告白してます ) 」 ~ 「第3幕最後の(マルシャリン、オクタヴィアン、ゾフィによる 極美の )三重唱」という流れまでは 基本的に必須です(但し、終幕の三重唱は、指揮者の判断によって バッサリと落とされることも多いので 要注意 )。
これを基に、コンサート(レコーディング )で 演奏する指揮者によって 原曲のオペラからの場面が 任意に 付け足される ことが多く、それぞれの 指揮者による 工夫の違いを聴くのも 楽しみのひとつ ですよね。冒頭にご紹介した2種類のバルビローリ盤の演奏も これに準じています。
これには名盤が目白押しですが、私の所蔵している手近なディスクで注目盤を探してみると、まずアンドレ・プレヴィンの最初のグラモフォン・レコーディングとして話題になった 1992年10月録音の 端正な ウィーンフィル盤(写真下左 D.G. POCG-1699 これはカップリング選曲が 実に絶妙で、「インテルメッツォ 」からの4つの交響的間奏曲、「カプリッチョ 」から序奏と月の光の音楽、「サロメの 7枚のヴェールの踊り 」が併録されています )、


それから 比較的近年の録音では、ロリン・マゼール指揮/ニューヨークフィル( 写真上右 エイヴリー・フィッシャーホールにおける2005年ライヴ DG )盤の、今にも止まってしまいそうなほど 濃厚な「オックス男爵のワルツ 」の 出だしのテンポと表情、 機会があったら 話のネタに ぜひ一度お聴きになってください。さすがマゼール、悶絶の一語です(「ドン・ファン 」「死と変容 」「サロメの7枚のヴェールの踊り 」を併録)
うーん、 でも やっぱり「ばらの騎士 」なら オリジナルの全曲盤を堪能したくなってしまいました。本日は 意図的に オーケストラ演奏による「ばらの騎士」ワルツ を話題にしておきながら、結局 とうとう最後の最後で オペラの全曲盤という 正論の反則技を持ち出してしまい・・・。お許しください。
今宵は 私にとって「初めての マルシャリン 」だった、エリーザベト・シュヴァルツコップフ に 深い敬意と感謝を捧げる意味で、久しぶりに カラヤンの旧盤で 第2幕 を聴いてから 寝ることといたします。


R.シュトラウス 楽劇「ばらの騎士 」全曲
エリーザベト・シュヴァルツコップフ (元帥夫人マルシャリン )
クリスタ・ルートヴィヒ (オクタヴィアン )
オットー・エーデルマン (オックス男爵 )
テレサ・シュティヒ=ランダル (ゾフィ )
エバーハルト・ヴェヒター (ファニナル )
リューバ・ウェリッチ (マリアンネ )
パウル・クーエン (ヴァルツァッキ )
ニコライ・ゲッダ (テノール歌手 )
ヘルベルト・フォン・カラヤン (指揮 )
フィルハーモニア管弦楽団 & 合唱団
録音 :1956年 EMI(TOCE-11396~98 )
1911年 第一次バルカン戦争勃発。
辛亥革命。
アムンセン、南極点に到達。
ラヴェル、「ダフニスとクロエ」。
マーラー 没(5月18日)
ストラヴィンスキー: バレエ音楽「ペトルーシュカ 」 に続く
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